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自閉症とABA

自閉症(自閉症スペクトラム)と、ABA(応用行動分析学)には、歴史的に深い関係があります。 このページは、この点について、筆者の経験に基づいてまとめたものです。

筆者が調べ始めた2022年の時点では、「自閉症の子供に対して、何ができるか?」ということで調べると、「ABA」を紹介しているものが一番多いよう答えでした。

ABAは、定型発達児が、特に意識しなくても日常生活の中で獲得できる能力を、周りが積極的に介入することで、獲得できるようにしていく方法として考えられています。

DTT

一口に「ABA」と言っても、方法論がいくつかあり、DTT(Discrete Trial Traning:離散試行型指導法)はABAのひとつの手法です。 世の中の解説では、DTTの事だけになっているABAの解説が、よくあります。

DTTは、実験室のように整備した環境で、セラピストと一対一で対座して、特定の課題を身に付ける方法です。 この方法の中で、ABAの理論が使われています。

DTTの難しさ

DTTは、難しさがあります。

施設環境で行うDTTの難しさ

DTTは、元々、研究機関の研究室の中で進められ、効果のある事を確認した方法です。 般化の問題は、早いうちから、知られています。

コストの問題は、DTTをできるだけ多くの子供に受けてもらおうとした時の難しさです。

家庭環境で行うDTTの難しさ

家庭環境は、施設で実施する場合の弱点を改善したり、施設と補完的な役割を担うことができます。 しかし、家庭環境の場合、以下の問題があります。

環境以外の難しさ

環境以外の難しさもあります。

DTTの逆効果

自分を思い通りに動かそうとしてくる人に対して、「嫌な人」と思うのは、誰でも持つ感情ではないかと思います。

「プレゼント(お金や食べ物)をあげるから、これをやって」と言って来る人については、少し複雑で、「報酬がもらえてありがたい」と思う場合もあれば、 「何か渡せば、言いなりになると思っているのか」と嫌悪感が出る場合もあり、ケースバイケースです。

相手が子供だとしても、自閉症だとしても、こういった感情が起きてもおかしくないのですが、 そうとは知らずに「嫌な人」になってしまうことがあります。

例えば、セラピストや親としては、問題行動をやめさせる目的だとしても、「自分がやりたいことを、させないようにしてくる」と思っているかもしれません。 自発的に発達することが理想的なのに、自発的な行動を妨害するようなDTTになっていたら、逆効果になりかねません。

DTTの限界を超えるには(フリーオペラント法、など)

ABA
フリーオペラント法では、子供の行動を積極的に真似します。

DTTのように、「大人の行動を真似させる」、「子供をコントロールする」というアプローチとは、真逆のような発想のアプローチですが、これも応用行動分析の実践方法の一種となっています。 自然に近い形、無理のない形で、介入し、療育につなげる方法と言えそうです。

フリーオペラント法の良いところ

大人が子供の真似をすると、子供にとっては、「自分の行動が認められた」、「自分の行動を見てくれている」という認識が高まったり、 「人と同じ動きをすると楽しい」という体験になる効果があるようです。

これによって、DTTでよく使われるような、お菓子やおもちゃのような不自然な強化子ではなく、「周りの反応」や「達成感」のような自然な強化子(多種多様で豊富にあり、あきることのない強化子!)が効果的に働くようになりやすいようです。 自発的な行動をしにくい性格の子供が、自発的に自分を発達させる効果があるようです。

つまり、定型発達児の発育の仕方に、近付けて行きます。

また、 相手との向きと、模倣の関係 という点でも、フリーオペラント方は、良い形になっていると言えそうです。

フリーオペラント法と似た方法

東洋医学では、人が元々持っている体の仕組みに、他人が介入して、元々持っている仕組みが適切に機能するように導きますが、 フリーオペラント法には、それと似た印象があります。

「DIR」や「フロアタイム」と呼ばれる方法は、フリーオペラント法と原理的には同じようです。

PRTは、DTTとフリーオペラント法の中間のような方法のようです。 子供がその時にやりたがっている事を踏まえ、その時に教える良さそうな事を、教えて行きます。

本人の考えをくみとって、肯定と否定の使い分け

「大声を出して暴れる」、「人に危害を加える」、「命の危険がある」、等が起きている中では、目の前で起きていることを止めることが最優先なので、 その行動を強く否定するような対応が必要なこともあります。

一方、長い目で見た時には、「本人の気持ちを汲み取る」といった肯定的な対応をするのが、良いと思っています。 なお、肯定と否定の使い分けは難しいです。 筆者の場合は、否定したい気持ちが先になることが多いので、心がけとしては、受け入れ難い事に対しても、できるだけ肯定する方向に考えて行くと良いようです。

