「意思決定Decision Making)」という文字列は、 いろいろな解説で見かけます。 一般的な単語のひとつとして使われることもありますが、 専門用語のようにして、「意思決定」が研究の対象になっていることもあります。 「意思決定論」と呼ばれたりしています。
意思決定論は、経営者やオフィスで働く人を、読者として想定しているものが多いです。 経営学 の一部にもなっていますので、意思決定論の文献には、経営論や組織論が含まれていることもあります。 このサイトの意思決定論では、意思決定の数理や心理を扱っています。 これらは、経営だけではなく、政治でも日常生活でも使えるものです。
意思決定論では、「選択肢が何かを考える」と、「ベストな選択肢を選ぶ」という2つの手順があります。 当たり前のようにも見えるかもしれませんが、会社の中では、選択肢の検討をしないで、「これしかない」と言った感じで、 新しい仕組みの導入が決まったり、 プロジェクト が始まったりするので、当たり前ではないです。
意思決定論には、2つのタイプに分けられるようです。
「意思決定」をタイトルにしている本には、 「意思決定の重要性の解説」+「意思決定で役に立つ数理の解説」の構成になっているものが、けっこうあります。 このサイト風に言い換えると、「 データサイエンス を活用して、意思決定しましょう。」という内容です。 どういう数理を使うのかが、各著者のセンスや力量の見せ所です。
意思決定論のデータサイエンスですが、比較的古い文献では、 オペレーションズ・リサーチ や、 統計的な意思決定 の話になっています。 また、投資の場面での意思決定としては、 経済性分析 があります。
21世紀に入った辺りから、 リスク の考え方や、扱い方を中心に議論することが多いようです。
データサイエンスを規範や基準にすれば、意思決定の「解(答え)」は、 その規範や基準に沿って決まります。 そのため、客観的な結論として、自分自身も関係者も納得できます。
また、大抵は、ひとつの数値が、最良値として算出されます。 この数値がわかることは、ものすごい「見える化」です。
結局のところ、多くの意思決定論が目指すのは、こういう姿だと思います。
「システム分析入門」 齊藤芳正 著 筑摩書房 2021
「システム分析」というタイトルの意思決定のための分析と、その手順の本です。
問題の定式化、代替案の作成、費用や効果の見積り、といった順番で、状況を分析し、意思決定していく手順になっています。
「意思決定アプローチ 分析と決断」 ジョン・S・ハモンド、ラルフ・L・キーニー、ハワード・ライファ 著 ダイヤモンド社 1999
合理的な意思決定の要素は、「問題(の把握)(Problem)」、
「目的(の明確化)(Objectives)」、
「選択肢(をつくる)(Alternatives)」、
「(選択肢の)結果(を予想する)(Consequences)」、
「妥協点(を探す)(Tradeoffs)」、
「不確実性(の数値化)(Uncertainty)」、
「リスク許容度(の数値化と、リスクへの対応方法の検討)(Risk Tolerance)」、
「関連する意思決定(を心がける)(Linked Decisions)」の8つとしています。
特に最初の5つは核になることから、「PrOACT」という名前になっています。
第10章は、意思決定の中で起きて来る、心理的な罠をまとめています。
「ヒューリスティック(心理的経験則)が働く」、
「アンカリング(最初に受け取った情報の影響)が影響する」、
「現状維持を選んでしまう」、
「過去の支出が、現在の意思決定を歪める」、
「自分の意見に偏る」、
「表現で印象が変わる」、
「根拠の弱い数値が、強く打ち出される」、
「劇的な出来事の記憶が影響する」、
「全体の中での位置付けを忘れ、限られた範囲の情報を使う」、
「数値に気持ちを上乗せしてしまう」、
「ランダムに法則を見つけようとする」、
「劇的な出来事を、確率ではなく、必然的に起こったと考える」
「意思決定の理論と技法 未来の可能性を最大化する」 籠屋邦夫 著 ダイヤモンド社 1997
考え方のフレーム設定、戦略代替案、有用かつ信頼性の高い情報、
価値判断基準、ロジック、関係者全体のコミットメント、
という観点で、意思決定を体系付けています。
「AI時代の意思決定とデータサイエンス」 佐藤洋行 著 多摩大学出版会 2019
会社の中などでデータサイエンスを使っている場面と、意思決定が行われるタイミングの関係をいろいろと述べている感じの本です。
