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応用行動分析学(ABA)

応用行動分析学は、行動分析学を使って、行動の学習や改善に使われます。

応用行動分析学は、「ABA(Applied Behavior Analysis)」という略称でもよく知られています。 ABAは、 自閉症スペクトラム を持っている人の、行動の学習や改善の方法として解説されることがとても多いです。

行動分析学と応用行動分析学

応用行動分析学の元になっているものが、行動分析学です。 行動分析学と応用行動分析学の解説書は、かなりの部分が同じです。 「行動分析学」は、「分析して終わり」という訳ではなく、行動の改善までつなげることまで含まれています。

違いとして、行動分析学では、「行動はこういう仕組みで起こる」という実験的な研究による検証を重視しています。

応用行動分析学では、実験的にわかったことを手がかりにして、現実の具体的な問題の解決を進めようとします。

認知心理学と応用行動分析学

応用行動分析学には、行動を学習する方法と同じ方法で、物の概念を学習する方法もあります。 「歩く」と言った行動だけでなく、「りんごを見て『りんご』と言えるようにする」といったことや、 「大きい方を選ぶ」、「赤いものを選ぶ」といったことです。

物の概念も、行動として学習します。

人が物の概念をどのように認知するのかという事は、 認知心理学 で研究されています。 現象学 でも扱われます。

これらの分野において、認知の仕組みの研究は深遠なテーマなのですが、 応用行動分析学では、シンプルな形で答えを導いて、社会の問題解決に活用しています。

行動の分析

行動の結果、良い事が得られる時、その良い事を「好子(こうし)」や「強化子」と呼びます。 行動の結果、悪い事が得られる時、その悪い事を「嫌子(けんし)」や「負の強化子」と呼びます。

行動分析では、行動が起きる時には、その後に必ず好子があると考えます。 行動が起きない時は、2通りあり、好子がないか、嫌子があるか、のどちらかと考えます。

行動の分析の合理性

行動と好子や嫌子の関係が、他人から見て合理的かどうかは、行動の分析では重要ではないです。

その人にとって、そういう関係が成り立っていると考えます。 合理的かどうかに関わらず、その人は、過去にその関係を経験して、それがその人にとっての現実になっていると考えます。

ABC分析

行動分析の基本は、ABC分析です。 ABCというのは、行動の最小単位を3段階に分けることを、象徴的に表現しています。

Cがわからない場合

いくら観察しても、Cが何なのかがわからないことがあるのですが、大きく分けると2つの場合あります。

ひとつめは、Cは、行動をする人にとっての、得や損なので、他人から見るとわからない場合です。

もうひとつは、実際にCはない場合です。 こうなってしまう場合は2つあり、まず、過去に、A、B、Cの順に起きて、Cの印象が強かった場合です。 Cが起きることはなくなったとしても、Cが起き続けることを期待してAが起きるとBをしてしまうようになります。 ギャンブルがやめられなくなる原因や、自分の意見を改善できなくなる原因として考えられます。

また、繰り返し同じA、B、Cを経験した場合も、Cが起きることがなくなった後に、Aが起きるとBをしてしまうことが考えられます。 クセになっている行動や気持ちの原因として、考えられます。

オペラント行動

オペラント行動というのは、Aがあまり重要ではなく、BとCだけで決まっているような行動です。 行動分析の文献でよく使われる言葉です。

レスポンデント行動

レスポンデント行動は、Cがないような行動で、刺激があるとその反応として起こる行動です。

行動分析の応用

行動分析学では、分析だけでなく、分析した結果を応用していく方法も研究されています。 応用は、大きく分けると2種類あります。 行動の学習と、行動の改善です。

行動の学習

行動のABCの仕組みを使って、新しい行動を身に付ける方法にします。 基本は、好子を用意して、新しい行動をするとそれが得られるようにします。

好子が効果的に働くようなノウハウがあります。

行動の改善

既に身に付いている行動が好ましくない行動の時は、それを改善する方法としてもABCの仕組みを使います。

行動分析の適切な使い方

行動分析の分野では、相手が子供だからと言った理由で、考慮されることはないようですが、実際には、支援される側が、支援する側の意図を読み取っているということも起きます。 行動分析を応用して、人の学習や改善を支援する方法には、支援されている側から見ると、「コントロールされている」という風に見えることがあります。 そうなってしまうと、たとえ、支援される人にとって良い事だとしても、される側にとって、あまり良い気持ちはしないです。

また、行動分析が一番効果があるのは、何も考えずに無意識でもやっている行動なのですが、その人の中で意識してやっている行動についても、 同じ方法で改善ができるような説明になっていることが多いようです

行動分析学は、心理や気持ちといったことは考えずに、事実関係だけを分析することで、目覚ましい成果を上げた分野ではありますが、 そうかといって、「心理や気持ちはない」と考えて良いものでもないようです。 そういったものとの関係も考えながら、行動分析を活用するあり方が一番良いようです。

