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認知と学習

認知心理学や脳科学では、人間の認知の仕方が研究されています。

スキーマ

「典型例」や「型」、「パターン」のことです。 これがあるから、細部の情報が足りなくても、相手の言うことがわかるそうです。

スキーマを学習できると、これは アナロジーアブダクション として応用できるようになってきます。

素朴概念

経験的に知っている自然科学のモデルです。 例えば、野球で守備をしている時に、ボールが落ちる場所を予測し、移動し、グローブを出してキャッチするのは、 物理学を知らなくてもできます。

フレーミング

何かを考える時の範囲を「フレーム」、その範囲を定める事を「フレーミング」と言います。

例えば、「一番だった」、という会話をしている時には、 いつ、どこで、と言った事が無意識にありますが、これが「フレーム」です。 フレームがどうなるのかは、その会話が始まる前の状況によって、「フレーミングされている」と言う事になります。

フレーミング効果

フレーミングは無意識にされている事が多いので、とても気付きにくいです。 しかし、その効果は、人の行動の理由にもなります。

アンケート・感性評価行動経済学 では、フレーミング効果が、かなり意識されています。

パターンの学習

人間は細部までのすべての情報を使って物事を考えているのではなく、 限られた情報からパターンを判断して、 パターンに対して行動を起こしている。」、という話が、 認知心理学意思決定の心理学ヒューリスティクス 、と言った心理学関係の分野から読み取れます。

「パターン」という言葉は、 「スキーマ」、「型」、「様式」、「典型例」、「経験知」、「法則」、「定石」、「特徴」という言葉も 同じ事を指していることがあります。

人間の学習には、現実の場面の繰り返しの中で、世の中のパターンを覚えていくことが重要です。 パターンを覚えることによって、物事をスムーズに認識できるようになります。 ちなみに、 ニューラルネットワーク は、人間の脳が学習していく仕組みを、数学に応用したものです。

パターンの学習がうまくできていない部分は、「固定観念」や「思い込み」になってしまいます。 頑固な人にありがちです。 「固定観念」や「思い込み」をなくすには、蓄積したパターンを見直して、更新していくことが必要ですが、 パターンの更新は勇気がいると思います。

人間の認識の範囲

パターン以外のことを、人間が認識するのは、すごく難しいです。 人間は普段、物事の全体を認識していません。 特に、即断が必要な場面では、さらに難しいです。

これは 行動経済学 にある人間の不完全性の議論や、 科学を使う人の不完全性の議論の根拠のひとつです。

意味論

「意味」を考えるのは、とても大事なアプローチで、 製品のデザイン でも、 都市計画 でも必要です。 技術的な分野では、意味をパターンから読みとったり、 パターンに意味を込めて設計を進めるということを、実際にやっています。

「パターン」、「認識」、「意味」の3つは、密接な関係を持っています。 パターンを認識して意味を知ったり、意味を認識してもらうためにパターンで表現したりします。

言語の学習

言語の学習については、 言語の学習 のページに分けています。

人工知能(AI)への応用

機械学習 による学習は、人間と同じではないのですが、類似点があります。

知覚の研究の活用

リンゴの画像を見て、「りんご」と判定するのは、機械学習の中でも 教師あり学習 と呼ばれる方法です。

スキーマの学習と活用

スキーマを学習する方法は、機械学習の中でも 強化学習 になります。

また、 アソシエーション分析 は、たくさんのスキーマを一度に学習する方法になります。 レコメンドシステム として活用されています。



参考文献

学習

脳はこうして学ぶ 学習の神経科学と教育の未来」 スタニスラス・ドゥアンヌ 著 森北出版 2021
人工知能の理論と対比しながら、人間が、生まれてからの学習の仕組みを解説しています。
学習の4本柱は、注意、能動的関与、誤りフィードバック、定着(睡眠)
単純過ぎることは退屈で、複雑過ぎる事は拒否をする。これらの中間で、知っているものとのギャップがあると、好奇心が生じる。
子供の注意の行動に注意するようにして、適切なタイミングで関与する。


脳を活かす勉強法 奇跡の「強化学習」」 茂木健一郎 著 PHP研究所 2007
著者自身が経験的に積み上げた勉強法が、脳科学の理論から考えても良い方法であったことを解説しています。
人間の脳は、 「勉強する --> 報酬(喜び)を得る」という体験が得られると、それを繰り返したくなり、 勉強したことがどんどん身に付くそうです。 この繰り返しが暴走すると、ある分野の天才になれるらしいです。
時間的なプレッシャーを自分自身に与えることや、瞬間的に集中するようにすること、 朝勉強することなど、強化学習を効果的に行うためのポイントも、いろいろと書かれています。


