自閉症スペクトラムは、発達障害のひとつです。
筆者が、発達障害の中でも自閉症スペクトラムを特に取り上げている理由は、筆者自身が、親として自閉症の子供と関わっている所が大きいです。
自閉症スペクトラムは、子供の発育の過程で、「なかなかしゃべらない」など、他の子供との違いとしてわかってくる場合があります。 私の場合も、それがスタートでした。
また、「 環境と品質のためのデータサイエンス 」という枠組みの中に、自閉症の話を入れた理由は、自閉症との関わりから、 行動科学 の理解が深く、広くなった所が大きいです。 行動科学は、「環境問題解決のための行動」や、「良い品質、良い会社になる行動」を考える上で欠かせないです。
2022年現在、自閉症は「自閉症スペクトラム」と呼ぶのが正確な言い方です。 しかし、文章が冗長になりますので、以下、このページで「自閉症」と書いている時は、 「自閉症スペクトラム」を略しています。
「スペクトラム」が付いていなかった頃は、「この条件を満たしていたら、自閉症」といった判断の仕方をしていたそうです。
「スペクトラム」という考え方は、各個人が、自閉症スペクトラムの中の、どの位置なのかを見ます。 「1から0か」の二択ではなく、「連続した数値の中のどのあたりなのか」という方法になっています。
医学的には、1〜10%くらいの人は、自閉症の傾向が強い分類になるようです。 「ごく一部の人」などとは言っていられない割合と思います。
「自閉症」という名前は、ある一面だけを捉えて付けた名前のようです。
どちらかと言えば、「一つのことに対しての、こだわりが強い」、「五感から得る情報を強く感じる」、「想像的な考え方が苦手」といったことが特徴です。 「自閉」というのは、その特徴をこの症状がない人が見た時の見え方、と思うと良いようです。
自閉症は、「発達障害」と言われるくらいなので、生きずらさがあります。
できることは、いくつかあります。
自閉症が子供の場合は、育児や教育としてできることがあります。 以前は、「愛情をそそぐ」、といった方法論しかなかったようですが、現在は増えています。
ひとつは、ABAのように、自然獲得が難しいことについて、積極的に介入して、発育を支援する方法です。( 自閉症とABA のページにまとめました。)
もうひとつは、行動の特徴の中で、社会的に見て良いところは、その人の「長所」と考えて、それを伸ばす方法です。 これは、科学や文化の歴史の中の偉大な仕事の中に、自閉症スペクトラムの特徴的な行動から生まれたと考えられるものが数多くあるということも、後押ししています。
「療育」という言葉は、比較的最近から使われています。 その名の通り、「治療しながら、育てる」といった意味合いです。
「療育」として、ABA、言語トレーニング、日常生活で自立するためのトレーニングなどが、挙げられることもありますが、2024年の時点では、もっと根本的なところでの療育があります。( 自閉症を治す のページにまとめました。)
「視覚障害のある人のために、わかりやすい色の配置にする。」、 「足に障害のある人のために、バリアフリーにする。」 といった環境を作るための取り組みは、以前から進められています。
自閉症スペクトラムのある人向けには、 周囲や対象を明確に認識しやすくすると良いので、視覚的な表現を工夫すると良いようです。
「自閉症スペクトラムのおはなし」 安原昭博 監修 平凡社 2021
ふりがな付きで自閉症スペクトラムを持つの特徴や、日常生活をする時の工夫を理解できるように説明しています。
「自閉症スペクトラムがよくわかる本」 本田秀夫 監修 講談社 2015
イラストや吹き出しを多用して、視覚的にわかりやすく説明しています。
自閉症スペクトラムを持つ人は、人口の10%。
自閉症になる原因と、家庭環境は無関係。
一方、自閉症の人に家庭環境に対応は大事。
自閉症には、一次的な問題と、二次的な問題がある。