データサイエンスだけで、何かが決まって行くと考えたり、ビジネスが進んで行くと考えたりすることに対して、そうではないことを解説しています。
「意思決定のための「分析の技術」 最大の経営成果をあげる問題発見・解決の思考法」 後正武 著 ダイヤモンド社 1998
統計学の立場ではなく、実務を実行する立場で、分析を論じています。
分析の基本は、「大きさを考える」、「分けて考える」、「比較して考える」、「時系列を考える」の4つです。
それらのバリエーションとして、
「バラツキを考える」、「プロセスを考える」、「ツリーで考える(デシジョンツリー等)」、「不確定を考える」、「人の行動を考える」があります。
「バラツキを考える」は、合否の判定値がある等、ある値を境にして数字の意味が変わる等、バラツキ方が意味を持っている場合の話です。
「プロセスを考える」は、原因分析ができていないと、対策が不適切で失敗する話です。
「決定学の法則」 畑村洋太郎 著 文芸春秋 2004
いろいろな図を、目的によって使い分け、決定に至るまでの思考の流れや、物事の関係を見える形にする方法が、
特長の本でした。
ヒト・モノ・カネ・時間・気が、決定の時に考える要素としています。
気は、他の4つの要素をつないでいるものです。
「分析力のマネジメント 「情報進化モデル」が意思決定プロセスの革新をもたらす」 ジム・デイビス、グロリア・J.ミラー、アラン・ラッセル 著 ダイヤモンド社 2007
情報の扱い方のレベルが、意思決定のレベルに大きく寄与していることを重視しています。
情報価値を最大化するための成熟度のレベルは、
個人→部門→全社→最適化→革新
、の5段階としていました。
順にレベルアップするためのポイントをまとめています。
「マンスキー データ分析と意思決定理論 不確実な世界で政策の未来を予測する」 チャールズ・マンスキー 著 ダイヤモンド社 2020
従来の予測では、予測値を出すために強い仮定を置いているのに、その仮定を抜きにして、予測値が独り歩きすることがよく起きていることについて、
それが起こる理由も含めて、かなりの紙数を使って説明しています。
著者が推奨するのは、点の予測値ではなく、区間の予測値を使うことです。
統計学的には、
点推定と区間推定
があり、これの使い分けは実務の上で大事ですが、この本での区間は、計算が違います。
著者による「部分識別」と呼ばれる計算方法は、データがなくわからない比率があったとしても、それが0から1の間にあることだけは確実なので、
0と1の場合を区間の上限と下限として計算する方法です。
この計算なら、強い仮定はいらないそうです。
「定量分析実践講座 ケースで学ぶ意思決定の手法」 福澤英弘 著 ファーストプレス 2007
意思決定のプロセスとして、目標の明確化、基準の設定、選択肢の抽出、選択肢の評価、決定、の5段階
意思決定の評価軸は、合理性、価値観、感情の3つ。
確実性を定量化する方法として、限界利益、機会費用、埋没コストなどの経済性の計算を挙げています。
確実性を評価しつつ、不確実性として、ばらつきの大きさや発生確率の把握をします。
現実は状況が変わっていくものであるため、
ベイズ統計
の考え方も取り入れています。
「MBA定量分析と意思決定」 嶋田毅 監修 グロービス・マネジメント・インスティテュート 編著 ダイヤモンド社 2003
サンプリング
の注意点や
統計学
の基礎的な解説もありますが、全体の8割くらいは、1ページ1個の形で、ビジネスを評価するための様々な指標の解説になっています。
この本における定量分析というのは、これらの指標を計算して、散布図や折れ線グラフなどで目に見える形にすることになっています。
「不確実性分析実践講座 ケースで学ぶ意思決定の手法」 福澤英弘・小川康 著 ファーストプレス 2009
タイトルが「不確実性分析」ですが、アイディアを出して、意思決定していくまでの各段階での定量的な手法を使った分析の本です。
不確実性そのものの分析ではなく、不確実性も含めた定量的なビジネスの分析の本になっている。
各段階と手法は、
1.アイデアを形にする:デシジョンヒエラルキー(決定していることを、ポリシー・戦略・戦術の3階層で分類)、ストラテジーテーブル(各案と議論の流れの関係を表にする)、インフルエンスダイヤグラム(経営指標の連関図)、モデル化(インフルエンスダイヤグラムを数式で表す)
2.アイデアを定量化する:データに幅をつける(見込み値は、基準値、最大値、最小値の3つを出す)、見込み値の妥当性を確認
3.妥当性をシミュレーションする:What-if分析(成功する場合、失敗する場合の検討)、感度分析(要因の影響度を見る)、モンテカルロシミュレーション(確率分布を計算)
