このサイトの他のページは、参考文献として本の紹介をしていますが、
環境学
に関しては、本の紹介を通しての環境学も書いてみました。
「○○環境学」や、「環境○○学」ではなく、シンプルに「環境学」とある本についてです。
環境学はいろいろな方がいろいろな事を書かれています。
環境学と似たものに、「環境科学」があります。 環境科学の本 として別ページにまとめています。
筆者が特に良いと思うものには、◎を付けてみました。
分野横断的な内容で、志向がある程度明確なものを「良い」としています。
明確な指標ではないですし、主観的です。
また、環境学の本としては???でも、環境関係の本として良いと思うものは、◆を付けてます。
分類は7項目にしてあります。 中には分類の難しい本もあるのですが、7項目のどこかに入れるようにしています。 シリーズものは、そのシリーズで1冊の環境学の本として数えています。
高橋正立・石田紀郎 著 世界思想社 1993
まず、環境学の4つの領域として、
@ 環境の仕組み - 自然科学・社会科学・人文科学
A 環境影響の明確化
B Aがどうやって人間に跳ね返って来るか
C 人間の考察
の4つを挙げています。
その後に、環境の誕生・海・湖・川・森林・生態系・農業・廃棄物・都市の景観・経済・法・自然に対する人間の力を各章で解説しています。
@の社会科学と人文科学を、Cに含めると、 筆者の4つの枠組み と大体同じです。
藤平和俊 著 日本経済新聞社 1999
「人間とは何か」から始まるので、
冒頭は「???」でしたが、環境学の組み立て方がすっきりしていました。
この本の枠組みを使うと、
環境倫理
は、方便としての役目しかないので、泥沼のような議論の応酬にならないで済みます。
この本は、「人間とは何か」から始まり、人間の定義(?)を導き、 人間の歴史を振り返るところからスタートします。
著者の環境問題のシナリオは、すっきりしています。
「人間の作った環境負荷が、環境の変化や汚染を起こし、人間社会に悪影響が出る」、
ということで、すべての環境問題を集約しています。
言い直すと、
「人類の作った原因が、環境を媒介にして、人類に結果をもたらす。」、
という因果応報のシナリオです。
主体が「人類」なので、
原因を作った人と、結果を受け取る人が同じとは限りません。
この意味では、因果応報とはちょっと違います。
著者は、この大まかなシナリオの中で、個別の話をしています。
森を見てから、木を見ていく感じです。
まず、環境負荷の分類と、環境変化の人間への影響の2つに分かれます。
環境負荷は、物理的・化学的なものによる分類と、
点的・面的なものによる分類をします。
解決策としては、対症療法と根治療法に分かれます。
根治療法は、環境税・土地利用抑制・人口抑制、等です。
(外部不経済を
内部化
する問題点についての記述があります。)
未来のあり方として、製造・食糧・エネルギーの話があります。
行動のあり方として、情報伝達のあり方や、環境学の構築があります。
環境教育については、
環境意識の指標として、
「自然環境の有限性に関する認識度」を挙げています。
川村晃生 編著 慶應義塾大学出版会 1999
内容は、
生態系・
エントロピー論 (熱力学から経済まで)・
法・
アメリカ政治の環境保護 (ロビーイングの仕組み等)
廃棄物・
社会論・
環境倫理・
鏡花文学の視点・
世界の文学の中の森 (「もののけ姫」も出てきます。)
です。
エントロピー論の途中までは理系の話ですが、
他は文系です。
各テーマは断片的ですが、
示唆に富む内容になっていました。
エントロピー論は、熱力学から始まり、生産システム、社会システムと話が広がります。 槌田敦 氏が1976年に環境問題の分野に物理学のエントロピーの考え方を持ち込んだそうです。 「孤立系では、自滅する。持続するには開放系に。」というのが中心的な理論です。
石弘之 編 東京大学出版会 2002
環境学の研究方法の本です。
「環境学の研究方法は多様だけれども、根幹にある考え方は、
そんなにたくさんはない。」、ということで、
根幹にある考え方を述べようとしています。
この本で出てくる環境学へのアプローチは、社会科学的なものです。
1章:「環境学」や「環境」という言葉について
2章:問題の切り取り方(フレーミング)。
何を「問題」としているのかが、立場によって多様であるという話
3章:個別現象の一般化。
システムとして物事を考えるということを述べ、
システムには水準があって、
問題の対策等は、システムの水準を意識すべきとしています。
「取り上げた現象以外の現象は、取り上げた現象にとっての環境であり、
取り上げた現象と何らかの関わりを持つ」という環境観を提示しています。
4章:エコロジー経済学(ここでは
環境経済学
の一歩先の学問としています。)
5章:水俣病を題材にした
