リスク評価は、
リスク
を定量化し、比べたり現状把握をしたりする方法です。
「リスク」とは、もともとが
心理尺度
です。
しかし、心理尺度のままだと、工学的・数学的に扱えないので、
リスク評価の話は、工学的・数学的な見地からリスクを定義するところから始まります。
リスクは直接的に測定できない量なので、計算して求めます。 (下記の散布図型は例外で、計算でリスクを求めないです。) 基本は「発生確率」と「影響の大きさ」の2項目を使って、リスクを計算します。
リスクという言葉はいろいろな使われ方をするので、 「発生確率」と「影響の大きさ」のどちらか片方だけが、リスクと呼ばれることもあります。 このページでは、 「発生確率」と「影響の大きさ」の組み合わせで決まるものを「リスク」として話を進めます。
信頼性工学
に見られるような、
機械のリスク
のリスク評価では、
さらに、「発生確率や影響の大きさの見積もりのばらつき」・「発生した時の見つけやすさ」、
といった項目も加えることがあります。
下記ではこれらの項目を使ってリスクを計算する方法を説明しますが、
煩雑になるので、「発生確率」と「影響の大きさ」の2項目だけで話を進めます。
「発生確率」や「影響の大きさ」という量の単位は、いろいろ考えることができます。
発生確率の単位ですが、
「確率」だからと言って、「%」だけが使われているわけではないです。
主観的な評価や、経験から、「だいたいこの位だろう。」と推測するような場合には、
点数付けする方法があります。
例えば「1〜5までの点数をつける」のような感じになります。
この場合、単位は「点」です。
「発生がまずあり得ない時は1、頻繁に起きる時は5。」と言った感じです。
影響の大きさについても同様の点数付けができます。
測定の難しい量を、点数付けによって見積もることは、 アンケートの考え方と同じです。
リスクの定義は大きく分けて、3種類あります。 「掛け算型」、「足し算型」、「散布図型」です。 掛け算型がポピュラーです。
しかし、 リスク認知 という観点では、足し算型や散布図型の方が人間の感覚に近いです。
環境リスク や、 信頼性工学 では、「リスク = 発生確率 × 影響の大きさ」とします。 発生確率は、生起確率とも言われます。 掛け算型は、数学の確率論で期待値と言われているものと同じです。
毒性の話ですと、 「リスク = 暴露量 × 毒性」、とする場合もありますが、 概念的には「毒性 → 影響度」、「暴露量 → 発生確率」と読み替えられますので、 リスクの考え方は同じです。 また、手法によっては、上記の2変量の掛け算ではなく、3変量や4変量の掛け算で算出しますが、 考え方は一緒です。
この方法は、発生確率と影響の大きさの両方を点数で評価して、
両者の単位を「点」で同じにすることによって、実現します。
(そうしないと、
次元解析
的におかしな式です。)
散布図型は、「リスクマップ(R-map)」や「リスクマトリックス」と呼ばれることがあります。
発生確率と影響の大きさを散布図にプロットしてみて、位置関係を見ます。
「発生確率と影響の大きさの両方が高い。」、とか、
「発生確率は高いが、影響の大きさは小さい。」とかです。
点数付けで、発生確率と影響の大きさを見積もって、
「発生確率と影響の大きさの、どちらか片方でも5になれば、却下。」、という判断は、
この方法に当たります。
「即決」という言葉がありますが、 人間は一瞬で 意思決定 して、行動することがあります。 スポーツが好例です。 そういう時のリスクの感じ方に近いモデルだと思います。 また、「即決」に限らず、日常生活で判断する時のリスクモデルも、 散布図型だと思います。
散布図型では、グラフを碁盤の目のように区切って、
どのブロックに入るかでリスクを評価することがあります。
このような評価では、足し算型と結果的に同じことをしている時があります。
上記の定義で良さそうですが、いくつか注意点があります。 リスク認知 のところで書いたもの以外には、下記があります。
リスクを見積もる時には、
「こうなった場合は・・・」、「こういうパターンの場合は・・・」、
というようにして、リスクが発生するシナリオを作ります。
あらゆるシナリオを想定するのが理想です。
もしも、全シナリオを網羅できれば、それらの発生確率の合計は、1になるはずです。
機械リスク
の場合は、シナリオの範囲が工場内だけであったり、
特定の装置だけであったりするのでまだ良いです。
しかし、
化学物質リスク
の場合は、範囲が関東一円とか、地球全体になるので大変です。
化学物質リスク
を評価している機関では、シナリオの内容を公開し、
多くの人のチェックを受けることで、精度の向上を図っているようです。
「環境リスク心理学」 中谷内一也 著 ナカニシヤ出版 2003
リスクを確率と影響の大きさで測ろうとする立場と、
確率を離れてリスクそのものを測ろうとする立場について、書いています。
「リスク評価の知恵袋シリーズ」 中西準子 他 著 丸善 2007
化学物質のリスク評価の本です。全3巻になっています。
「大気拡散から暴露まで −ADMER・METI-LIS−」
「不確実性をどう扱うか −データの外挿と分布−」
「リスク評価の入口と出口 −シナリオとクライテリア−」
「統計的モデリング/情報理論と学習理論―データと上手につきあう法」
小西貞則・竹内純一 著 講談社 2008
回帰分析
の延長にある
ロジスティックモデル
を使ったリスク評価があります。
端的に言うと、1と0だけの2値データを確率データに変換する方法です。
「モダン信頼性工学」 熊本博光 著 コロナ社 2005
副題が「リスクの数値化と概念化」です。
リスクについての解説が詳しいです。
「安全学入門」 古田一雄・長崎晋也 著 日科技連 2007
信頼性工学の手法の解説があります。
「最新 リスクマネジメントが よ〜くわかる本」
東京海上日動リスクコンサルティング株式会社 著 秀和システム 2004
具体的な
リスク管理
の方法が、JISQ2001に沿って体系的にまとまっています。
掛け算型では、重大な項目の優先度が下がる場合があるとして、
重みを付けた足し算型(重回帰式型)を使っている機関があるそうです。
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