脳科学 における思考や判断の話は、 行動科学 につながって来ます。
意思決定論 では、合理的で完璧な思考が解説されることがありますが、必ずしも、それがベストではないです。 特に、瞬間的な思考が必要な場面では、このページのプロセスが使われます。
前の経験の影響を受けて、判断してしまう効果
ヒューリスティクスは、経験則や発見的方法とも呼ばれます。
何かの対応をしなければいけない時に、 たとえ合理的で最適な対応案があるとしても、 その対応案を考えるのに時間がかかって、対応が間に合わなかったら、意味がありません。 こういう場面は、日常生活の中でもあります。
人間の 意思決定 は、必ずしも合理的な結論ではなく、 経験が根拠になっていることが多々あります。 ヒューリスティクスの重要性は、スピードにあります。
ヒューリスティクスの仕組みについては、 環境心理学 ・ 認知心理学 ・ 意思決定の心理学 ・ 行動経済学 で研究されています。
機械学習 として知られている方法は、合理的かどうかに関わらず、統計的に多ければそれを事実として学習しますので、 ヒューリスティックな方法と言えるようです。
例えば、「朝ごはんに卵が入っていた」、「午後に雨が降る」というデータがたくさんあれば、
「朝ごはんが卵 → 午後は雨」
という経験則が導かれます。
例えば、 品質学 の分野で技術的な調査をする時は、ヒューリスティクスだけで結論を出したり、何かを断定するのは、危険な事があります。 ヒューリスティクスをヒントと考え、これを原理原則などで裏付けを取ると、革新的でかつ強固な調査になる事があります。
人間の
認知と学習
や、思考と判断の仕組みを
人工知能(AI)
に当てはめると、下図のような感じになりそうです。
回帰分析 のように、もともとは人間の仕組みの研究とは違うところで考案された方法だとしても、 人工知能に応用できます。 例えば、YとXが無関係としか考えられないものなのに、 相関性 が高い場合、 ヒューリスティクスとしてこれを利用する場合は、人間の仕組みに近い利用法になります。
ただし、 因果推論 の分野では、「相関と因果は、異なる」とよく言われていることです。 あくまで、「ヒューリスティクスとして」という点に注意が必要です。
アナロジー の解説書もそうですが、 現象学 でも、人間がアナロジーから学習を進める話があります。
人間は、まったく異なる分野だとしても、スキーマが似ていると、片方から片方を補う技を持っています。 これができるので、まったく異なる分野でも、ゼロからではないスタートができます。
強化学習 や アソシエーション分析 は、学習した時のデータと同じか、そのデータに対して、同じようにして収集されたデータに対して使うことはできるのですが、 まったく異なる分野のものは、難しいです。
人間は、 ネットワーク 構造と、木構造を持ったような オントロジー を持っていて、学習したことをこれに追記(マッピング)していくので、 人間の方が、高度に抽象的なスキーマを扱えるというなのかもしれません。 こうした方法として、 圏論の応用 があります。
「類似と思考 改訂版」 鈴木宏昭 著 筑摩書房 2020
・3つの主張があると冒頭にあるのですが、1番目と2番目はつなげた方が理解しやすいようです。
@+A 思考は、ルールではなく、類似に基づいて行われている。
B 類推は、2つのものの対応関係ではなく、抽象化という第3のものを介して行われる。
・人間の思考には文脈依存性があり、正解を導くためのルールは簡単であっても、問題文の書き方で正答率が変わる。
人間は、論理学的に物事を思考するという説が古来からあったが、前提は絶対に正しいと仮定したり、前提に書かれていること以外は考える必要がない、
とする論理学的な思考は、人間の日常的な考え方とは合わない。
人間の日常的な考え方は文脈に依存していると考えるのなら、それを成り立たせるものは類似と考えられる。
