システム思考 は複雑なものを、整理して考えて行く時に必須です。
問題解決 をする時や、ITシステムを作る時などは、システム思考で分解したものについて、解決手段を考えたり、ソフトを作ったりします。 こういう進め方をしている時は、システムの個々の部分に注目しています。
一方、システム思考から、「世の中はこうなっている」、「生態系はこうなっている」といった研究が進められている分野もあります。 こうした研究では、システム全体の様子や性質に注目しています。
システム論で出て来る「システム」は、装置や工場のような身近なものではなく、 生命や生態系のような工学の範囲を超えるものや、 もっと抽象的なものです。
「システム論」は、 フォン・ベルタランフィの「一般システム理論」という本がきっかけになっているようです。 一般システム理論というのは、万物に共通する理論のことで、その体系化が目指されています。 アナロジー を積極的に進めます。
確かに、微分方程式を学んだりすると、生物学・化学・物理学で同じ数理モデルが登場したりする事を学ぶので、 「一般システム理論が存在する。」とする気持ちは、わからなくもありません。
一般システム理論が提唱されたのは、1950年代とのことです。 相当な年月が経っていますが、どうなったのでしょうか?
いろいろなものを、フィードバックをキーワードにして考えるアプローチは、 ウィーナー氏のサイバネティックス(cybernetics)と重なることが多いようです。
フィードバック制御の場合は、情報の流れはひとつで、目的もひとつですが、 社会現象の話の時は、情報の流れは複雑で、必ずしも目的があるわけでもない点が異なります。 いずれにしても、「サイバネティックス」の名の元に理解されようとしています。 ウィーナー氏は、大変な博学なので、 制御工学 の アナロジー を可能な限り広げることができたようです。
「一般システム理論」 フォン・ベルタランフィ 著 みすず書房 1973
「日本的システム思考」 北原貞輔・伊藤重行 著 中央経済社 1991
勝者と敗者の関係に進むこと、限定された条件の中だけで成り立つ理論に満足すること、システムを部分の集まりと考えることに対して、批判的です。
全体は部分が協調しながら発展する、という考え方を提案しています。
「サイバネティックス」 ノーバート・ウィーナー 著 岩波書店 1957
情報のやり取りをしながら、何かができて行く事の研究全般が、サイバネティクスと呼ばれている。
脳や神経の働きや、機械学習の仕組み、社会のでき方までが研究対象になっている。
フィードバック制御が代表的になっている。
「人間機械論 人間の人間的な利用」 ノーバート・ウィーナー 著 みすず書房 1979
サイバネティックスを一般向けに紹介するために書かれた本。
法律の分野が、先例を参照する話もサイバネティクスに含んでいる。
「サイバネティックス」以上に歴史の話が中心。
「記号・シグナル・ノイズ 情報理論入門」 J・R・ピアーズ 著 白揚社 1988
情報理論
の本として書かれています。
技術的な話だけではなく、思想的な話も多いです。
通信において、熱はノイズの原因になる。
通信を扱う数学には、エントロピーがあり、熱を扱う数学にもエントロピーがある。
2つのエントロピーは、名前や数理の類似はあるが、別物。
ただし、この例のように、両方が関係する現象はある。
サイバネティクスは、フィードバックの理論として紹介。
近代的な技術の大部分はサイバネティクスに含まれるとしている。
「逆システム学 −市場と生命のしくみを解き明かす」 金子勝・児玉竜彦 著 岩波書店 2004
この本の言う「システム」とは、生命体のシステムと、経済システムです。
いろいろなものを切り離した個体に対する法則から、全体の話を導くことには無理があるとしています。
一方、全体に成り立つ法則で、全体の話をするのも無理があるとしています。
逆システム学では、
個と全をつなぐ中間的な領域に注目し、そこでは、
「多重フィードバック」や「制度の束」があるとしています。
個のある場所で変化が起きた時に、多数のフィードバックの仕組みが、同時に働くことで調整が進むとしています。
なお、著者は、逆システム学のこの考え方を従来はなかった新しいものとしているのですが、
筆者には、
陰陽五行説
の形で
東洋思想
の中に古来からあった思想のように思いました。
逆システム学が画期的だったのは、思想の考案ではなく、生命や経済のアカデミックな研究の対象に、この思想を持ち込むことで、
旧来の方法では説明できない現象の説明を可能にしたことではないかと思います。
「システム理論入門」 二クラス・ルーマン 著 新泉社 2007
社会システムを機能の集まりとして、考えるのが、構造機能主義。
パーソンズ:行為とシステムの関係を研究した人
システム、コミュニケーション、時間、意味、観察、等の言葉の概念を歴史的な背景も踏まえて論じています。
サイバネティクスは、差異を小さくしていったり、大きくしていったりする事として説明。
「社会理論入門」 二クラス・ルーマン 著 新泉社 2009
人間は、社会システムの要素。
社会システムを生み出すのは、コミュニケーション。コミュニケーションはコミュニケーションを生み出す。
(この点は、サイバネティクスの中で同じ事が言われています。
違いがあるとすれば、こちらの方が、コミュニケーションを重視しているように見えることかもしれません。)
「社会システム理論 不透明な社会を捉える知の技法」 井庭崇 編著 慶應義塾大学出版会 2011
「ルーマン氏の社会システム理論は、社会システムをコミュニケーションの連鎖として考える。
また、人間側でなく、コミュニケーション側から社会を見る視点も持っている。
人間を社会の構成要素と考えずに、社会の環境と考える。」、とルーマン氏の理論をコンパクトにまとめています。
ルーマン氏の著作について、わからない所は読み飛ばし、繰り返し読むことなどの読み方のガイドもあります。
具体的な社会の研究方法としては、
数理社会学・計量社会学
も紹介されています。
順路
次は
アナロジー