特定の分野への行動分析の応用

行動の学習や改善は、家庭や会社、等の一般的な場でも役に立ちますが、特定の分野では、問題解決の有力な方法として、研究が進んでいます。

自閉症スペクトラムのためのABA

自閉症スペクトラム の改善には「ABA(応用行動分析:Applied Behavior Analysis)」の名前で多くの本があります。 日常生活だけでは、物の認知が発達しにくい場合に、発達を手伝う方法になっています。

ABAでは、覚えやすい環境や手順を用意して、 物には名前があることを教え、物の名前を覚えられるようにします。 また、既に身に付いてしまって、改善したい行動がある場合は、どのような前後関係でそれが起きているのかを分析して、 それを消去したり、代わりの行動に変えていくようにします。

認知行動療法

強迫観念など、好ましくない気持ちになりやすい人の、心理的な改善の方法として、 「認知行動療法」というものがあります。 認知行動療法では、行動分析の「行動」の部分が、「好ましくない気持ちになる」という行動として考えます。

強化学習

人工知能(AI) の中に 強化学習 というものがあり、将棋ソフトなどで使われています。 強化学習では、良い選択肢が選べた時に、報酬を得ることで、良い選択肢を学習して行きます。 この学習のプロセスを機械的に進めます。

ところで、ABAの分野では「強化子」という言葉は使って「強化学習」という言葉は使わないのが一般的のようですが、行動分析学の方法は、人工知能の強化学習と同じです。

ABAによる強化学習と、人工知能の強化学習の違い

人工知能の分野において、強化学習はサンプル数がたくさん必要な方法です。

一方、ABAでは、ひとつのことを学習するのに、百、千、万、といった単位の回数は必要としません。

人工知能の強化学習の問題は、例えば、将棋のように、一手一手について、良い・悪いは判断できないけれども、 最終的な勝ちと負けは決まって来る問題です。 これを学習しようとすると、無数のパターンを知る必要があります。

ABAでは、ひとつひとつの行動の最小単位から良い・悪いを学びます。 また、成功を学んで行くようにします。 そのため、ひとつひとつの行動を学ぶための回数は少ないです。 自然な学習は、成功と失敗の繰り返しの中で、「これが良いのかもしれない」ということを見つけて行くのに時間がかかりますが、 この部分に他者が積極的に介入して、効率的に進めます。



参考文献

行動分析学

行動分析学入門 ヒトの行動の思いがけない理由」 杉山尚子 著 集英社 2005
行動分析学は、心理学の一分野だが、「行動は、心理が考えて行っているもの」ではなく、「行動は法則に従って起こる」と考えるため、 心理学と言えるのか、という話がある。
行動分析学では、すべての行動を、「直前→行動→直後」がどうなっているのかで分析をする。
行動分析学は、人間だけでなく、動物にも当てはまるもの。 行動のひとつに言語の使用が含まれるのは、人間だけの特徴。
スキナー氏が行動分析学を作り上げた時の実験もあります。


行動分析学事典」 日本行動分析学会 編 丸善出版 2019
用語が体系的に解説されていて便利です。


進化教育学入門 動物行動学から見た学習」 小林朋道 著 春秋社 2018
動物行動学では、至近的、究極的、個体発生的、系統発生的の4つの要因で、その個体の個々の行動を理解しようとします。
・至近的要因:体内で起こる変化と行動の関係
・究極的要因:その動物の生存・繁殖にとってどのような利益になるか
・個体発生的要因:その個体のどのような発達の中で現れるか
・系統発生的要因:進化の過程で、どのような経路をたどっているか
この本は、動物行動学の成果から、「人はこういう仕組みでできている」という点を明らかにして、学校教育の場に応用しようとしています。
人の学習は、命に関わることに関心が高い。他人の事であっても、自分のための参考にしようとするため。


日常生活における行動分析学の応用

メリットの法則 行動分析学・実践編」 奥田健次 著 集英社 2012
身近な行動の分析を例にして、行動分析を体系的に説明しています。


会社における行動分析学の応用

リーダーのための行動分析学入門 部下を育てる!強いチームをつくる!」 島宗理 著 日本実業出版社 2015
「部下に声をかける」という事が苦手な上司が、それをできるようにするための改善の話をスタートにして、 行動分析学の会社における応用を解説しています。
リーダー自身の行動の改善と、部下が自律的に行動するようになるための改善の、2つの観点でまとめられています。
基本は、ターゲットとする行動を定めて、それをBとして、ABC分析をして、改善を進めます。
この本では、Cが現状どうなっているのか、どうしていくのか、といった検討が特に重視されている感じです。


