「環境品質」は、
@「環境への影響を見据えた製品の品質」
A「環境の品質」
の2つの意味で使われる言葉です。
他にもあるかもしれません。
Aの「環境の品質」は、 環境影響評価や環境評価 で評価しようとしているものです。 品質の対象は「環境」です。
以下、このページは、@「環境への影響を見据えた製品の品質」の方の話です。 品質の対象は「製品」です。 ちなみに、世の中では、「環境品質」という呼び方よりも、 「環境性能」の方が定着しつつあるようです。
「環境」という観点から品質の学問( 品質管理 ・ 品質工学 ・ 信頼性工学 ・ 生産工学 )を見直すと、環境品質への配慮が必要とされています。 「静脈産業の品質」と、「動脈産業の品質の学問の不備」の2点について書きます。
尚、このサイトの環境学の考え方で言えば、動脈産業が「 環境からヒトへ 」に相当し、静脈産業が「 ヒトから環境へ 」に相当します。
既存の品質の学問は、動脈産業(製造業)を中心に発達したものです。 静脈産業の品質については、発想がおそらく違いますが、まとまった文献を見たことがありません。
静脈産業の品質のあり方の議論や、その品質のための社会のあり方の議論は、 環境経済学 で少しある程度のようです。
上記の文章は、動脈産業の品質の学問が、 既に確立しているように読み取れるかもしれませんが、まだ不備があると思います。 既存の品質では、「顧客満足のための品質」を重視するように教えられますが、 環境 を見据えると、顧客のさらに先も考えなければいけないためです。
顧客のさらに先を考える品質は、 SR (CSR) によって現実味を帯びつつあるようです。 単発的な手法では、環境配慮設計や LCA があります。
動脈産業の品質の学問は、大量生産のために発達した学問だと思います。 均質なものを大量に作ることを目指しています。 その証拠に、これらの学問は、均質を前提とした大量のデータを扱うために、 統計学 を基礎にしています。
工場から均質な製品を送り出すには、 工場が仕入れる材料も、均質であることが求められます。 (静脈産業には、この考え方の適用が難しいです。)
多品種少量生産への変化や、資源や 廃棄物 の問題があるので、 大量生産への考え方は、すでに変わって来ています。 品質のための学問への要請も変わりますが、学問の方は遅れているようです。
設計段階で環境に配慮するのが、環境配慮設計です。 従来の設計は、顧客の視点が中心ですが、 それに環境への配慮を追加する形になります。 具体的なチェックポイントは、例えば、下記が言われています。
「モノ学」は鎌田東二氏を中心とした研究会で研究が進められています。 活動は、「モノ学・感覚価値研究会」のホームページに詳しく書かれています。
「モノ」には、@物質的次元、A人間的次元、B霊的次元があるとして、 多方面から研究が進められています。 これまでのところでは、芸術・宗教・比較文化論といった、いわゆる文系の研究が多いようです。 文系と理系にまたがるものでは、認知や、人の発達の研究があります。
「モノづくり」の根っ子から環境品質を議論していくには、 モノ学のアプローチが必要だと思います。 環境経済学 は、モノの属性や、表面的な特徴から、社会の仕組みを議論していきますが、 モノ学は、モノを本質的に捉えようとします。 環境思想 は大切ですが、モノとは距離のある思想なので、いまいちモノづくりには結び付かないです。
環境品質を踏まえたモノづくりの発展に、モノ学が貢献していくことを、筆者は期待していますが、 今のところ、筆者の思うような研究はないようです。 この研究が成功して、理論や概念のようなものができれば、 21世紀のモノづくりの強力な指針となるかもしれません。
「モノ学・感覚価値論」 鎌田東二 編著 晃洋書房 2010
2006年からのモノ学の研究をまとめた本です。
講演会をまとめたような体裁になっています。
「モノ」というキーワードから、芸術と宗教と学問(科学技術等)の接点を探るそうです。
関根伸夫氏の「位相―大地」という作品についてや、
世界の琴、大本教にある芸術性、新生児模倣、ロボットを使ったコミュニケーション、といった、
多彩な内容になっています。
「タグチメソッドで環境問題を解く 効率的な環境配慮型の開発・設計」 長谷川良子 著 日科技連 2013
タイトルには「環境問題を解く」とありますが、
直接的に環境問題にアプローチしている訳ではなく、
品質工学
(タグチメソッド)が、環境問題に関係するような技術の開発に役立つことを紹介しています。
CO2を評価尺度にすることや、
損失関数
の考え方等の、「品質」についての抽象的な考え方の話もありますが、
数理の適用例の話が多いです。
無駄の少ない設計には
パラメータ設計
、異常事態の未然防止には
MTシステム
を使っています。
「機能設計から生体環境設計へ」 富田直秀 著 丸善 2005
副題が「『安心』を育てる科学と医療」です。
この本の内容は、医療で使う生体材料の設計ですが、環境にも通じると思います。
この本は、読者に一方的に答えを与えるような書き方ではなく、
読者も読者なりに考えながら読み進められるように書かれています。
生体においては、機能が「作られている」のではなく、「育てられている」、
といったことや、
「大切さ」・「正しさ」・「優しさ」といったことが、切り離せないことが書かれています。
より具体的には、生体材料の開発が出てきます。
「オートポイエーシス(物質ではなく情報としての相互作用に本質を置く)」や、
「逆システム学(わからない要素をわからないままにして、
生命や社会システムと向き合おうとする試み)」にも話が及びます。
生体の拒否反応があることが、生体材料の難しさのひとつです。
これは、おそらく「環境」にも当てはまります。
「サステナブルデザイン −製品開発における環境配慮−」
山際康之 著 丸善 2004
市場シナリオステージ・開発戦略ステージ・製品設計ステージに対する解説があります。
応用編として、
製品の性質に応じて、
リデュース・メンテナンス・アップグレード・リサイクル・リユースの各モデルを選ぶことを提案しています。
「環境適合設計の実際」市川芳明 編著 オーム社 2001
日立グループの取り組みを事例にしながら、環境適合設計の全般を解説しています。
LCA
もあります。
「環境を重視する 品質コストマネジメント」 伊藤嘉博 著 中央経済社 2001
品質をコストという尺度で管理し、コストで意思決定することを論じています。
そのためのツールも紹介しています。
品質コストに加えて、環境コストも力説しています。
筆者の印象では、環境コストの議論の中心は、
環境会計
で言われるようなものよりも、
社会的費用
になっていました。
また、環境コストについては、具体的な計算の話ではなく、
「計算すべし」という提言に留まっている感じがします。
「ヒット商品を生む 観察工学 :これからのSE,開発・企画者へ」 山岡俊樹 編著 共立出版 2008
観察工学は、ユーザーの観察を通して、作るべきものを考えます。
この本は、観察方法や、設計のポイントを提示しています。
設計のポイントは、70項目あるのですが、その中には、環境配慮設計で考慮される項目も入っていました。
順路 次は 工業製品以外の品質