ただし、文脈に依存した考え方は、同じ内容でも文脈が変わると、難易度が変わってしまうという弱点がある。
・人が持っている概念に対して、人は定義を持っているものとする考えがあったが、ロッシュによってこれが否定された。
人が挙げる定義には、それが指すものの本質的ではない特徴も含まれている。
人は定義ではなく、典型例を持っている。
・類似性の判断は、対象の類似性、関係の類似性、目標の類似性についてが考えられるが、この説には問題がある。
この問題が起きないのが、類似性の判断には抽象化が含まれているという説。
人は対象に対して、カテゴリーを持っていて、カテゴリーは目標に基づく。
例えば、ピストル、爆弾、弓矢などは、形状が似ていないが、これらを同一のカテゴリーで人間が認識しているのは、目標が一致しているから。
このように目的に基づいて抽象度を上げていき、どこかのレベルで同じになれば、2つのものは類似しているものと判断される。
目標に基づく抽象化を、この本では「準抽象化」と呼ぶ。
「メカ屋のための脳科学入門 続 記憶・学習/意識編」 高橋宏知 著 日刊工業新聞社 2017
実験によって、人が「動かそう」と思う前に、筋肉は動かす準備を始めていることがわかっている。
つまり、動かそうと思ってから筋肉が動き始めるのではなく、筋肉の準備によって「動かそう」という意思が起きている。
ただし、これの意味するところは、意思は体の動きに従うしかない、ということではない。
意思が起きてから、筋肉が実際に動き始めるまでに200msの時間があるので、動きを中止するように自分の意思で変更することはできる。
通常は、これによって意思が抑制されるが、例えば、強迫性障害を持っていると抑制ができないことがある。
ミラーニューロンがあるため、他人の行動を見た時に、それを自分の行動のように脳が働く。これによって、他人の模倣ができるようになる。
「心はこうして創られる 「即興する脳」の心理学」 ニック・チェイター 著 講談社 2022
人の言動の背後には、心や、「深い考え」、といったものは実際にはなく、あるのは、その時その時に即興で作られたものだけとしています。
人の言動は、あくまで表面的なものしかないとしています。
心はないのですが、即興する時に過去の記憶が参照されるということは書かれています。
「心を測る」 菱谷晋介、田山忠行 編著 八千代出版 2005
この本自体は、測定、というよりも、
パターン、言語、音楽、イメージ、空間の記憶や認知のメカニズムの話が多いです。
「既存の知識があると、それとの比較によって、新しい知識は記憶しやすい」といった話がありました。
ヒューリスティクスとして、
「外的な要因よりも、内的な要因が注目されやすい」、
「比較的素早く思いつく結論に、飛びつきやすい」、などがありました。
「Excelで学ぶ意思決定論」 柏木吉基 著 オーム社 2006
意思決定
のデータサイエンスを解説し、
意思決定に関わる心理的要素として、ヒューリスティクスや、固定観念の影響も解説しています。
「メタヒューリスティクスの数理」久保幹雄・J.P.ペドロソ 著 共立出版 2009
数理計画法
の解法にメタヒューリスティクスを使います。
「メタ」とは、各手法の集合という意味です。
この本は、手法集であり、手引書です。
「認識と行動の脳科学」 田中啓治 編 東京大学出版会 2008
運動、記憶、行動、等の脳との関係の本。メカニズムの説明がすごく難しいです。
意思決定、道徳的判断、経済的判断と脳の仕組みの関係の研究が進んで来つつあることを紹介しています。
脳に何らかの損傷がある人の行動を観察する方法が多いようです。
終りの方にちょこっと出てくる
意思決定
の話が興味深かったです。
経済的判断をする時の脳のはたらき等が、出て来ます。
「人間の思考は論理的に見えても、かなりの部分がそうではない。
しかし、最適解とはいかないまでも適解を導き出すと言える。
脳に損傷があると、適解が出せなくなる。
だから脳の中に適解を出す仕組みがある。」という内容でした。