疫学
の話。
真実を知るための調査に対して、時には公的機関さえも妨害要素になることについて。
6章:フィールド研究の結果の一般化。3章の内容と、少し重なります。
安井至 著 丸善 1998
市民を環境問題解決の担い手としている啓蒙書です。
先生と生徒2名の議論の形で書かれています。
技術的な対策に対して、
荒探しではなく、本質を見て判断する姿勢が特徴だと思います。
環境問題として、
温暖化・廃棄物・ダイオキシン・エネルギー・酸性化・資源・人口を取り上げている点は、
一般的です。
この本の特徴は、
環境問題の解決法を、調停や調整としていることです。
調停や調整とは、
世代間・生態系保存・国家間・国家内・二次的な健康や環境の影響の5つの観点から成ります。
嘉田由紀子・槌田劭・山田國廣 編著 ミネルヴァ書房 2000
京都精華大学に環境社会学科を立ち上げるにあたってできた本のようです。
環境問題を解決することを考えていくというより、
環境問題と共に生きるための、くらしや文化を語っている感じです。
環境の分野では、
「恐怖感をあおっている」等の理由で、
ジャーナリズムを目の敵にするような話も見かけますが、
ここでは健全に機能する時のジャーナリズムの役割や力が書いてありました。
3巻のシリーズです。 環境学のごく一部を扱っているシリーズです。 各巻を単体で評価するなら、良書だと思います。
「T 環境の安全性 −その評価をめぐって」
鈴木継美・田口正 編 恒星社厚生閣 1987
内容は、リスク・環境基準・化学工場の安全性・化学物質の安全性・放射線の安全性です。 化学工場の安全性で FMEA・FTA が出てきます。
「U 発展途上国の環境問題」
土井隆雄 編 恒星社厚生閣 1987
「水俣からアジアを考える」から始まり、 タイ・中南米・中国・インドネシア・ペルーの実情を述べています。
「V 環境研究と疫学 −その有効性と限界」
鈴木継美・大井玄 編 恒星社厚生閣 1987
火山灰の健康影響・肺ガン・水俣病・脳卒中、等を通して 疫学 を解説しています。 事例を通したわかりやすい本です。
竹林征三 著 ビジネス社 1998
タイトルに「東洋の知恵」とあり、老子や荘子、 陰陽五行説 の思想も出てきますが、 内容のほぼ全ては、仏教の思想です。 仏教学の体系から、環境学や環境思想を組み立てようとしている本です。 仏教学を説明し、 仏教の体系から、現代の科学の体系を組み立てています。 環境問題の解決方法も、仏教学を取り入れています。
著者の仏教論には、「神仏」、「祈り」、「供養」といった内容は入っていません。 仏教の中にある、物事の考え方の部分を、環境学の理論として取り入れています。 おそらく、他宗教を信仰する方でも受け入れやすい内容と思います。
「環境問題で解決が求められているのは、非再現性・非可逆性の現象の中に潜む普遍性の追求だが、従来の科学は不得意」、としています。
著者が土木技術出身のため、環境学を構築する動機や、環境学を適用する対象が、 主に土木関係になっています。 著者は、 風土工学 を提唱されていますが、この本の内容は、風土工学にも引き継がれています。
上田信 著 農山漁村文化協会 2007
この本は「図説 中国文化百華」の第15巻です。
風水
の本です。
この本の著者は「環境学」という言葉に、そんなに重きを置いていません。
多くの方は、環境学を地球全体や全世界の仕組みに適用する学問として考えていますが、
この本は「風水は中国の環境学」と考えているようで、
地域の環境学を提示しているところに特徴があります。
鈴木紀雄と環境教育を考える会 編 かもがわ出版 2001
小・中・高の4人の教員が編者になっているところが珍しいです。
内容は「環境教育のあり方について」です。
環境学を「価値観のシフトをうながす学問」と考えているようで、
「総合的、学際的な環境学の視点による環境教育」の必要性が書かれています。
琵琶湖での取組みを例にしています。
非常に真摯な姿勢が伝わってきます。
藤平和俊 著 かもがわ出版 2001
上記の同著者による「環境学入門」の簡易版とも言える本で、非常に薄い本です。 事例が読み易く、環境教育の具体的な例もあります。
溝口次夫 編著 環境新聞社 1999
大気・水・音・化学物質・廃棄物・温暖化・オゾン層・酸性雨・熱帯林減少・砂漠化・ 野生生物減少・発展途上国の公害・原子力に対して、 「なぜ」、「どうして」、「どうすれば」というアプローチをとっています。
志村隆 編 学習研究社 2000
C・W・二コル氏、高木美保氏、今森光彦氏、尾上伸一氏、佐原真氏の各氏と、 阿倍治氏との対談集です。
本多淳裕 著 技報堂出版 2003
「〜しよう」、「〜するな」、というのがたくさん書いてある啓蒙書です。
佐藤孝則 著 天理大学附属おやさと研究所 2011