4.不確実性に立ち向かう武器を活用する:デシジョンツリーと期待値計算(ケースの関係を木の構造で表現して、確率の数値も一緒に記載)、リアルオプション(将来に決断する項目を選択肢に入れる)、ゲーム理論(打ち手別に結果を試算)
5.学習と不確実性:逆損益計算法(利益目標を出して、必要な項目を遡って見積もる)、マイルストンプランニング(どの段階で、どの項目を確認するのかを計画)、シナリオプランニング(将来起こることを関係者で検討し共有)
下記の本では、データサイエンスの手法の紹介が、中心になっています。
「都市計画数理」 谷村秀彦 他 著 朝倉書店 1986
この本は、
都市計画
のための本ですが、第4章は、意思決定論の全般に当てはまる内容になっています。
この章では、複合した問題における意思決定の方法は、
システム論
なアプローチとしていて、その具体的な方法は、
概念分析
と構造分析を挙げています。
概念分析とは、何をしようとしているのかをはっきりさせることで、
構造分析とは、数理モデルを検証することを指しているようです。
世間では、総合的な考え方をすることの重要さについて言われていますが、
漠然とした話で終わりがちです。
この章は、思想と、具体的な方法の結び付け方に、ひとつの解を出しています。
しかも、コンパクトにまとまっています。
この章では、ISM、GMDH、決定分析というのが出て来ますが、
このサイトでいうところの、
「GMDH ≒
ニューラルネットワーク
」、
「決定分析 ≒
リスク評価
(発生確率と効用で判定)」、
として、ほぼ対応しています。
「Excelで学ぶ意思決定論」 柏木吉基 著 オーム社 2006
相関係数
・
仮説検定
・
回帰分析
・
数理計画法
・
決定木
・
ゲーム理論
の基本と、実際に使う時の注意が親切に書かれた本です。
意思決定に関わる心理的要素として、
ヒューリスティクス
や、固定観念の影響も解説しています。
「多目的最適化と工学設計 -しなやかシステム工学アプローチ-」 中山弘隆・岡部達哉・荒川雅生・尹禮分 著 現代図書 2007
「しなやかシステム工学」という
システム工学
の一種らしきもので、多目的な意思決定をしようとしています。
「ファジイ経営科学入門」 浅井喜代治 編著 オーム社 1992
意思決定・
数理計画法
・
AHP
・
SPC
・
信頼性解析
・
金融
・
マーケティング
に
ファジィ理論
使う本です。
面白そうなのですが、ファジイを使って何か良いことがあるのかが、
そもそもわかりませんでした。
あいまいな判断を数理に取り込むのが目的のようです。。。
「Q&A:入門意思決定論」 木下栄蔵 著 現代数学社 2004
数理計画法
・
PERT
・
ゲーム理論
・
AHP
・ISMとDEMATEL
・
モンテカルロ法
等の初歩が、簡単な例題で学べます。
「不確実性への挑戦 意思決定分析の理論」 飯田耕司 著 三恵社 2006
いろいろな数理を駆使して、問題に立ち向かう立場をとっています。
数理は「
オペレーションズ・リサーチ
+ α」で著者なりの体系(陣形?)が組まれています。
数理は多岐に渡りますが、それぞれについて丁寧に基本的なことを書かれているように思いました。
「意思決定の基礎」 松原望 著 朝倉書店 2001
この本は、出版されてすぐに大学の図書室に入荷され、
それを筆者は見つけました。
「意思決定論」を勉強し始める、きっかけになった本です。
統計的な意思決定
の話が多めです。
ポートフォリオ分析
・
確率・ベイズ統計
・
情報理論
・
ゲーム理論
・
数理計画法
も登場します。
筆者がこれらの手法を実際に学んだのは、別の本でしたが、この本は、これらの手法を筆者が勉強するきっかけになりました。
「経営意思決定 −価値創造への経営工学アプローチ」 日下泰夫 著 中央経済社 2009
いわゆる大企業の経営のしくみをまとめていて、
経営工学
が問題解決能力の向上に役立つというスタンスです。
環境経営についても触れられています。
内容が平易なので、「企業って、こんなところなんだ〜」、と学生が勉強するには、良い本かもしれません。
数理計画法、経済性工学、AHP、包絡分析法(DEA・Data Envelopment Analysis)が、
具体的な手法として解説されていますが、
そんなに重きを置かれていません。
「意思決定 (go/no go判断) における分析手法の限界と現実的な運用方法」 上村慎一 他 著 サイエンス&テクノロジー 2013
製薬の開発、試験、販売での意思決定の論文集です。
