複雑系(Complex Systems)の研究は、様々な現象の研究の集まりです。
「複雑系の分野の研究対象は、人間社会や生態系等、世の中の複雑なもの全てなのかな?」と言うのが、 筆者がこの分野に興味を持ったきっかけですが、 そんなに万能ではないようです。 筆者の知る限りでは、「複雑系の研究」と言われているものは、 「見た目は複雑だけれども、その現象を生み出す規則や数式はそんなに難しくない現象の研究」を指しています。 主なものとしては、 カオス のように単純な数式が複雑な振舞いを見せるものと、 セルオートマトンのように、単純な「規則」が複雑な振舞いを見せるものがあります。
しかし、「複雑系」や「カオス」をタイトルにしている解説には、 この分野が世の中の動きのすべてを記述するような表現がされていることがあります。
フラクタルは、自己相似性をもった絵です。
ある図形を拡大すると、同じ図形がまた現れます。
純粋に「絵」として眺めても面白いのですが、画像処理の技術に応用されたりもしています。
数学的にはカオスの一部か何かのようになっていて、カオスと関係があるようです。
ちなみに、「複雑系」の本は、カオスとフラクタルの両方、あるいは片方を扱っているものが多いです。
カオスの意味は、混沌です。 混沌の逆は、秩序です。
自然界には、秩序があります。 秩序ができていく現象は、「自己組織化」や「パターン形成」と言います。 自然界の秩序と言ってもいろいろですが、 「自己組織化」をキーワードにして調べると、動物の模様だとか、対流の模様が研究されています。
自然界が エントロピー増大則 だけで決まるなら、秩序が混沌になっても、混沌が秩序になることはないはずです。 しかし、現実には、自己組織化現象が起きているから、自然界は不思議です。
ネットワーク構造の形成 は、自己組織化の一種です。
自己組織化を使う技術としては、、 自己組織化マップ(SOM) もあります。
「複雑系」今野紀雄 著 ナツメ社 1998
複雑系とは何かというところから始まって、
フラクタル・カオス・セルオートマトン・
パーコレーションの順に解説されています。
フラクタルを説明するのに、「対数とは何か」というレベルから始まる親切な本です。
「複雑系の数理」 松葉育雄 著 朝倉書店 2004
べき則をベースにしている現象の複雑さを、主に扱っています。
したがって、スケーリングの話も出て来ます。
複雑さの尺度として、情報エントロピーや、一般化エントロピーが紹介されています。
「複雑系の理論と応用」 映像情報メディア学会 編 オーム社 1998
非線形科学の本です。
フラクタル・カオス・ソリトン・遺伝的アルゴリズム・人口生命と進んで、
最後は、システムの作り方(
システム工学
のテーマ)になっています。
ソリトンというのは孤立波のことで、
小山のような波が減衰することなく川を移動したりする現象として知られています。
「人間の作るシステムは線形を仮定したものが多く、
それが自然界のシステムとの差異を生んでいる。
システムの個々の要素が自己組織化によって、
大域的なひとつのものになった時、個々の要素からは予想できないような機能を持つようになる。
この現象は
構造相転移
の一種と言える。」、という意味の主張がありました。
「複雑現象工学」 産業技術総合研究所 監修 プレアデス出版 2005
副題が、「複雑系パラダイムの工学応用」です。
複雑系の理論の工学への応用の各論集です。
各論の題材は、遺伝子・経済・農・
脈
・
微生物の多様性
、といったわかりやすいもので、多岐にわたっています。
題材はわかりやすいのですが、研究内容は数学的で抽象的です。
2.3と5.3のところで、脈の解析があります。
「ターケンスの埋め込み定理」というのを使い、 リアプノフ指数・情報エントロピー・F-コンスタント、という3つの尺度を使うと、
脈のような準周期的な振動の解析ができるそうです。
健常者と特定の病気を持った人の違いや、治癒していく時の変化が調べられていました。
5.3の「人と心と体の全体性を用いた健全性評価 宮崎和成」では、
生体分子の振動の統合が全体的な信号になっているという仮説を立て、
「空間的な部分と全体の関係が、時間的なデータに表れている。」という興味深い考察をしています。
(エルゴード仮説の事を、言っているようです。)
「「機械学習・AI」のためのデータの自己組織化 「大きなデータ」を「小さなデータの集まり」にして考える」 和田尚之 著 工学社 2022
書名からはわかりませんでしたが、地形の画像や、地図のデータの分析方法を解説しています。
こういったデータを分析する時に、ハウスドルフ次元外測度という尺度を使うと、画像にあるパターン(自己組織化の様子)が定量的に表せるそうです。
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