ナラティブは、日本語にすると「物語」ですが、作りこまれた話ではなく、個人の思いのこめられた話を指すことが多いようです。
様々な人がナラティブの定義を試みていますが、言葉の多様性を扱おうとするのがナラティブなので、定義されたとしても、「この本の中では、こういうナラティブを扱っています」くらいの意味合いしかないようです。
ナラティブ関係の文献を見ていると、それぞれの文献が想定しているナラティブには、長いものと短いものがあるようでした。
「語り」や「インタビュー」と呼ばれるような内容を指しています。
「人の中には、ナラティブがデータベースのようにして記憶されていて、それが日々の行動の中で参照されて使われている」という場面で出て来るナラティブは短いです。
物事の見方や考え方が分かる内容です。 心理療法と臨床心理学 は、どちらかというとこちらのようです。
ナラティブセラピーは、ナラティブを活用する 心理療法 です。
ナラティブを活用するポイントとしては、ナラティブの再認識と、オルタナティブストーリーの2つが注目されることが多いようです。
セラピストとの対話の中で、鏡に映った自分のナラティブを見るような感じになり、自分のナラティブを再認識することがあります。
否定的な感じ、問題を抱えている感じだったナラティブが、肯定的な感じになることで、問題が軽減したり、消滅する効果があります。
概念分析 として、自分の考えていることを、紙に書き出して、整理することと、とても似ているようです。
もともと自分が持っているナラティブが、ドミナントストーリーで、セラピストとの対話の中で、置き換えられたのが、オルタナティブストーリーです。 ナラティブの再認識よりも、さらに踏み込む方法になっています。
「セラピストの役目は、無理のない形で、オルタナティブストーリーに誘導すること」と、考える人が、少なからずいらっしゃるようです。
「ナラティヴ研究 語りの共同生成」 やまだようこ 著 新曜社 2021
インタビューによる研究方法が多いです。
ナラティブの研究の歴史についても詳しいです。
「ナラティブ研究の可能性 語りが写し出す社会」 秦かおり・村田和代 編 ひつじ書房 2020
移住、震災、診療といったテーマで語られた内容を分析して、その中にある問題点を読み解き、解決に向かわせようとしています。
少数の個人が語った内容を元にして、それを多数の人にも当てはめようとする研究スタイルになっています。
「ナラティヴ・アプローチ」 野口裕二 編 勁草書房 2009
エスノグラフィー
、システム論、医療、看護、紛争、組織論、司法といった領域における、ナラティブをキーワードにしたアプローチを紹介しています。
「ナラティヴと共同性 自助グループ・当事者研究・オープンダイアローグ」 野口裕二 著 青土社 2018
個人のナラティブの集まりから社会的現実を読み取る事、ナラティブセラピーの新しい方法、ナラティブの研究における感情、といった複数のテーマについて、まとめられています。
「世界はナラティブでできている なぜ物語思考が重要なのか」 アンガス・フレッチャー 著 青土社 2024
哲学者が長い歴史の中で研究して来たものは、論理に基づくもので、ナラティブは軽視されて来たが、実際はナラティブが生活や社会に密着するものであることが要旨のようでした。
「今日から始まるナラティヴ・セラピー 希望をひらく対人援助」 坂本真佐哉 著 日本評論社 2019
相手の主張や、相手の思いを会話を通して聞くことで、膠着した状態を変えて行くことが、主旨のようでした。
正解や規範のようなものがある訳ではない、というところが、会話を進めるポイントです。
「ナラティヴ・セラピーのダイアログ 他者と紡ぐ治療的会話、その<言語>を求めて」 国重浩一・横山克貴 編著 北大路書房 2020
ナラティヴセラピーのワークショップで、カウンセラーがクライアントの一人になる形で進められた会話の記録と、それを巡る考察がまとめられています。
・「問題がある」という見方をすると、「解決」という方向性しかなくなる。
ナラティブセラピーでは、「問題がある」という見方はしない。
「ナラティヴ・セラピー・クラシックス 脱構築とセラピー」 マイケル・ホワイト 著 金剛出版 2018
マイケル・ホワイトの主要な論文を紹介しています。
「ナラティブ経済学 経済予測の全く新しい考え方」 ロバート・J.シラー 著 東洋経済新報社 2021
経済的な動きは、ナラティブが感染症のようにして広がることで、引き起こされると考えています。
この本では、ナラティブを物語ではなく、流行語として説明していることが多いです。
行動経済学
では、人間は十分な情報と完璧な論理ではなく、限定合理性の中で行動していると考えますが、
ナラティブ経済学では、その行動の中心にナラティブの存在を想定しています。
「ナラティブカンパニー 企業を変革する「物語」の力」 本田哲也 著 東洋経済新報社 2021
企業のPRの手段としてのナラティブを解説しています。
企業のパーパスを定めて、そこから商品やサービスのナラティブを作り、SNSなどを使って広めることで、たくさんの顧客が「共感」する形で集まって来る方法を紹介しています。
「人を動かすナラティブ なぜ、あの「語り」に惑わされるのか」 大治朋子 著 毎日新聞出版 2023
人が共感し行動にも発展するのは、事実やデータではなく、ナラティブ。
ナラティブが事件を引き起こし、また、心の操作にも悪用されているという危機感から、その現状を調べています。
「DataStory 人を動かすストーリーテリング」 Nancy Duarte 著 共立出版 2022
プレゼンの時は、データをグラフを使ってわかりやすく表現だけでは不十分で、ストーリーと一緒に伝えようとすると、共感を得やすいとしています。
ストーリーは、
ロジカルシンキング
を元にして作ります。
「物語のかたり方入門 <ナラティブ>を魅力的にする25の方法」 エイミー・ジョーンズ 著 創元社 2024
ナラティブは、誰の、どのような視点で、どのような構造で語るのかによって変わるということに注目し、語り方を自在に変えることを説明しています。
「ナラティブでひらく言語教育 理論と実践」 北出慶子 編 新曜社 2021
従来の言語教育は、自分の言いたい事を言語で表現することを目的としていたが、
これからの言語教育は、ナラティブを意識することで、アイデンティティの成長や、物事を認識する力を深めることに、つなげようとしたいようです。
「記憶は実在するか ナラティブの脳科学」 ヴェロニカ・オキーン 著 筑摩書房 2023
記憶がどのようにつくられるのかの解説書です。
記憶を「ナラティブ」と考えています。
「ナラティブの修復」 阿部明子 他 著 せんだいメディアテーク 2022
言葉で表されていないものも含めて、過去の記録や記憶のことを、「ナラティブ」と表現しています。
それを、アートとして表現した展覧会を紹介する本です。
「ナラティヴと情動 身体に根差した会話をもとめて」 小森康永 他 著 北大路書房 2023
情動や感情について、ナラティブという概念からアプローチしている感じの本です。
哲学書や思想論のような内容です。
順路 次は 人に共通した行動