社会心理学では、人間同士の関わりにおける行動の心理や、 集団の中での人間の心理が研究されています。
環境と人間の関わりの心理を扱うのは、 環境心理学 です。 社会心理学は、「人間」の部分の複雑さを扱います。 環境心理学はどちらかと言えば、個人の人間の行動を研究の対象にしますが、 社会心理学はどちらかと言えば、集団の人間の行動を研究の対象にしています。
社会心理学では、環境問題を意識した研究もあります。 環境問題のための社会心理学としては、 環境経済学 の中でも出て来る、「フリーライダー」と「社会的ジレンマ」の問題についての研究が多いです。
これらの環境問題は、環境と人間の関わりの問題ではなく、人間自身の問題です。 こういう問題には、社会心理学が役に立つようです。
フリーは「ただ」で、ライダーは「乗る人」です。 フリーライダーは、「ただ乗り」とも言われることがあります。
フリーライダーとは、自分は何もせずに、他人の協力行動の恩恵を受ける、ずるい人の事です。
社会的ジレンマは、定義はいくつかあるようです。
社会的ジレンマとは、 個人的には、非協力を選択した方が得をするけれども、 社会全体としては、全員が協力すると良い結果になるような現象を言います。
ゲーム理論 は、生態学や経済学の研究手法として有名な理論です。 駆け引きやジレンマをモデル化して、数理的に調べる手法です。
「コモンズをささえるしくみ レジティマシーの環境社会学」 宮内泰介 編 新曜社 2006
・実際上、特定の市民しか参加できなかったものを、「市民の参加」と言えるのか?、等、
環境と人の関係の問題の焦点は、「環境に対して、誰がどんな価値のもとにどう関わるか」、という問題と、その社会的な認知と承認の問題。
「レジティマシー(legitimacy:正統性、正当性)とは、ある地域について、誰がどんな価値のもとに、どのように管理していくのかが、
社会的認知・承認を受けた状態。この本はレジティマシーの事例集。
・レジティマシー獲得の要素が、地域性、歴史性、シナリオ力、発言力、共同性・創造性、感性、当事者性。
・ コモンズの悲劇
が世の中に提示された後、
多くの研究者が調査してみたところ、レジティマシーの獲得によってコモンズの管理がうまくいっている事例が、たくさん見つかった。
「人はどのような環境問題解決を望むのか −社会的ジレンマからのアプローチ」 大沼進 著 ナカニシヤ出版 2007
フリーライダー問題と社会的ジレンマの研究の本です。
「環境と消費の社会心理学 -共益と私益のジレンマ」 広瀬幸雄 著 名古屋大学出版会 1995
環境問題への認知が少ないことが、具体的な消費行動に結びつかないとしています。
また、環境の変化と消費行動が、間接的な関係のため、消費行動の環境への影響がわかりにくいことも問題視しています。
1章が導入、10章が総括で、2〜9章が事例研究になっています。
「環境行動の社会心理学 -環境に向き合う人間のこころと行動」 広瀬幸雄 編 北大路書房 2008
環境配慮の行動を普及させることを意図した内容です。教育的な内容が多いです。
「みんなで決める」 ⇒ 社会的ジレンマの解決へ
「我々感情を育む」 ⇒ 援助行動へ
「情報フィードバック」 ⇒ 行動と結果の関係の理解へ
「社会的ジレンマの処方箋 -都市・交通・環境問題のための心理学」 藤井聡 著 ナカニシヤ出版 2003
社会的ジレンマの解決には、心理的方略と構造的方略の2つがあるとしています。
心理的方略は、個人の信念・態度・責任感・信頼・道徳心・良心に直接はたらきかけるものです。
構造的方略は、社会構造の変革です。
この社会構造は、協力行動の利益を増やし、非協力行動の利益を減らすしくみです。
社会構造作りには、フレーミングが大事としています。
「環境配慮の社会心理学」 杉浦淳吉 著 ナカニシヤ出版 2003
環境配慮の行動を、普及させる方法の研究報告です。
この本の方法とは、”説得”です。
”説得”の方法を扱う本は、筆者にとって初めてでしたので、
最初は異次元の文章に見えました。
普及させるのは結構なことですが、違和感があります。
「絶対役立つ社会心理学 日常の中の「あるある」と「なるほど」を探す」 村井潤一郎 編著 ミネルヴァ書房 2018
感情や、対人関係について、研究成果を体系的に紹介するようにして解説しています。
最終章が「環境」で、アフォーダンスを中心として、環境の見方や対策の仕方を紹介しています。
「社会心理学」 池田謙一 他 著 有斐閣 2019
「社会心理学」の範囲が広いです。社会学と心理学全般にわたっているのではないか、と思うほどです。
このサイトの、
認知心理学
や
マーケティング
の内容と重なるものもありましたし、文化、政治、マスメディア、対人関係等、多岐にわたります。
第15章が、消費者行動・環境行動で、環境リスクや企業の社会的責任に対しての認識が高まって来ると、それが購買行動に影響してくる話があります。
「グラフィック社会心理学」 池上知子・遠藤由美 著 サイエンス社 2008
多くの研究を、コンパクトにまとめた良書です。
社会的認知(対人認知・社会的推論・態度・感情)、
自己(自己認知・自己評価・自己動機づけ)、
他者・世界との関わり(対人行動の人間関係・集団と個人・健康と幸福・文化と人間)
、という構成になっています。
「衡平モデル」というのは、自分の利益と他者の利益の「差」を、小さくしようとする行動だそうです。
こうすると、不満も罪悪感もなく、一番満足になるそうです。
「史上最強図解 よくわかる社会心理学」 小口孝司 監修 ナツメ社 2013
「人はこの行動の時、こう考えている」、「相手にこう考えてもらうなら、このように行動する」といった内容になっています。
「新しい社会心理学のエッセンス 心が解き明かす個人と社会・集団・家族のかかわり」 松井豊・宮本聡介 編 福村出版 2020
社会心理学の体系的な解説書としての側面を持っていますが、淡々とした事典的な内容ではなく、著者自身の想いのようなものも感じられる本でした。
第15章が「家族」で社会心理学というよりも、現代の家族の置かれている状況と、その原因や結果になっている心理の話になっています。。
「「心のクセ」に気づくには 社会心理学から考える」 村山綾 著 筑摩書房 2023
タイトルにある「心のクセ」というのは、身の回りで起きることについて、「原因はこうに違いない」と思ってしまうことが中心になっています。
そう思ってしまうことについて、「なぜ」と研究を進めています。
不安を感じてしまうことへの対応としては、データを使いながら考える、不確実性を意識する、過去ではなく未来を考える、といった点が挙げられています。
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