知性の創発と起源」 鈴木宏昭 編 オーム社 2006
決まったアルゴリズムに沿って動く人工知能ではなく、自らアルゴリズムを作る人工知能の開発が念頭にあります。
その目的のために、人間の認知の仕組みや、発達の仕組みを研究しています。
この本は、脳、法、コミュニケーション、言語、等のそれぞれの専門家が各章をまとめています。


知の創発 ロボットは知恵を獲得できるか」 伊藤宏司 編著 NTT出版 2000
群知能の話がほとんですが、 匠の技のような動きがどのようにできてくるのかの研究もあります。


記号創発ロボティクス 知能のメカニズム入門」  谷口忠大 著 講談社 2014
幼児が言語を獲得するプロセスを参考にしながら、自ら言語を獲得するロボットを解説しています。
一般的な 形態素解析 は、辞書が必要ですが、辞書を使わずに、自ら単語を読み取るアルゴリズムもあるそうです。


心をとらえるフレームワークの展開  認知科学講座 4」 横澤一彦 編 東京大学出版会 2022
プロジェクション:できあがった表象を世界に映し出す心のはたらき。 自由エネルギー原理:信念の更新は、ベイズ更新のモデルが起きるが、これを起こすのが自由エネルギーの最小化の原理。 注意するようになると、信念の更新が起こる。 圏論の認知科学への応用:関係の対応付けで認知をする。ネットワーク構造の獲得を確率的な理論で考える。
記号創発ロボティクス:記号創発のモデルとして、確率的生成モデルがある。


現れる存在 脳と身体と世界の再統合」  アンディ・クラーク 著 早川書房 2022
幼児の発達の研究なども参考にして、ロボットが動く仕組みを作ろうとしています。


損傷したシステムはいかに創発・再生するか オートポイエーシスの第五領域」  河本英夫 著 新曜社 2014
意識、記憶、経験といったものに対して哲学的な考察をしている本です。
自閉症スペクトラム を持つ人の研究など、人が学習していく方法にも触れています。


バレット博士の脳科学教室7 1/2章」 リサ・フェルドマン・バレット 著 紀伊國屋書店 2021
合理性とは、資源の消費や蓄積を通じげ、直近の環境のもとで反映することを意味する。
適切な環境にいれば、乳児の脳は、放っておいても、外界に合わせて、チューニングとプルーニングが進む。 よく見るもの、よく聞くものと、そうでないものの区別が進む。 何もない中で育つと、集中力がない、などの問題が成長してから起きる。
脳は、その時の限られた感覚データだけで、行動を決めない。 データ不足を記憶から補う。 自分の頭の中の情報が優先される状況だと、見間違いが起きることがある。
他者といることで、自分の神経系が調節される。そのため、自分の行動は、他者の神経系の形成に対して責任がある。
脳(ニューロン)は、要約の要約の要約データを圧縮して作り出すことができる。 脳は、その圧縮データを全体に統合する。 感覚統合は抽象を可能にする。
社会的現実は、脳が作り出すもの。自由に作ることができる。誰かが「できる」と言えばできることになる。 ただし、社会的現実は、物理的現実の制約を受ける。例えば、言うだけなら「手をバタバタさせれば、飛べる」と言えるが、それは社会的現実にはならない。


メカ屋のための脳科学入門 脳をリバースエンジニアリングする」  高橋宏知 著 日刊工業新聞社 2016
神経細胞、運動、知覚、芸術について、生物的な仕組みを、機械工学的な視点を交えながら解説しています。


音と聴こえ 言語療法と音楽療法のための」 須藤貢明・杵鞭広美 著 音楽之友社 2005
ピッチや和音など、音楽で重要な音の性質と、人間の聴覚や発達の両方を絡めた内容になっています。


認知心理学

メタ認知 あなたの頭はもっとよくなる」  三宮真智子 著 中央公論新社 2022
「知る」、「見る」といった認知は、特に意識することなく日常はしますが、 一方で、「知る時のポイント」、「見る時のポイント」といったものもあって、 「知る」や「見る」という行動の上位にあります。 こうしたものが「メタ認知」と呼ばれています。
メタ認知的知識として、認知の行動に関する知識があります。
このメタ認知の使い方が上手になると、頭の良い使い方になります。


心のしくみを考える 認知心理学研究の深化と広がり」 北神慎司・林創 編 ナカニシヤ出版 2015
認知心理学の教科書の内容よりも、一歩進んだ研究の各論集になっています。
集団による思考 : ブレインストーミングで、他者の共同で思考する時は、他者の存在によって思考が促進する場合と、妨害される場合がある。
自閉症児が、他者の視点に立つことが難しいことの改善として、介入研究があるものの、まだ研究途上のようです。 うまく言ったようでも、般化ができなかったりしています。 アバターは、子供の学習意欲を高めるのに良いようです。


