世の中の研究は、研究者が他者を研究し、それを一般化して理論として発表するものが公にはよく知られています。
当事者研究は、本人が自分のことについて、自分が中心になりながら、他人と共同研究していくものです。 分析哲学 の中に、自分を見つめるような活動がありますが、それと似たスタイルになっています。 人の質的研究 の一種でもありますが、当事者が自分のことを扱う点が大きな違いです。 自分のことを扱うので、それが自分の生き方に改善にもつながります。
多様性 が尊重される社会におけるコミュニケーションのあり方や、生き方を示す分野にもなっています。
「生きづらいでしたか? 私の苦労と付き合う当事者研究入門」 細川貂々 著 平凡社 2019
「べてるの家」と「そーね」という2つのグループへの取材が元になっています。
著者自身が生きづらさを感じている中で、行き着いたのが当事者研究。
当事者研究は、本人が自分が抱えている悩みを語り、その場にいる人と一緒に解決策を考える方法。
ポイントは、悩んでいる内容は、その人の個性のひとつと考えて、消去するような方向で考えないこと。
場にいる人は、自由に話して良い。
言葉に表して、その言葉を見える形にして、共有する。
「当事者研究の研究」 石原孝二 編 医学書院 2013
タイトルそのものの深い内容になっています。
当事者研究は、「反省」や「治療」ではなく「研究」とするところが、重要なアプローチになっている。
問題解決を目指さないけれども、研究という形で問題に向き合うことで、問題が解消される効果がある。
当事者研究には、「実践的な場で使われる
現象学
」と言えるような特徴がある。
「当事者研究 等身大の<わたし>の発見と回復」 熊谷晋一郎 著 岩波書店 2020
主な題材として、自閉症スペクトラムが扱われています。
この本では、2つの種類の当事者研究が、混ざった形で語られているようでした。
ひとつは、当事者が自分自身を研究することを通じて、起きていることは変わらないけれども、問題が問題ではなくなる効果のある当事者研究です。
もうひとつは、当事者が自分自身について語った内容から、当事者に起きていることを支援者が理解し、
当事者の生きづらさを改善するための研究です。
後者については、
質的研究の一種とも言えそうですし、
アンケート・感性評価
による方法の一種とも言えそうな内容でした。
「おれとおまえともうひとつなにか 4 環世界・現象学・物語論・編集工学・当事者研究」 木村英幸 著 石神井・冒険遊びの会 2017
環世界・現象学・物語論・編集工学・当事者研究の5つの考え方は、まったく異なる分野のものですが、
今ある世界の意味や価値のつけ直しができることを扱っているとしています。
そして、私たちが世界と折り合いを付けていく方法としています。
約20ページの薄い冊子ですが、その中の数ページで、こうした内容に言及しています。
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