それぞれの著者が、それぞれの立場や流儀で解説してます。
デシジョンツリーやモンテカルロシミュレーション等の数理的な手法もありますが、実際の業務でのポイントが主になっていました。
「「意思決定」の科学 なぜ、それを選ぶのか」 川越敏司 著 講談社版 2020
全体の6割が、期待値、期待効用理論、
プロスペクト理論
までの順番で、リスクに対しての判断の理論の説明です。
残りの部分で、時間選好、社会的選好、認知能力になっています。
時間選好は、将来の利益を現在の価値として換算する理論です。
社会的選好は、他者がいる中で、自分や他者の利益をどのように考えるのかという話です。
認知能力は、直観的なタイプか、熟考するタイプか、という話です。
この本は、意思決定の考え方について、自分自身がどのようなタイプなのかを測定する方法を紹介しています。
「意思決定理論入門」 イツァーク・ギルボア 著 NTT出版 2012
読者が問題を考える形で解説しているのが特徴です。
バイアス、リスク、不確実性等を考えながらの意思決定の本です。
ページ数は多くはないですが、「幸福度と幸福感」という章があるのが印象的でした。
「不確実性下の意思決定理論」 イツァーク・ギルボア 著 勁草書房 2014
経済学の院生向けの本です。
「主観確率の正確さや、合理的な決め方を議論するには、公理的アプローチ」という意味の事が、第二部の最初にあります。
とても興味深いのですが、その内容はわかりませんでした。
「決め方の科学 事例ベース意思決定理論」 イツァーク・ギルボア、デビッド・シュマイドラー 著 勁草書房 2005
事例ベース意思決定理論(Case-Based Decision Theory : CBD)とは、
過去の事例を参照しながら、物事を決めていく方法を、モデル化したものとのことです。
難解な内容でした。
「群れはなぜ同じ方向を目指すのか? 群知能と意思決定の科学」 レン・フィッシャー 著 白揚社 2012
個々は単純なルールによる動きが、全体としては個々からは思いも寄らない動きになっている事が自然界に見られます。
自己組織化
と言います。
何かを理解しようとする時は、要素に分ける事はよくされますが、分けてしまうと分からなくなる事がある事を示しています。
また、個々の動きは、
ネットワーク
の性質につながる話もあります。
この本は、こうした話をした後で、何かに直面した時の、私達の行動指針を示しています。
「意思決定のサイエンス」 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部 編 ダイヤモンド社 2007
この本は、実際に企業の中にいなければわからないような、企業の仕組みの問題点を、
著者がよく理解しているように思います。
☆ 意識の壁 − 無意識に決められている、情報を得ようとする範囲。この外で起きることが見逃される。
☆ 選択バイアス − 成功例ばかり学ぶことの弊害。
☆ RAPIDモデル − Recommend(提案)、Agree(同意)、
Perform(実行)、Input(助言)、Decide(意思決定)の段階に役割を割り当て、
この順で実施する。
データの分析力の高い企業は、その業界のリーダー的な存在になっているそうです。
例えば、アマゾンです。
こうした企業は、あらゆる部門を分析の対象にして、意思決定しているそうです。
また、社員全体の分析能力の向上に努めていて、
分析能力の高い人(アナリスト)の採用に、熱心だそうです。(米国の話ですが。。。)
「決断という技術」 柳川範之・水野弘道・為末大 著 日本経済新聞出版社 2012
異なる分野の3人の方による対談集になっています。
第1章は、日本人の特徴です。
おおまかには、この特徴の裏返しが、この本の考える意思決定論になっています。
「情報が捨てられない」、「情報を集めると、ゆるぎない真実に近づける、と信じている」、
「決める、ではなく、決まる、になっている」、
「決定を神聖視する」、
「個人が全部知っていようとする」、
「強い部分を伸ばすのではなく、弱い部分を補おうとする」、
「知識の欠如を攻撃する」、
「基礎を必要以上に重視する」
「決定を支援する」 小橋康章 著 東京大学出版会 1988
「意思決定とは何か」を論じた本ですが、
著者は「意思決定を支援する」というスタンスを大事にしています。
「意思決定論 基礎とアプローチ」 宮川公男 著 中央経済社 2005
意思決定を100ページ位で論じた後、
経済学・経営学・決定理論・
決定木
ベイズ理論・システム分析・行動科学の各アプローチの初歩の解説になっています。