一次的な問題は、発語やコミュニケーションの問題。
二次的な問題は、一次的な問題による、うつ、不安や緊張、PTSD、被害関係念慮。
二次的な問題は、支援で防げる。
できることを尊重する。できないことは無理にさせない。
肯定的な言葉を使って、子供に対策を見出させる。
指示は視覚的に伝える。
一方的な指示や命令ではなく、提案をして、子供と意見をすり合わせて、互いに納得できる結論を出す。
「自閉症スペクトラムのある子を理解して育てる本 」 田中哲・藤原里美 監修 学研プラス 2016
自閉症スペクトラムのある7才くらいまでの子供について、家庭でのふだんの接し方や、問題行動が起きた時の考え方が詳しいです。
人とのコミュニケーションが苦手、自分なりのこだわりがある、初めてのことには不安を感じる、急に予定が変わると腹が立つ、
といういうことは、大小はあっても誰にでも心当たりがあるもの。そのため、自閉症スペクトラムの有無の線引きは難しい。
重要なのは、日常生活に支障をきたすほどになっているかどうかで、
自閉症スペクトラムの特性があっても、周囲の理解や環境が整っていれば、その特性による問題が起きないこともある。
「自閉症スペクトラム児の教育と支援 」 樋口一宗・丹野哲也 監修 東洋館出版社 2014
自閉症を持つ人の特徴や状態について理解を深め、その上で学校での指導や支援をしていく方法の本です。
「知的障害・自閉症のある人への行動障害支援に役立つアイデア集65例」 林大輔 著 中央法規出版 2020
行動障害のある人の施設にいる支援者の方が、施設での具体的な支援のコツをまとめています。
支援者同士の連携の仕方の話も多いです。
「ダメ!」、「違う!」、「〜じゃない!」は、強い反発を生むNGワード。
パニックの対応は、「向かい合う」より「隣り合う」
パニックの発生パターンと、収束パターンを把握する。
「自閉症スペクトラムの子どもたちをサポートする本 理解を深め、支援する」 榊原洋一 著 2017
前半の約70ページが自閉症スペクトラムの特徴で、後半の約100ページが、家庭、学校、社会でのサポートの仕方や、サポートの受け方です。
「自閉症児のためのTEACCHハンドブック 」 佐々木正美 著 学研 2008
TEACCH、は自閉症者の学習や仕事の環境を整えるこで、自閉症者を支援するためのガイドになっています。
ポイントは、目的や手順を、目で見てわかるようにすることで、「構造化」と呼ばれています。
「TEACCHプログラムによる日本の自閉症療育」 小林信篤 編著 学研 2008
TEACCHの実践例について、約10ページずつで、たくさんの方が執筆されています。
「生きづらいと思ったら親子で発達障害でした」 モンズースー 著 KADOKAWA 2016
ご自身の経験を元にされたマンガです。
いつ何が起きて、その時にどう思ったのか、ということを的確に覚えていらっしゃって、
それを素直に表現されていました。
「対策がわかりやすい」、ということもあるのですが、何よりも、本人の気持ちを描いてくださったことが、ありがたかったです。
「発達障害の子の療育が全部わかる本」 原哲也 著 講談社 2011
療育の種類や制度などについて、幅広く紹介しています。
発達障害は、ASD(自閉症スペクトラム)、ADHD(注意欠如・多動症)、LD(学習障害)の総称。
それぞれの対処法は異なるが、ひとりの人に2つ以上が並存することもある。
「ASD<自閉症スペクトラム障害>、ADHD、LD 入園・入学前までに気づいて支援する本」 宮尾益知 監修 河出書房新社 2019
自閉症スペクトラムの他に、ADHD(注意欠如・多動性障害)、LD(学習障害)を合わせて、発達障害として説明しています。
これらの障害があることに気付くためのポイントの話が多めです。
ほめ方、しかり方、のポイントもあります。
「ASD<自閉症スペクトラム障害>、ADHD、LD発達障害の子どもが持っている長所に気づいて、伸ばす本 」 宮尾益知 監修 河出書房新社 2020