「本人の気持ちを汲み取る」というのは、「本人のやりたいようにやらせる」や、「本人の言いなりになる」ではなく、 その行動をしている時の本人の気分や、その行動をしたがる理由について、「そのような感じ方、考え方もある」といったんは認めることです。 一度は、その段階に立たないと、支援の仕方がわからないです。 わからないと、本人の気持ちとは関係なく、世間一般のロールモデルを目標にして、それに合わさせるアプローチや、 「あの人は、これでうまく行った」という成功談の再現を目指すアプローチしか手がなくなってきます。

違う文化の中で育った人とは、物の見方や感じ方が違いますが、自閉症を持つ人に対しても、そのような心構えでいると良いようです。 「あの人と私は違う」ではなく、「あの人の幸福感を、自分の幸福感に取り入れる」くらいの考え方が良いのかもしれません。

「自閉症」の名前のように、自閉症を持つ人は、自分だけの過ごし方になりがちです。 それを否定するようなアプローチではなく、そこに共鳴していくことが第一歩のように筆者は今のところ考えています。 心理療法 にある「傾聴」は、会話ができる大人に対してのものとして話題になりますが、心構えとしては傾聴と似ています。 傾聴は、相手を"正しい"答えに誘導したり、"正しい"考え方を説得して身に着けさせるものではなく、 自分で自分を知り、自分で答えを見つけていくアプローチとして筆者は理解しています。



参考文献

DTTへのデータサイエンスや人工知能の活用

ICTを活用した保護者エンパワメント療育モデルの実装と展開」 熊仁美 著
ABAの療育の支援にシステムを使っています。 セラピストの養成をするロボットの開発もしているそうです。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sicejl/58/6/58_428/_pdf


ロボット技術による自閉症児教育への展望」 阿部絵里香 著
療育をするロボットが開発されているそうです。 目を合わせてコミュニケーションすることを覚えるために、目が合わないと動きが止まる機能があるそうです。
https://lab.kuas.ac.jp/~jinbungakkai/pdf/2014/p2014_01.pdf


応用行動分析と人工知能の協働」 松田壮一郎 著 日刊工業新聞社 2017
ABAの研究者が、人工知能を使った研究に踏み出されています。
人の動きの計測に、人工知能を使っています。
https://psych.or.jp/wp-content/uploads/2017/09/78-13-16.pdf


Autism, ABA, and Data Science」 Dipta Roy 著
自閉症のトレーニングを支援するロボットがいるそうです。
https://medium.com/analytics-vidhya/autism-aba-and-data-science-aa8487ae9d77

より自然なABA・汎化しやすいABA・逆模倣

広汎性発達障害児への応用行動分析(フリーオペラント法)」 佐久間徹 著 二瓶社 2013
ABAは、研究室の中での研究から始まっています。 家庭で行う場合も、環境や条件をシンプルにして、効果が出やすくする方法が、よく紹介されています。DTTと呼ばれます。 そのため、好子にお菓子やおもちゃを使います。
フリーオペラント法は、そのような場面の設定では、実際の生活や社会で応用(汎化)が難しいことと、 発展性がないことの改善策になっています。
方法としては、定型発達ができる子供が、日常生活の中で自然に身に付けることができることについて、 その機会を増やすようにします。 また、その中で起きる問題行動などについては、行動分析を使って、随時、対応します。 「承認欲求」などと呼ばれますが、人は、他人に認められるとうれしくなります。 これを好子になるようにします。 そのための方法として、できるだけ、子供の行動を大人が真似る方法があります。 大人が真似ることで、子供は、自分の行動が認められたことを知り、それが、新しい行動を始めようとする原動力になります


発達障害児の言語獲得 応用行動分析的支援〈フリーオペラント法〉」 石原幸子・佐久間徹 著 二瓶社 2015
主に一人の発達障害児について、佐久間先生のグループがどのように支援を進めたのかについて、毎回の内容の記録集と、 それに関連した佐久間先生の語録集になっています。
基本的には、子供の発声や動作をそのままセラピストが模倣します。 発語を訂正したり、発語を促したりはしません。


自閉スペクトラム症 「発達障害」最新の理解と治療革命」 岡田尊司 著 幻冬舎 2020
自閉症の原因の様々な仮説と、様々な治療法がコンパクトにまとまっています。
ABAやTEACCHよりも、新しく、効果が見られている方法として、カウフマン夫妻によるものを詳しく説明しています。 ポイントのひとつめが、自閉症児が繰り返し行動を始めたら、周りの人も同じ行動をすることで、関心の共有をします。 2つめが、目の高さを合わせたり、自分の顔の近くに自閉症児の興味のあるものを置くことで、目が合う機会を増やします。 目が合うことができるようになると、コミュニケーションができるようになってくるそうです。
カウフマン夫妻が療育の素人であることに対して、DIR理論は療育の専門家が考案したものですが、 DIR理論は、自閉症児と周りの人が目線を合わせたやりとりがポイントになっており、ほとんんど同じ、とのことでした。
この本では、愛着障害が原因の場合にも触れていて、その場合は親を支援することになります。
大人の自閉症の治療法にも触れていて、大人の場合は、自分を客観的に見て、物事の見方を変えて行く方法でした。


