行動科学は、人間の起こす行動を中心に物事を考える分野です。 心理学では、行動の前に心理の動きがあると考えますが、必ずしも、心理が働いていない行動も、行動科学は扱います。
行動科学の分野には、個人によってまったく違うような行動を扱う分野と、 人に共通した行動のクセを扱う分野があります。 このサイトでは、この分類にしてみました。
この分類のイメージを、
言葉の散布図
を使って表すと下図のようになります。
「 行動分析学 」は、「行動分析」という名前なので、行動を分析する方法を体系的に持っているような印象があります。 実際に、行動分析学では、すべての行動を対象にした理論のような説明がされます。
ところが、行動分析学が扱う行動は、どちらかというと、深く考えずに実行するような、日常的な行動が中心です。 日常的な行動は、たくさんありますが、それらを身に付ける方法は同じということに着目するのが行動分析学です。
行動心理学の本には、いくつかの系統があるようです。
ひとつは、行動分析学がその一部になっている分野です。 行動分析学では、強化学習に特化して発展していますが、行動心理学は、強化学習以外についても目を向けています。 行動分析学寄りの方には、基礎理論の探求や応用があります。
もうひとつは、「この行動は、こういう心理の法則がある」といった個別の仮説について、それを検証した成果が集まっているような内容です。 こちらの系統では、人の目をひくような奇抜な仮説が特に取り上げられる傾向があるようです。
人が選択する行動と、その背景の研究、といった内容の データサイエンス 的な研究は、多変量解析が個人のパソコンで実施できるようになる少し前から、活発に研究されています。
「数理モデル思考で紐解くRULE DESIGN 組織と人の行動を科学する」 江崎貴裕 著 ソシム 2022
世の中の様々なルールが、思ったように働かず、悪い時には、逆効果になってしまうようなことを、研究対象としています。
様々なケースを分析して、体系的に分類し、数理モデルを参照しながら、適切なルール作りにつなげようとしています。
ルールの分析の視点は、ルールそのもの、個人、集団、環境の4つ。
「ルールそのもの」は、エビデンスがないなど、そもそもルール自体の正しさに問題がある場合や、ルールが理解されていない場合。
「個人」は、ルールが想定した通りに個人が動かない場合。
「集団」は、ルールが働くことによって、集団としては利益があっても、個人としては損をする場合。
「環境」は、ルールとルールの対象とする人の周りの状況が変化して、ルールの働きに影響する場合。
この本では、4つの観点で、様々なルールがうまく行かなかった原因を分析し、「ルールを設定する時は、こうすべきだった」という見方を、まず、しています。
しかし、ルールを作る段階で、4つの観点を完璧に検討することは、実際にはできないです。
そこで、この本では、ルールを作る時のポイントとして、「フィードバックを得られるようにして、後で柔軟に変更できるようにしておくこと」と、「起こるかもしれないことと、
もしもそれが起きてしまった時の対応を、ルールの設定時に検討していく、
リスク管理
」の2つを挙げています。
システム思考
では、システムの要素の関係のすべてについて、数理で表現しようとします。一面的です。
筆者は、最初、この本のタイトルにある「数理モデル思考」というのは、「システム思考のような話かな?」、
「難解な数理モデルも使っていくような方法の話かかな?」、と思って読み始めたのですが、
そうではなく、上記の4つの観点で多面的にルールを見つつ、それぞれの観点で、データを元にして、シンプルな数理を探るアプローチでした。
「科学と人間行動」 B.F.スキナー 著 二瓶社 2003
筆者が読んだ日本語訳は、2003年の出版です。
行動科学に対しての誤解が多いことに対して、行動科学のバイブルのようなこの本の翻訳を進めたそうです。
原著は、1953年のものです。
行動の科学を「科学」として位置付けようとするところから論じられています。
行動の科学の初期には、このような活動もあったことを知りました。
デカルト:生物が自発的ではなく、外部の刺激に応じて動いている場合があることを示唆。
前半が、行動の科学の立場で、行動の仕組みや、それに情動や罰といったものがどのような意味を持っているのかを説明しています。
後半は、行動をコントロールする話になり、個人による個人のコントロールの後に、組織による集団のコントロールの話になります。
政治、宗教といったものは、集団を自分の考えに合うようにコントロールする機関と考えています。
筆者の知っている心理療法は、個人の生い立ちの中で、親などの個人によって作られてしまった心の動きを改善するものですが、
この本では、これらの機関がコントロールの手段として使う罰を、心理療法が必要な人の原因と見ています。
経済や、教育も人をコントロールしているとしています。
