トップページ | ひとつ上のページ | 目次ページ | このサイトについて | ENGLISH

経営分析

上場企業は、財務諸表や、決算書と呼ばれる書類を公表します。 この財務諸表の分析を、「経営分析」と言います。 「財務分析」や、「企業分析」と呼ばれることもあります。

経営分析では、収益性、成長性、生産性、安定性の観点で、企業を評価します。 評価のための尺度(指標)は、数10種類あるようです。

経営分析の尺度の特徴

経営分析は、財務諸表の数字そのままでもできますが、 収益性、成長性、生産性、安定性を評価する時の尺度は、 財務諸表の中の数字を割り算して、「率」にしたものです。 例えば、収益性の尺度のひとつの「総資本回転率」は、 売上高を総資本で割ったものです。

経営分析の基本

ある尺度の数字があった時に、その数字だけ見ても、意味はわかりません。 経営分析の基本は、複数の会社で数字を比較することや、 複数の期間でその数字の変化を見ることです。 このため、一社一期分の財務諸表だけでは、あまり情報が得られません。

変化を見るというのは、 工程管理の管理図 と同じことをしています。 会社を製品と見立てれば、 経営分析の尺度とは、品質の尺度の仲間と言えるかもしれません。

数字の変化を見た時に、「なぜそうなったのか?」は、なかなかわからないものですが、 複数の数字の変化を見ると、理由が推測できることがあるようです。

よくある経営分析の問題点

経営分析は、経営の結果の分析なので、 効果確認のデータ分析 と似ています。

効果確認のデータ分析 の観点で見ていると、慣習として昔から行われているものの、「本当にそれだけで良いのか?」、「そればかり注目するのは、良くないのではないか?」と思われる分析があります。

前年度との比較

前年度と今年度を比べて、経営が評価されることがあります。 四半期毎の決算短信は、この分析になっているため、社内向けの詳細の分析でも、同じ情報から考察を始めることが一般的のようです。

前年度だけでなく、さらに数年さかのぼると、前年度と今年度の数字が、ばらつきの範囲なのか、突発的な異常値なのか、といった分析ができます。 しかし、前年度と今年度だけだと、そうした情報がない中で考察することになり、裏付けのない推測になりやすいです。

年に1回発行する有価証券報告書は、過去5年まで遡ることになっています。 四半期毎の分析も、少なくとも社内向けには、このくらい遡った方が良いと筆者は考えています。

予算との比較

予算 というのは、直接的には、「準備したお金」のことですが、予算の数字というのは、「計画値」や「予測値」として作られています。

予算に対して上だったのか、下だったのかで、業績の評価や分析が行われる会社は多いようですが、 コントロールできない要因によって、大きく影響されてしまう数字に対して、分析をしても、結果の追認のような形にしかならないことが多いようです。

比率尺度や計算値による分析

例えば、「いつものように、コップにコーヒーを注いだら、あふれた。」という事象があった場合、原因として考えられるのは、 「いつもよりも、小さいコップを使っていた。」、 「いつもよりも、コーヒーを多く注いだ」のどちらかです。

どちらかがわからなかったとしても、 再発防止の対策としては、「大きなコップにする。」、「コーヒーが一定量になるようにする。」、「あふれないように監視しながら注ぐ」、といったものがあります。

しかし、確実な対策や、最小限の対策にしたいのなら、どちらだったのかを明確にした方が良いです。 どちらかだったのかを明確にして、それが起きた原因を明確にすれば、それが起きないようにする方法を検討できるようになります。 そして、それが根本対策になります。

経営分析で使われる指標は、足し算、引き算、掛け算、割り算でできているので、このコップの例が、経営分析の指標にも当てはまります。 2つの値を使って計算された値は、2つの値のそれぞれが、要因(原因の候補)になります。 どれが真因(本当の原因)なのかを突き止めておいた方が良いです。

企業価値の評価

経営分析は、財務の特徴の分析になっていて、企業の価値の評価でおそらく一番重要です。

一方、 企業価値 としては、財務以外のポイントも重要視されています。



参考文献

会計データの分析

監査のためのデータ分析  ExcelとActiveDataで簡単にできる!」 武田剛 著 総合法令出版 2020
不正な会計処理を見つけるためのデータ分析の本です。
難しい理論を使うのではなく、違う時点を比較、分布の観察、数字の並び方を確認、異常なレコードの抽出、サンプリング、といった方法を紹介しています。


Pythonではじめる会計データサイエンス」 稲垣大輔・小澤圭都・野呂祐介・蜂谷悠希 著 中央経済社 2023
会計のデータをPythonを使っていろいろなグラフにしています。 k近傍法で異常度を調べる分析もあります。


経営分析(時系列の分析あり)

会計思考を使ってビジネス戦略・分析ができる本」 小嶋辰緒 著 翔泳社 2020
分析をする上で必要な各指標で、何を見ようとしているのかの説明が丁寧です。
・総合力の分析 : 自己資本利益率 ROE、投下資本利益率 ROIC、総資産利益率 ROA
・安全性の分析 : 流動比率、当座比率、固定比率、固定長期適合率、自己資本比率
・収益性の分析 : 売上総利益率、営業利益率、経常利益率、当期純利益率
・効率性の分析 : 総資産回転率、売掛債権回転率、棚卸資産回転率、仕入債務回転率
・成長性の分析 : ROE、ROA、売上高増減率、営業利益増減率、経常利益増減率
・ファイナンス指標(企業価値) : 1株当たり当期利益 EPS、株価収益率 PER、1株当たり純資産額 BPS、株価純資産倍率 PBR、投資利益率 ROI、経済的付加価値 EVA、現金換算サイクル CCC、支払金利前税引前利益 EBIT、支払金利償却前税引前利益 EBITDA


