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化学物質リスク

化学物質によるリスクには、 工場の廃水や農薬に含まれている物質のように、「体に悪そうなもの」と思っている物質のリスクが代表的なものです。 正反対の評価をしているものに、「体に良いもの」と思っている物質の有効性評価があります。

分野

化学物質リスクを扱っている分野を探すと、手法や考え方という観点では、 「リスク論」・「リスク解析」・「 リスク評価 」・ 「安全性評価」・「環境アセスメント」等があります。

また、扱っているリスクの内容という観点では、大きく2つの分野になります。 ひとつは、「環境リスク」とも言われる分野で、 化学物質が環境を通して、 生態系 や人間に悪影響を与えるものです。 大気や水で薄まっても危険性が残る物質が含まれます。
もうひとつは、工場では「安全衛生」として扱われるもので、 劇薬を直接触ったり、吸い込んだりするリスクです。

リスクを表す尺度

様々な 尺度 があります。 これらの尺度によって、リスクの定量的な比較をします。 下記には、「毒性」として知られる尺度も、リスクの一種として入れました。

リスクの評価方法

大きく分けて2種の目的があるようです。方法も異なります。

リスクの量の推定・リスクの有無の検定

推定は、例えば危険となる量を求める作業です。 検定は、暴露の有無で集団に有意な差があるかを調べます。 いずれも 統計学 の方法です。

異なる分野間のリスクの比較・リスク−ベネフィット評価

リスクとどう向き合うかを考えるための方法です。 リスクを何らかの量に換算して差を見ます。

異種格闘技戦のようなものですから、 非常に困難なテーマです。

リスク評価の各論

気候工学

気候工学は、地球温暖化等を人工的にコントロールしようとする学問です。 多くの方法論では、大気中に化学物質を散布する事が提案されているようです。

従来の化学物質の問題は、意図せずに拡散してしまったケースだと思いますが、 気候工学は、意図的に拡散させようとします。 当然の事ながら、提案されているアイディアには、不確定事項が山ほどありますし、反対意見もたくさんあるようです。 化学物質を散布する事自体は簡単ですが、その効果や影響を考え始めると、非常に多様で複雑な事になっています。

もしも気候工学に頼らざるを得ない状況になるのなら、これまでにない規模で リスク学 が使われることになると思います。 また、 小さな実験 をするにしても、単なる 実験計画法 でどうにかなるものではなく、大規模な 環境影響評価 も含めたものになると思います。


気候工学は、最近1、2年で耳にするようになった話です。 最初はSF程度に考えていましたが、、、 SFで済まないような気がしています。





参考文献

環境と健康データ」 柳川堯 著 共立出版 2002
データサイエンス のシリーズ本の第9巻です。
「リスク解析で扱うデータは、既存の 統計学 で扱うものとかなり異なる」と述べています。 検定 の意味合いの違いと、有意水準の決め方の違いが解説されています。
一般的な検定(例:薬剤の有効性評価)  : αを消費者危険、βを生産者危険と考えて、αを0.05に設定する。βは0.2程度を考えています。  αが0.05とは、薬剤が効かないのに効くと判断して困る人(消費者)を0.05以下にするということ。  βが0.2とは、薬剤が効くのに効かないと判断して困る人(生産者)を0.2以下にするということ。  消費者の危険を小さくするように設定しています。
リスク検定(例:毒性物質の有効性評価) : αを生産者危険、βを消費者危険と考えます。 毒性を検定する場合には、消費者危険と生産者危険の関係が逆になる。  αとは、毒性がないのにあると判断して困る人(生産者)、βとは毒性があるのにないと判断して困る人(消費者)。  この考え方で、消費者のことを考えると、βを小さくすることを優先する必要があります。  一般的に、βを小さくするには、αを大きくする必要があるので、αを0.1にすることを推奨しています。
回帰分析 による評価があります。この応用として、複合汚染の評価で、 グラフィカルモデリング が使われています。
信頼性工学 では、ワイブル解析で機械が壊れるタイミングの解析をしますが、 これと同じ数理を使った、生存時間の解析があります。
・がんの発生は、複数の段階の結果として表われるそうです。 そのモデルは、「K段階モデル」と言われています。


リスク科学入門―環境から人間への危険の数量的評価」 松原純子 著 東京図書 1989
アプローチとして、疫学・ 信頼性工学生態系 が出てきますが、題材としては放射線関係が中心です。


はじめの1歩! 化学物質のリスクアセスメント ―図と事例で理解を広げよう―」 花井荘輔 著 丸善 2003
化学物質のリスク評価の教科書的なもの


リスクってなんだ? ―化学物質で考える」 花井荘輔 著 丸善 2006
読み物風。従来は毒性影響評価が多かったが、暴露評価が重要とのこと。


確率論的リスク解析」 ベッドフォード T ・ クック R 著 シュプリンガー・ジャパン 2006
損失余命の話があります。


安全学入門」 古田一雄・長崎晋也 著 日科技連 2007
リスクの捉え方のひとつとして、環境リスクの考え方も取り上げられています。


リスク解析学入門」 D.M.カーメン・D.M.ハッセンザール 著 中田俊彦 訳 シュプリンガー・フェアラーク東京 2001
教科書として作られており、 豊富な例題で理解を深められるよう工夫されています。 「深める」には、良い本のようです。 内容は、毒性・病気・曝露・事故と続き、 意思決定論 になっています。


環境リスク学」 中西準子 著 日本評論社 2004
中西氏の研究の軌跡について。縦書きで自伝風の本です。
筆者は、日本国外の環境リスクの動向をほとんど知りませんが、 少なくとも日本においては、中西氏が環境リスクのパイオニアのようです。 仮にまったく異なるアプローチや、もっと良い方法が今後出てくるとしても、 それらを作り上げるための参考になると思います。


演習 環境リスクを計算する」 中西準子・益永茂樹・松田裕之 著 岩波書店 2003
LCA と組み合わせた経済効果の解析が含まれています。


化学物質リスクの評価と管理」 中西準子・東野晴行 編 丸善 2005
各分野のリスク評価の方法


くらしの中の化学物質−リスク削減のために」 化学物質リスク研究会 編 かもがわ出版 2004
水俣病・シックハウス・子供の病気・ごみのリスクについて


気候工学

気候工学入門 : 新たな温暖化対策ジオエンジニアリング」 杉山昌広 著 日刊工業新聞社 2011
筆者が読んだ時点で、日本で唯一の気候工学の本のようです。 気候工学と、その周辺の現状について、賛否両論を平等に扱っています。
「大気汚染がある内は、その汚染物質が原因で地球温暖化がある程度抑制できるが、 大気汚染が改善されて来ると、地球温暖化が加速する。」という話があるそうです。初めて知りました。




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