発達障害の子供が持つ、感覚の強さや、集中力、表現の明確さを長所と考え、それを伸ばすためのほめ方、しかり方を説明しています。
「心をとらえるフレームワークの展開 認知科学講座 4」 横澤一彦 編 東京大学出版会 2022
Karl J. Friston氏による自由エネルギー原理の理論が、自閉症の症状を説明するものになっています。
自由エネルギー原理:信念の更新は、ベイズ更新のモデルが起きるが、これを起こすのが自由エネルギーの最小化の原理。
情報の不確実性を解消するように作用する。注意するようになっても、信念の更新が起こる。
一般的には、感覚信号に対して、予測誤差が小さくなるように信念の更新が進み、落ち着いて行く。
ところが、感覚信号の方が、予測信号よりも精度が高い状態が続くと、常に更新が起こる。
自閉症スペクトラムのモデルとして、この更新が常に起こっている状態が考えられている。
これによって、抽象的な表現の獲得が苦手、見慣れた環境を好む、慢性的にストレスが高い、という自閉症スペクトラムの特徴を説明できるとしている。
「自閉症」 村田豊久 著 日本評論社 2016
1980年の初版に、いくつかの補足説明を付けたものです。
自閉症の根本原因は言語能力の弱さで、社会的な対応力の弱さはその結果のひとつ、とする学説が、強かった時期があったそうです。
現在のDSM-5という基準は、5,6才まで何も対策をして来なかった子供向けで、2,3才から療育を始めた子供だと、
自閉症ではない、という結果にもなるものになっているので、適切な基準の設定が必要。
「自閉症の世界 多様性に満ちた内面の真実」 スティーブ・シルバーマン 著 講談社 2017
自閉症の研究の歴史の大著です。600ページくらいあります。
訳者のあとがきに、自閉症者は、他人の気持ちを理解する能力に欠ける、他者に共感することができにくい、という理解は、
自閉症ではない人の偏見、と訳者は考えているそうです。
自閉症者同士の日常的なやりとりが、生き生きとしていることから考えると、偏見が起きる原因は、自閉症者と、非自閉症者の感性の違いにあるそうです。
自閉症者の感性を理解し、社会を改善していくことの重要さを説明しています。
「自閉症という知性」 池上英子 著 NHK出版 2019
自閉症のある4人の個人について、それぞれに合ったやり方で進めた
質的社会調査
が元になっています。
自閉症のある人は、コミュニケーションが苦手であったり、物の感じ方が強かったりするので、
その人に取って一番コミュニケーションの取りやすい環境に、著者が入る形で調査を進めたそうです。
自閉症の症状には人によって違いがありますが、言葉で考えるよりも絵で考える方が得意であったり、
五感のひとつで感じたものを別の感覚として認識することが得意なことがあったりします。
自閉症が「自閉」と呼ばれるようなマイナスの側面ではなく、プラスの側面に特に着目していました。
「「自閉症」の時代 」 竹中均 著 講談社 2020
文化の歴史を見ると、突出したデザインや発明には、自閉症の症状から生まれて来たように見えるものが数多くあることを説明しています。
「<自閉症学>のすすめ オーティズム・スタディーズの時代」 野尻英一・高瀬堅吉・松本卓也 編著 ミネルヴァ書房 2019
自閉症を、心理学、精神病理学、哲学、文化人類学、社会学、法律、文学、生物学、認知科学のそれぞれの立場で、
どのように捉え行けば良いのか、という考察をしています。
それぞれの分野の専門家の方が、その分野との接点になる部分を見つけて論考しているのですが、
一部の方は、ご自身のお子さんが自閉症で、そのお子さんの事を書かれていました。
その部分については、〇〇学の専門家、というより、親としての視点になっていて、その二面性が、
自閉症との向き合い方の大事な視点でもあるように思いました。
順路 次は 自閉症とABA