心理療法は、心理とはどういうものなのかがわからない中で、そうはいっても、特異な言動を持つ人に対して、 何からの治療をしなければならない、という状況で研究と実践が進んだ分野のようです。
筆者は、 応用行動分析学(ABA) を筆者自身がやってみた時に「セラピストの思惑がクライアントに伝わることで、反発を招く」という事を思い知りました。 ABAの文献の中には、「この方法を使えば、相手を自在にコントロールできる」と言っているような書き方も見られますが、それは誤解のようです。 ABAがダメという事ではなく、ABAだけでは足りないと思い始め、心理療法を調べ始めています。
心理療法では、夢分析、箱庭療法、遊戯療法などが使われます。 その人自身でも、うまく言葉に表せないもけれども、その人が強く持っている何かを断片的にでも見える形にする点が共通しているようです。
可視化ができれば、改善のヒントになります。
複雑で難しいものでも、それを言葉や何かの形で表現するというのは、一種の 現象学 と考えられます。
心理療法は、治療者とクライアントの一対一の関係を通じて、自然に治っていくような方向に進むのが理想です。
治療者とクライアントの間だけで良いので、心理を共有することにこの力があるようです。
20世紀においては、心理療法と認知行動療法は、別の流派でした。 このページでは、心理療法と認知行動療法は別にしています。 21世紀においては、臨床心理学という名前の中に、両方が入っています。
いずれも、自分を分析して、自分を改善していく方法として使うことができます。
心理療法的なアプローチでは、好き嫌いや、気になる事などを目に見える形にすることで整理するところからになります。 なお、これは 当事者研究 と、ほぼ同じことになるようです。
認知行動療法的なアプローチでは、特定の行動や気持ちが起きる時の、前後に起きることの整理からになります。
セラピストとクライアントの関係が違います。 心理療法では、セラピストとクライアントの個性と個性の間での関係の深さが、より良い方向に進むために不可欠になります。 一方、認知行動療法では、セラピストのスキルの違いを抜きにすれば、セラピストが交替したとしても、進み方に違いは出にくいアプローチになっています。
心理療法では、言葉ではうまく表せなかったり、表せたとしても断片的にしか表せないことだとしても、セラピストとクライアントの人間関係が、 隙間を埋めるような働きをして、前に進むような特徴があります。 一方、認知行動療法では、明確な言語化が必須になります。 言語化できないことは扱えません。
認知行動療法は、脳が学習する理論を使っています。 そのため、同じ方法が「療法」としてだけでなく、新しい行動を身に着ける方法としても使われています。
認知行動療法の理論は、極めてシンプルです。ABC分析を基本として、その応用が少しある程度です。
心理療法は、心理の可視化や共有を通じて「治る」という方向に向かっていく方法なので、それを成り立たせている「理論」はありますが、
科学的な方法として説明しにくい側面があります。
「心理療法序説」 河合隼雄 著 岩波書店 2009
心理療法は、「治す」ではなく「治る」になるように、治療者が進める。
「心理療法入門」 河合隼雄 著 岩波書店 2010
心理療法では、イメージが重要。イメージには、自立性、具象性、集約性(多義性)、直接性、象徴性、創造性、心的エネルギーの運搬がある。
心理療法は、人間関係を土台にして行われる。
「心理療法と因果的思考」 川嵜克哲 他 著 岩波書店 2001
学習理論を元にした行動療法は、治療者とクライアントの人間関係を考えていない、という点を指摘しています。
治療者とクライアントの関係が治療の結果を左右するという点や、治療の中では原因がわからないものと向き合わなければいけない点から、心理療法における
「因果」ということを重視しています。
因果にこだわり過ぎないということと、共時性というものもあることに触れています。
「心理療法論考」 河合隼雄 著 創元社 2013
心理療法の学問的、社会的、文化的な位置付けを論じた感じに本になっています。
この本の心理療法は、ユング派。
技法は、夢分析、遊戯療法、箱庭療法、カウンセリング。
「心理療法と個性」 豊田園子 他 著 岩波書店 2001
心理療法では、相手と一対一の関係になるため、両者の個性といったものが非常に重要な要素になることから、
この本では、わたしとは何か、個性とは何か、ペルソナとは何か、といった考察をしています。
「心理療法と身体」 岸本寛史 他 著 岩波書店 2000
心と体の関係は、東洋的な心理療法の中にある。
東洋的な思想では、心理学と宗教、といった区別がなく、包括的な考え方をする。
心と身体で始まりますが、魂も議論に入っています。
「心理療法の実践」 成田善弘 編著 北樹出版 2004
章を作って解説している技法は、遊戯療法と表現療法。夢分析。
統合失調症、人格障害、虐待、心身症、非行、学校臨床といった問題別の章も構成。
「ユング心理学と仏教」 河合隼雄 著 岩波書店 2010
著者が夢分析をユングから学び、その後で知ることになったのが、明恵という僧で、夢分析の記録を残した人。
明恵の宗派の経典が華厳経だったため、著者は華厳経を自分で読み、「意識とは何か」と言った事を研究している。
日本で心理療法を始める際に、夢分析は非科学的と世間から判断される恐れがあったため、箱庭療法の紹介から始めている。
ユングの心理療法は、療法をする側とされる側の関係を重視し、心理療法の効果はその関係のあり方に依存すると考える。
「認知行動療法の哲学 ストア派と哲学的治療の系譜」 ドナルド・ロバートソン 著 金剛出版 2022
認知行動療法は、新しい治療法ではなく、遡ると、ギリシャ時代の哲学からつながっている。
ストア派では、哲学的に物事を考え、研究するだけでなく、その成果を元にして、日常の心構えを決めて、それに合わせることで、心の健康の維持や改善をしていた。
「よくわかる臨床心理学」 岩壁茂 監修 ナツメ社 2020
カウンセラーとして仕事をして行きたい人のためのガイドのような内容になっています。
臨床心理学の歴史や体系が、総合的によくまとまっています。
「面白いほどよくわかる! 臨床心理学」 下山晴彦 監修 西東社 2012
臨床心理学の歴史から、仕事まで、幅広く書かれています。
「よくわかる臨床心理学の基本としくみ」 徳田英次 著 秀和システム 2010
臨床心理学の歴史、精神障害の種類、検査の方法、カウンセリングの手順など、幅広くいろいろ書かれています。
「臨床心理学がよ〜くわかる本 現代人の「心の病」を治療する」 岩波明 著 秀和システム 2006
6割くらいで、様々な心の病気を紹介しています。残りで、治療法、検査法、資格制度を紹介しています。
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