自閉症のDIR治療プログラム フロアタイムによる発達の促し」  S.グリーンスパン・S.ウィーダー 著 創元社 2009
DIRは、人の発達の過程をプログラムとして想定して、その人の現在地を把握し、次の段階に導いていくもの、と理解すれば良いのかもしれません。
副題の「フロアタイム」というのは、自閉症の人と同じ目線で、その人と関わるものです。 DIRの中心になっています。
応用行動分析学(ABA) では、人の行動を事実の関係を明らかにするアプローチで把握します。 DIRは、その時の気持ちや、心の動きがどのようになっているのかについて、仮説を立て、その仮説から改善や解決の方法を考えます。 その時に、人の発達の過程のプログラムを参照して、方針を決めて行くようになっています。
人の気持ちを考える時に、その人の外からではなく、その人と同じ行動をして、同じ立場に身を置くようにするのが、的確に把握するポイントのようです。


アスペルガー症候群治療の現場から」 宮尾益知 監修 出版館ブック・クラブ 2009
栄養や薬物なども含め、様々な治療法が仮説の物も含め、幅広く紹介されています。
フロアタイムは、誰でもどこでもできるものなので、ABAやTEACCHを補完するものとして紹介されています。


笑顔がはじけるスパーク運動療育 発達障害の子の脳をきたえる」 清水貴子 著 小学館 2016
スパーク運動療育というのは、運動によって発達を促進する方法です。 この本は、発達障害児の療育にも、スパーク運動療育が効果的ということで紹介しています。
この本では、「運動することが効果的」という説明の仕方をしているのですが、よくよく読んでいると、スパーク運動療育というのは、 子供に自由に行動させて、大人がそれに合わせる運動になっています。 大人の方から提案したり、場を盛り上げたり、ということも少しはあるのですが、自発的な行動を重視しています。 そのため、「運動することが効果的」というのもありますが、「子供の主体的な行動を大人が模倣する状況を作ることが効果的」ということが大きいように思いました。 その意味で、スパーク運動療育というのは、フリーオペラント法と、とても似ていました。


ABA(DTT)

イラストでわかる ABA実践マニュアル 発達障害の子のやる気を引き出す行動療法」  藤坂龍司・松井絵理子 著 合同出版 201
ABAの基本的な考え方から始まり、初級、中級、上級の具体的な課題をイラストを使って、わかりやすく説明しています。
ABAは、人間の行動は、強化、消去、罰によって学習されるものと考え、これらを使って、 言葉や行動を日常生活の中で自然に学習することが難しい子供に、学習を進めます。
問題行動の原因は、過去に何らかの強化があったと考えます。 問題行動の改善にも、強化、消去、罰を使います。


ABAプログラムハンドブック 自閉症を抱える子どものための体系的療育法」  J.タイラー・フォーベル 著 明石書店 2012
ABAを実施する時の実例集ではなく、計画の立て方や、考え方を体系的にガイドしています。
この本は、家庭環境の中で親がその子供に対してではなく、施設などの環境で、トレーナーが子供に対してABAを実施する状況が想定されていて、 トレーナーやトレーナーを目指す人向けの本になっています。


自閉症・発達障害を疑われたとき・疑ったとき 不安を笑顔へ変える乳幼児期のLST」  平岩幹男 著 合同出版 2015
小児科医の立場で診療されている方が著者です。医学的な説明があります。 療育の具体的な手法としてはABAを中心とされているそうですが、子供と「つながる」時間を多くすることを特に重視されていらっしゃいました。
ABAの概要が約6ページでまとまっています。
DTT(不連続試行法):ABAの初期からある方法。対面でのトレーニング。
VB(行動言語):言語機能を行動変容に応用する。マンド(要求語)を引き出すから始め、応答につなげる。
NET(自然環境訓練):日常の現実の中で、遭遇する場面の訓練
PRT(機軸反応訓練、機会利用型訓練):日常生活の中で、望ましい行動を増やす。
水銀説は、「予防接種ワクチンの使用開始時期と自閉症の増加時期が一致するのではないか」という論文が始まりとのことです。 その後に、水銀を原因とする説が出ましたが、その論文は、その後に撤回されたそうです。 アメリカや日本の小児科学会も、水銀説と、その対策としてのキレート療法には科学的根拠が乏しいとしているそうです。


発達の気になる子の「困った」を「できる」に変えるABAトレーニング」 小笠原恵・加藤慎吾 著 ナツメ社 2019
自閉症の有無に関わらず、ABAを活用していく内容になっています。 対象は、日常的なことは大体できるようになっている段階の子供です。
状況→行動→結果の関係がどのようになっているのかを分析して、好ましくない行動を減らしたり、好ましい行動を増やしていきます。



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