このページは、 環境と品質のためのデータサイエンス の1ページです。 「多様性」という言葉で、一般的によく語られるのは、「生物多様性」や「人の個性の多様性」で、これらは「環境」の方に関係しています。
一方、「品質」の方でも、「多様性」という言い方はされませんが、「多品種少量生産」は重要な課題です。 多品種少量生産は、商品の多様性の話です。
そのため、多様性は「環境」でも「品質」でも大事なポイントです。
「多様性」が語られている時に、データサイエンス的な見方をすると、内容に違いがあります。 この違いを意識すると、対応の仕方も考え易いようです。
多様性をこのように考えるのなら、これを定量的に表すのにちょうど良い尺度として、 平均情報量 があります。
ばらつきが大きければ大きいほど、多様と考えられます。
一口に「ばらつき」と言っても、量的変数と質的変数では扱える性質が異なります。
「変数」は、「評価の尺度」とも言えます。 これが多いと、物事のいろいろな側面を評価できるようになります。
ただし、現実には、こういった表形式のデータがある状態で話が進まずに、あるサンプルは、「A, B」のデータだけを持っていて、
あるサンプルは、「C, D」のデータだけを持っているようなこともあります。
また、2人の人がいた時にそれぞれにとって大事な変数が異なっていることが、意見が合わない原因であることもあります。
「ものさしが違う」といった言い方をされます。
2010年前後は、「多様性」と言えば、ほぼ「生物多様性」のことでした。 この頃は、いわゆる「エコ」という言葉が流行っていた時期でもあり、生物多様性の解説書がたくさん出ています。 生物多様性経済学 というものもあります。
2020年前後から、「人の多様性」の話題が多くなっています。
「多様性工学 個性を活用するデータサイエンス」 中田亨 著 日科技連出版社 2021
多様性の多様な見方を紹介しています。
ものづくりの中の多様性もあります。
分析には、従来からよく知られている散布図行列、主成分分析、因子分析などを紹介しているのは意外でした。
「個性学入門 個性創発の科学」 保前文高・大隅典子 編 朝倉書店 2021
個性を扱う学問として、個性学を提唱しています。
多面的に個性にアプローチしていますが、主に、細胞や脳の違いを個性の違いとしている話が多いです。
個性の統計モデルとして、
因子分析
、項目反応モデル、ニューラルデコーディングがあります。
いずれも
ベイズ統計
的な、事前分布を使うアプローチが個性を扱うのに適している、としています。
「「多様な意見」はなぜ正しいのか 衆愚が集合知に変わるとき」 スコット・ペイジ 著 日経BP社 2009
多様な人の意見は一様な人の意見に勝るという事を、丁寧に紐解いています。
観点が多様だと、その物事を単純に見れる観点がその中にある。
ヒューリスティクス
が多様だと、早く答えに行き着ける。
解釈が多様だと、たくさんの予測ができる。
こうした事から、物事の表面だけで、ほぼ正しい判断ができるようになる。
この本では、「多様性は一様性に勝る」と数え切れないほど繰り返されます。
ただ、多様性の生み出すものは、ばらつきが多いので、できの悪いものができる事がある、という話も一部にはありました。
「多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織」 マシュー・サイド 著 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2021
人材が多様でないことの弊害を説明した後に、標準的であることが個人にとって良いこととは限らない話になり、最後は、多様性と共に生きる在り方でまとめています。
「多様性との対話 ダイバーシティ推進が見えなくするもの」 岩渕功一 編著 青弓社 2021
「多様性」や「ダイバーシティ」を推進しようとする社会の動きについて、社会学の研究者の視点による解説集になっています。
「複雑現象工学」 産業技術総合研究所 監修 プレアデス出版 2005
副題が、「複雑系パラダイムの工学応用」です。
カオス
の理論の工学への応用の各論集です。
「構成者の分類が困難な系の複雑性を記述するための新しい概念
‐ 分類群非依存型多様性‐」という所で、
高等動植物の多様性を扱うための方法論は、微生物には使えないとして、新たな方法を提唱しています。
「持続不可能性 環境保全のための複雑系理論入門」 サイモン・レヴィン 著 文一総合出版 2003
生態系は、階層のような縦のつながりと、競争のような横のつながり、それらがそれぞれの活動をする中で成り立っているとしています。
また、
カオス
や
複雑系
によって、ミクロな領域での単純なルールが、マクロな領域の多様さや、構造を生み出すことを紹介しています。
最後の方で、「人間はこうしていこう」という提案があるのですが、「環境保全のための行動」、というよりは、
「複雑で多様な生態系によって、いろいろなことが起きるので、普段からアンテナを立てたり、被害が局所的になるように備えましょう。」というメッセージのようでした。
「保全生物学」 樋口広芳 編 東京大学出版会 1996
多様性とは。人間と生態系。希少種や普通種の保全方法
生物多様性経済学の本は、 環境経済学の本 のページにまとまっています。
「存在から発展へ 【新装版】 物理科学における時間と多様性」 イリヤ・プリゴジン 著 みすず書房 2019
副題に「多様性」という言葉が入っています。
原著の副題は「TIME AND COMPLEXITY IN THE PHYSICAL SCIENCES」なので、「COMPLEXITY」を「多様性」と訳しています。
旧装版は1984年で、当時はまだ「
複雑系
」という言葉があまり使われていなかったので、「多様性」と訳したのではないかと思います。
おそらく、もう少し後で訳していたら「複雑性」にしたのではないでしょうか。
この本は、
熱力学
的な物理によって、複雑な現象が起きることを話題にしています。
「科学の本質と多様性」 ジル=ガストン・グランジェ 著 白水社 2017
科学の中には分野や方法に多様性があるものの、数学的な記号体系で記述されるという点で統一性もある、という説明があります。
順路
次は
対称と非対称のバランス