著者は、コントロールの善し悪しは、それによって人間が生存し続けられるか
(生存価が高いか)と考えていますが、一方で、それを誰かが判断して実行できる訳でもない、としています。
「行動分析学 行動と文化」 西川泰夫 著 講談社 1979
副題に「行動と文化」とあるように、行動分析学の研究と、群衆の動きなどの文化的な視点を関連付けた内容になっています。
ネズミを使った動物実験の話がいろいろと出て来ます。
「行動計量学序説」 林知己夫 著 朝倉書店 1993
行動や心理について、数値的な調査をする時の、基本的な考え方や知識がまとめられています。
定説を説明するだけでなく、どのような方法が良いのか、という著者の試行錯誤の過程もあります。
「多変量データ解析法 理論と応用」 柳井晴夫 著 朝倉書店 1994
主成分分析、因子分析、正準相関分析、多次元尺度構成法、など、教師なし学習が多いです。
理論の話が多いですが、行動計量学シリーズの一冊で、例は性格検査などの心理学的な話題を扱っています。
「行動科学における統計解析法」 芝祐順・南風原朝和 著 東京大学出版会 1990
一般的な統計学の本とほぼ同じですが、質的変数同士の関係を分析する方法の、 連関分析が入っています。
「現代心理学と数量化」 高木貞二 著 東京大学出版会 1972
政治行動、購買行動、視聴行動などの行動について、数量化の方法を使ってアプローチしています。
「行動心理学 社会貢献への道」 岩本隆茂・和田博美 編 勁草書房 2006
この本の内容は、「学習心理学」ですが、学習心理学を社会貢献につなげるための名称として、「行動心理学」にしているそうです。
行動分析学では、報酬と罰だけで行動を説明します。
この本の前半ではそのような研究の話なのですが、第8章は「動機づけ」として、報酬と罰では説明できない「やる気」についての研究になっています。
報酬と罰で説明できるのが、外発的動機づけで、説明できないのが、内発的動機づけです。
副題の社会貢献への道にあたる内容は、「不登校」、「動物との関係」、「法心理学」、「環境ホルモンの健康被害」、「神経細胞レベルの研究」、「人工知能の強化学習」
「行動科学への招待」 米谷淳 他 編著 福村出版 2012
「対人行動」という章もありますが、行動関係の心理学の入門書のような内容になっています。
「人間関係の困った!が100%解決する行動心理学」 植木理恵 監修 宝島社 2018
「知っていると、社会生活の中で役に立つことがあるかもしれない」、といった感じの知識集になっています。
「行動の科学 先送りする自分をすぐやる自分に変える最強メソッド」 マイケル・ボルダック 著 フォレスト出版 2015
すぐにやった方が良いのに、すぐにはできなくさせる心のクセと、それの改善方法の本になっています。
「幸せな選択、不幸な選択 行動科学で最高の人生をデザインする」 ポール・ドーラン 著 早川書房 2015
「幸福とは快楽とやりがいが持続すること」という定義を元に、そうなるための生き方や考え方を解説しています。
「人と組織の行動科学 現場でよくある課題への処方箋」 伊達洋駆 著 すばる舎 2022
会社組織の諸問題について、学術的な研究成果がまとめられています。
平易なことを、きちんと研究したような内容になっています。
「人材マネジメント用語図鑑 組織運営でも人事施策でも使える、組織論と行動科学の最新知識」 伊達洋駆・安藤健 著 ソシム 2021
組織作りについての学術研究を一般向けに解説しています。
「人と組織のマネジメントバイアス 組織論と行動科学から見た」 曽和利光・伊達洋駆 著 ソシム 2020
会社の人事担当者の立場で、離職者を減らしたり、組織を活性化するための考え方を論じています。
「〇〇すると××」や、「〇〇すべき」のような形で語られることで、間違っていることを「バイアス」と呼んでいます。
この本は、バイアスの例を45個紹介しつつ、○○や××の正しい理解や対処法を紹介しています。
学術研究や、リクルート社の取り組みを正とするスタイルです。
一方で、この本を読む中で、何が正になるのかは、その会社によって違うことも、含まれている感じでした。
この本でバイアスとして紹介されていることについてだけでなく、正解として紹介されていることについても、
何が正しいのか、という結論は、一度、自分で検証して、自分なりの考えを持つことが大事なように思いました。
筆者は、行動科学の主要なキーワードは、「行動」と「学習」です。 その観点で、可能な限りたくさんの本を見るようにしています。 以下は、キーワードは同じなのですが、意味合いが違う本でした。
「行動の時間生物学」 井深信男 著 朝倉書店 1990
生物の体内に体内時計のようなものがあって、周期的に起こる行動が対象になっています。
「行動の科学としての地理学」 ピエール・ジョルジュ 著 大明堂 1971
地域の状況を対象とする地理学として、行動地理学を提唱しています。