扱っている具体的な物が違っていても、物の関係の構造が似ていることを「アナロジー」と言います。 日本語の「類似」と同じ意味です。 例えば、このサイトでは、 情報理論 と 統計力学 のエントロピーがアナロジーの関係にあります。
また、物の関係が似ていることを利用して、 論理的推論 をすることも「アナロジー」と呼ばれることがあります。 この場合は、日本語の「類推」と同じ意味です。
「アナロジー」と書くと、「類似」と「類推」のどちらの話をしているのかがわかりにくいので、このページでは、「類似」と「類推」を分けて書くようにします。
脳科学や認知科学の分野で言われていること、まとめると、以下のように考えると良さそうです。
まず、人間は、感覚などを通して得られた情報について、 すでに持っていものとの類似を判定します。
似ているものがあれば、類推をして、同じ行動をします。 このように類似と類推はセットのようにして使われます。
異なる分野で類似している事がある理由は、ひとつではないと思います。 一般システム理論 のような考え方をするのなら、 ある分野で作り上げた新しい数理体系が、実は自然現象のもっと高次元な部分で普遍のものであるために、 他の分野でも当てはまるのではないかと思います。
人間はアナロジーを好むようです。 何か科学的な進展があると、他の分野にもすぐに当てはめたがるような気がします。 それによって、学問がさらに発展しているのは事実ではないでしょうか。
類推は、「構造が似ている」ということを手がかりにして、豊かな発想をする方法になります。 しかし、一見、類似していても、違う振る舞いをすることはあり得ます。
理学や工学の分野での類推は、実際の物がありますので、類推が成り立っているかどうかの検証がしやすいです。 例えば、 品質工学 では類推がよく使われていて、成否がいろいろ見えています。
一方、社会現象への類推は、検証が難しいです。 上記の エントロピー もそうですが、 カオス(複雑系) 、不確定性原理、相対性理論、等も、社会現象への類推を見かけます。
類推が成功すればアナロジーですが、 失敗すればファンタジーです。 ファンタジーにも関わらず、それをあたかも科学的に証明済みのように述べ、 自分の主張を展開しているような文献も時々見かけます。
このサイトを作るに当たり、いろいろな文献を見ていますが、 アナロジーとファンタジーの境界線がわからないことが多々あります。 切り分けは非常に難しいです。
「アナロジーか?ファンタジーか?」という問題は、 本当は実学で確認したいです。 しかし、それを実行するには、 アナロジーの元になっている学問と、アナロジーらしき学問の両方に詳しくならなければならず、 そうもいかないです。 筆者は、できるだけアナロジーの元になっている分野を確認したり、 数理の整合性を確認したりすることで、とりあえずの検証をするようにしています。
圏論 は数学のひとつの分野ですが、アナロジーを表現する方法として使われています。
認知心理学 と 圏論(カテゴリーの理論) のページに、それぞれの観点でまとまっています。
「アナロジー思考 「構造」と「関係性」を見抜く」 細谷功 著 東洋経済新報社 2011
ビジネスで役に立つ豊かな発想を、アナロジーを使って出すために必要なことを、説明しています。
・アナロジー的な発想は、既存の発想を借りて来ること。
・物の構造を抽象化すると、アナロジーができる。
抽象化の度合いが強いほど、遠い分野から借りて来ることができる。
・アナロジーは仮説なので、本当にそうなのかの検証が必要。
「決め方の科学 事例ベース意思決定理論」 イツァーク・ギルボア、デビッド・シュマイドラー 著 勁草書房 2005
人間の推論には、推論規則に基づいた演繹、確率的な推測、類推の3つがあるものの、類推については、数理化が進んでいないものとして、類推の数理モデルの構築を目指した本として書かれています。
それが事例ベース意思決定理論です。
筆者には難解な内容で読み取れたのは、下記の2点です。
@ 近傍法
の一種で、過去に起こった一番近い行動を選ぶというのが数理化のポイントのひとつ。
そのためには類似度を使う。
A 単純に類似していれば良いのではなく、「過去にはうまく行った」という評価も数理化のポイント。
この点には、
効用関数
を使う。
この理論を実際に使う時には、言語で表される行動をどのように数値化するのか、言語の類似度をどのように数字で表すのか、といった作業が必要と思うのですが、
そういった話は書かれていませんでした。
そういった作業ができている前提で、理論を検討しているようでした。
「アナロジーで解く高校生のための工学入門」 宮内則雄 著 批評社 2015
各種の工学でアナロジーになっている部分と、各種の工学の特殊な部分に分けることで、工学に入門できるように作られている本です。
・力学と電気回路
・電気回路と磁気回路
・熱力学と電気回路
・音響工学と電気工学
・粘性流体の圧力損失と、電気回路のオームの法則
・光工学と電磁波工学
・量子力学的波と電磁波
「伝熱学」 菊地義弘・松村幸彦 著 共立出版 2006
最終章が「アナロジー」となっていて、熱、物質、運動量の移動が全く同じ式で表せることが示されています。
「フェヒナーと心理学」 山下恒男 著 現代書館 2018
19世紀の学者であったフェヒナー氏について、まとめた本です。
精神物理学の創始者で、精神物理学というのは、人間の感覚、認知といったものを、物理学的にアプローチするもののようです。
フェヒナー氏は、物理学だけでなく、美学、宗教、なども範囲としていたそうです。
フェヒナー氏は、アナロジーを多用していて、4種類に分かれる。
「部分−全体」、「内的−外的」、「入眠−覚醒」、「自由−決定論」。
「アナロジーによる機械翻訳」 佐藤理史 著 共立出版 1997
アナロジーを使った機械翻訳の方法を提案しています。
アナロジーによる機械翻訳では、翻訳例をたくさん用意して、一番近いものを真似ます。
(近傍法と似たアプローチをしてます。)
「進化するシステム」 中丸麻由子 著 ミネルヴァ書房 2011
数理社会学
の本です。
生物が進化していく仕組みのアナロジーで、「利得の高い人の行動を真似るという意思決定を人が行う」という仮説を立てて社会システムを研究する話があります。
「カオス・ポイント―持続可能な世界のための選択」
アーヴィン・ラズロ 著 日本教文社 2006
最近の社会現象や、歴史的な事実の断片を取り上げ、それらを裏付け資料として、
カオス
の理論(の体系)で社会現象が説明できるとしています。
そして、現在や未来の状況をカオスの言葉で表現し、
人類や読者に対し、どのように生きていくべきなのかを論じています。
「《類似》の哲学」 原章二 著 筑摩書房 1996
文化的な作品の中には、類似したものがあり、時には、「本物とコピー」、「本物と偽物」という関係になっているのですが、
著者は「類似」ということ自体に味わいを感じているようです。
この本は、そのような味わいをまとめたような内容になっています。
順路
次は
バランスの理論