戦略思考で読み解く経営分析入門 12の重要指標をケーススタディで理解する」 大津広一 著 ダイヤモンド社 2009
経営指標の解説をしています。 5〜10年くらいの推移を見ます。12の指標を重視しています。
・売上高総利益率:
・売上高販管費率:
・損益分岐点比率 : =損益分岐点売上高/売上高。損益分岐点売上高=固定費/限界利益。限界利益(/個)=売値(/個)― 変動費(/個)
・EBITDAマージン: =EBITDA/売上高。EBITDA=営業利益+減価償却費
・総資産回転率: =売上高/総資産
・棚卸資産回転期間: =棚卸資産/売上高/365
・キャッシュ・コンバージョン・サイクル:=売上債権回転期間(日)+棚卸資産回転回転期間(日)―仕入債務回転期間(日)
・有形固定資産回転率: =売上高/有形固定資産
・固定長期適合率 : 固定資産/(固定負債+純資産)
・DEレシオ : 有利子負債/純資産
・インタレスト・カバレッジ・レシオ : (営業利益+金融収益)/支払利息
・フリー・キャッシュフロー成長率 : フリーキャッシュフロー=営業キャッシュフロー+投資キャッシュフロー。成長率=(今年度―前年度)/前年度


わかる!使える!経営分析の基本」 永野良佑 著 PHP研究所 2010
財務諸表の見方の本です。 率の指標ではなく、財務諸表にある指標の分析を解説しています。 分析のポイントは、ある期間の財務諸表だけでなく、複数の期間の変化を見ることだそうです。
1〜3章でイオンを例にして、財務諸表の見方を解説しています。 4章は、武富士、トヨタ、信越化学、ニトリの分析をして、 これらの企業の何が良くなかったのか、何がすごいのかを解説しています。


これでわかった!「図解」経営分析 :成長性・安全性・収益性-「会社の実力」がズバリ見抜ける」 星野紘紀 著 大和出版 2007
図解で各指標をわかりやすく説明しています。 分析は、定数分析と比率分析を、ひとつの会社の時系列分析として実施したり、複数の会社の比較したりします。
・定数分析 : 数字をそのまま用いる。
・比率分析 : 割合を分析する。


経営分析(単年度の決算書の見方)

企業再生コンサルが明かす経営分析実践の手法」 澤田和明 著 秀和システム 2012
決算書の分析から始まって、組織の調査、教育制度の調査、ステークホルダーへのインタビューなどをして、総合的にその企業を分析してから、改善案を出すところまでの本です。


経営分析の基本がハッキリわかる本 :キャッシュフロー時代の計数感覚の磨き方・活かし方」 千賀秀信 著 ダイヤモンド社 2006
ある条件がそろうと、会社が成長していると判断できるそうです。その条件は、
売上高の伸び率
< 粗利益の伸び率
< 営業利益の伸び率
< 経常利益の伸び率
かつ、純利益の伸び率 > 人件費の伸び率
「TKC経営指標」として、経営指標の業種毎の平均値が発表されているそうです。


新・ほんとうにわかる経営分析」 高田直芳 著 ダイヤモンド社 2016
・製造業でも、流通業でも、現場では、無限とも言えるくらいたくさんの振替計算が行われている。 このため、コスト構造は、1次関数や2次関数ではなく、複利関数で表現すべき。
・粉飾決算がどのように行われているのかの解説も詳しいです。


財務管理の基礎知識 財務諸表の見方から経営分析、管理会計まで」 平野秀輔 著 白桃書房 2023
経営分析、経営計画、意思決定会計、企業価値算定についての幅広い内容を解説しています。


ビジュアル経営分析の基本」 佐藤裕一 著 日本経済新聞出版社 2012
経営指標の解説をしています。 競合の比較の分析が多いです。


入門経営分析」  倉田三郎・藤永弘・石崎忠司・坂下紀彦 著 同文舘出版 2008
各指標が教科書風に詳しく書かれています。


Q&A経営分析の実際」 川口勉 著 日本経済新聞出版社 2010
決算書の読み方の他に、ヒト、設備の分析などもあります。


ビジネススクールで教える経営分析」 太田康広 著 日本経済新聞出版社 2018
決算書の読み方の本です。


やさしく学ぶ経営分析入門 決算書が読める」 市川利夫 著 産業能率大学出版部 2010
決算書の読み方の本です。
付加価値の計算と、付加価値を使って求める労働生産性や、労働分配率の解説の章があります。


決算書を読みこなして経営分析ができる本」 高下淳子 著 日本実業出版社 2007
決算書の読み方の本です。
付加価値の計算と、付加価値を使って求める付加価値生産性や、労働分配率の解説の章があります。


アカウンティング」 山本和隆・伊藤良二 著 ファーストプレス 2008
損益計算書(PL)、賃借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書の説明の後に、 各種の指標を紹介しています。 実在する企業の財務表を例にして、リアルに説明してあります。



順路 次は 環境会計

データサイエンス教室