行動分析学マネジメント 人と組織を変える方法論」 舞田竜宣・杉山尚子 著 日本経済新聞出版社 2008
行動分析学を、会社組織の改善に使うための本になっています。
部下の育て方や、会社の制度の作り方に、行動分析を取り入れています。
「やる気、外交的、責任感、弱い意志といったものが、心の中にあって、それが行動の原因」と考えるのは、医学モデル。 行動分析学では、「行動の原因は、行動の直後にある」、と考える。
・発言の後に、相手が笑顔になるかどうかが、行動の強化と弱化につながる。
・上司が部下に対して嫌な行動をするのは、それによって、自分の臨む組織になるから(本人が意識しているかどうかに関わらず) 嫌子が続くと、人は体制を持ったり、嫌子を使う人を避けるようになる。
・褒めるのは、行動
・60秒ルール:行動の強化や弱化につながる時間
・シェイピング:身に付いていない行動の形を作る。細かな中間目標を作り、それぞれに好子を用意する。
・プロンプト:やってみせる。
・モデリング:表彰制度は良い行動のモデルを示す仕組みとして使う。何が良い行動なのかを明確にする。頻度は多い方が良い。
・トークン:それ自体は好子にならないが、後で好子になるものと交換できることで、好子になるもの
・フィードバック:一連の行動の、各ステップの行動に対する情報を示す。行動に対して、即時に行われるのが理想。 ステップを分けるのは、何気なく仕事をこなしているベテランが、さらに改善する時に有効。
・条件反射によって好ましくない行動が起きている場合は、原因になっているものを消去できるのが望ましいが、それができない場合は、 共通点があるけれども違うものを先行させるようにする。
・規則を守ることによって起こるはずの良い事は起こりにくく、規則を守ることによって起こるはずの悪い事は起こりやすければ、人は規則を守ろうとしない。 このような規則を守ってもらうには、規則を守るとボーナスが増える、等という仕組みを作る。


行動分析学で社員のやる気を引き出す技術」  舞田竜宣 著 杉山尚子 監修 日本経済新聞出版社 2012
同著者の「行動分析学マネジメント」では、行動分析学自体の説明は少しで、会社の様々な場面に行動分析学を活用する内容が豊富でした。 この本は、半分を行動分析学を整理したわかりやすい説明にして、半分を「やる気を出す」という内容を中心にした行動分析学の応用に当てています。 ・バースト:好子が消えると、行動が最終的には消去されるが、その前に一時的に行動が増えること。
・弱化:嫌子によって、行動が徐々に減っていく。
・シェイピング:身に付いていない行動の形を、徐々にレベルの高いものにする。
・チェイニング:身に付いていない行動の形を、プロセスを分解して、徐々につながるように順番に身に付ける。
・「覇気」、「閉塞感」、「リーダーシップ」といった状態が問題になっている時は、その状態を行動の言葉で解釈するところから。その後で、行動の原因を明らかにし、改善に進める。 ・周囲の笑顔や賛同は好子になり、冷ややかな目や叱責は嫌子になる。


行動科学マネジメント入門 8割の「できない人」が「できる人」に変わる!」 石田淳 著 ダイヤモンド社 2013
抽象的な話題ではなく、具体的な行動について褒めるといった行動分析学の観点による、部下の育成の話があります。 行動分析学に絡めるような形で、著者のノウハウも紹介されています。


「やる気を出せ!」は言ってはいけない 行動科学で見えてくるリーダーの新常識」 石田淳 著 フォレスト出版 2008
やる気やモチベーションといったもので、人を評価したり、これを使って物事を進めようとするのではなく、行動科学を使って、改善することを説明しています。
結果に直結するようにする。プロセスを細かく分けて、それぞれで成果が出るようにする。 ミッションを明確にする。と言ったことを紹介しています。


認知行動療法

今日から使える認知行動療法 「思考のクセ」に気づけば、心はスッと軽くなる」 福井至・貝谷久宣 監修 ナツメ社 2018
自分の心のクセを見つけ、それを変えて行く方法をマンガを織り交ぜながら解説しています。


はじめてまなぶ行動療法」 三田村仰 著 金剛出版 2017
行動分析を使って、行動を改善するための本です。
改善の相手は、言語でコミュニケーションができる人が想定されています。 この本は、セラピーを行う時の文脈(環境)を重視しています。 受ける側にとって、自然な文脈でないと、般化が難しい点や、自分の思ったことを伝える(自己開示)などを通して、 人間関係を構築した上でセラピーを行うことにも触れています。


認知行動療法 理論から実践的活用まで」  下山晴彦 編 金剛出版 2007
症状別の介入方法など、治療者向けの書き方になっています。


認知行動療法の哲学 ストア派と哲学的治療の系譜」 ドナルド・ロバートソン 著 金剛出版 2022



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