基礎から学ぶ認知心理学 人間の認識の不思議」  服部雅史・小島治幸・北神慎司 著 有斐閣 2015
・誤り : 知識や記憶があっても、それが原因で誤ることがある。
・感覚(五感)の仕組み
・知覚 : 感覚の知覚への変換には、知識や経験を使う。 注意は、情報の取捨選択。 知覚から認知に変換し、脳に取り込む。
・記憶 : 短期記憶と長期記憶
・忘れる : 「忘れる」と「思い出せない」の共通点と相違点。その時に一番印象の強かったことしか思い出せない。 事後の情報で、情報が書き変わる。
・知識 : 概念はネットワーク構造を持っている。 「認知という仕組みがある」という事を意識して、モニタリングやコントロールをするのが、メタ認知的活動。 メタ認知的活動で、学習が効果的・効率的になる。
・問題解決 : ヒューリスティックとは、たいていうまく行くが、うまく行かない時もある方法。 過去の経験や思い込みが、論理的な考察を偏らせることがある。
・意思決定 : 効用と確率を見積もって行うが、この見積もりに心理の影響が起きる。 文脈や理由によって、選ばれるものが変わる。
・サブリミナル : 自覚がなくても、行動に影響するもの


考えることの科学 推論の認知心理学への招待」 市川伸一 著 中央公論社 1997
人間の推論は、論理的に正しいものではなく、スキーマが使われる。 確率的な推論は、確率論的に正しいものではなく、ヒューリスティクスが使われる。
「自己を守りたい」、「期待」、「他者に同調」といったことも推論に影響する。、


認知心理学」 箱田裕司 他 著 有斐閣 2010
認知心理学の40年間の研究の成果をまとめる形になっています。
アナロジー による推論を「カテゴリーに基づく帰納推論」として紹介しています。 一般帰納と、特殊帰納の2つに大別され、 一般帰納は「前提の典型性」、「前提の多様性」、「前提の単調増加性」、「結論の特殊性」の4種類、 特殊帰納は「前提と結論の類似性」、「前提の多様性」、「前提の単調増加性」としています。


情報処理心理学 :情報と人間の関わりの認知心理学」 中島義明 著 サイエンス社 2006
メタ認知・処理資源・記憶・プライミング効果・スキーマ・基準・素朴概念・認知地図・ヒューマンエラー 、の解説がコンパクトにまとまっています。


認知心理学 知のアーキテクチャを探る」 道又爾 他 著 有斐閣 2011
知覚、認識(立体や顔)、注意、表象(スキーマ)、記憶ろいう流れで「見る」の理論ができている。
認知心理学における言語の研究では、単語をどのように知覚するのか、単語(概念)のネットワーク構造や木構造、 単語の受動時と、発語時の脳で活性化している部分の違い、 母語の習得の仕組みについて、実験を踏まえて研究がされている。
この本の問題解決とは、アルゴリズムを使って、ゴールに行くタイプのもの。


認知心理学を知る」 市川伸一・伊東裕司 編著 ブレーン出版 1996
・知覚の成立過程 : 知覚の仕組みの仮説
・イメージの機能的性質 : 知覚とイメージの関係
・記憶の貯蔵庫モデルと処理水準アプローチ : 貯蔵庫と処理水準の2つの考え方
・想起のメカニズム : 想起の起きる仕組み
・概念の構造 : 概念のモデル
・文章理解と知識 : スクリプトの心理的実在性、など
・学習の多様性 : 習熟、知識の加工、洞察
・知識の命題的表現 : 意味やイメージの表現
・LISPによる情報処理モデル : 質問応答ができるシステムを着くつ
・メタ認知のはたらき : メタ認知の発達、障害
・人間の論理的判断 : 心理の中の、課題や論理
・確からしさの判断 : 確率と心理の関係
・問題解決 : 問題解決の進め方
・社会的分散認知 : 認知を個人に閉じたものから社会的なものにする


グラフィック認知心理学」 森敏昭 他 著 サイエンス社 1995
記憶、情報の検索と忘却、概念と言語、知識と表象、イメージと空間の情報処理、認知の制御過程、文章の理解、文章の記憶、推理、問題解決、意思決定


脳科学の外周近く

学習方略の心理学 賢い学習者の育て方」 辰野千寿 著 図書文化社 1997
良い勉強法(学習)の心構え(心理)をまとめています。 キーワードが認知心理学と似ているのですが、認知心理学とは異なる内容でした。


簡単な動きで脳がイキイキ「シナプソロジー」 スポーツジム考案1日10分の若返りエクササイズ」  シナプソロジー研究所 著 カンゼン 2020
慣れない動きによって、脳を活性化させる運動法を紹介しています。



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