体内環境、人間環境(社会環境)、自然環境、地球環境、宇宙環境、という項目で環境を分類している点が珍しいです。 体内環境では、遺伝子操作や、ウィルス等を環境問題として挙げています。 全般的に事例集に近い本です。
「グローカル」というのは、「グローバルとローカルを一緒に考えよう」という意志を込めた言葉だそうです。
神戸大学環境管理センター環境教育専門部会 編 2011
自然科学からのアプローチとして、生態系、地理、人体、生命、化学、資源・エネルギーを挙げ、 社会・人文科学からのアプローチとして、法・政策、経済、経営、倫理、コミュニケーションを挙げています。
上智大学エコ・テキスト作成グループ 著 駿河台出版社 2000
副題が「初学者が書いた初学者のための環境ガイドブック」です。
「初学者が書いた」と言っても、
内容のレベルは一般的な環境学や環境科学の本よりも、劣るようなものではなかったです。
この本は、学生の報告書をまとめた本です。
法学部・文学部・外国語学部の学生です。
内容は、地球環境問題・南北問題・公害・環境法・環境経済学・企業・NGO・日本の自然となっています。
例えば、環境経済学で、外部性の内部化だけを解決法とせず、いろいろなアプローチを調査する等、
特定の方法に偏らないスタンスに好感を持ちました。
全般的には、科学技術は薄く、社会の仕組みに重点を置いた環境問題へのアプローチになっています。
加藤尚武 編著 東洋経済新報社 2004
講演会の原稿のような論調の本です。 環境問題の見方を述べた後に、 廃棄物の越境問題・経済の保全の両立・地域社会・LCAのような、 環境問題の様々なキーワードに関係するような話が並んでいます。
松尾友矩 著 岩波書店 2001
「岩波講座 現代工学の基礎」シリーズの一冊です。 文明史・公害史から始まり、地球の仕組み・環境問題の対策技術・ ISO14000s ・ 環境経営 と続きます。 いろいろな事がコンパクトにまとまっていて、事典みたいな感じもします。
名古屋大学環境学研究科 編 藤原書房 2005
伊勢湾を教材にした、地域の環境学の本です。 内容は、伊勢湾流域圏の地理的、社会的な情報の提示からスタートしています。 この地域の環境問題と、この地域の自然環境や社会環境の解説があり、 全般的に事典のような感じです。
岡本眞一・市川陽一 編著 産業図書 2005
大気の話が多いです。
大気とは・汚染の影響・汚染のメカニズム・測定技術・対策技術・環境リスクがあります。
また、政策・環境アセスメント・経済・企業の環境配慮・
製品の環境影響評価
・温暖化・エネルギー問題にも話が及びます。
全12巻で、2002年頃に岩波書店から発刊されました。
3巻は未読です。
未読の本は、筆者が探した時点(2008年)で、未刊のようでした。
入門書としては、全般的に量が多過ぎな気もしますが、よくできていると思います。
朝日新聞社 2005
執筆は約40人で、各分野の第一線を知る方が選ばれているようです。
筆者でも知っているような著名な方が、5、6人入ってました。
環境問題のキーワード集、といった感じです。
田中修三 編著 共立出版 2003
いろいろなことがバランス良く書かれています。
1章:循環型社会
2章:環境問題集(汚染・温暖化・酸性雨・オゾン層)と、環境史。
化学色が強いです。
3章:法と経済
4章:計画と技術(都市計画を含みます。)
5章:政治と教育
牧野国義 著 環境新聞社 2006
「生活環境の環境問題集+α」という感じです。
温暖化・オゾン層・気象と健康影響・室内環境・異常気象・大気汚染・花粉症・水利用の問題・おいしい水・
環境ホルモン・廃棄物・騒音・電磁波・環境アセスメント、という内容になっています。
井上堅太郎 著 大学教育出版社 2006
様々な問題の概説があります。 改善の方法として、 環境測定の方法や LCA が、ちょこっと書いてあります。
増田啓子・北川秀樹 著 法律文化社 2009
井上尚之 編著 関西学院大学出版会 2011
副題に沿って内容を説明すると、 「歴史」が、ギリシャ、ローマ、イスラム圏、中世ヨーロッパ、イギリス、アメリカ、 日本における環境破壊の事例集になっています。 「技術」が、クリーンエネルギーや、新エネルギーの解説です。 「マネジメント」が、 ISO14001 の解説です。 多くの環境学の本にあるような、網羅的、体系的な内容ではないです。
植田栄二・武本行正・小川束 編著 同文館出版 2001
環境問題の課題を、
「資源の有効利用についての意識改革」と、
「人間と周辺(環境)の共生」としています。
第T部 地球環境問題
第U部 環境問題と社会(法や経済)
第V部 環境と思想
第W部 環境問題と情報処理(水と大気のシミュレーションとリモートセンシング)
第X部 メディア環境
大別すると、第T部と第W部が理系で、第U部と第V部が文系です。
環境分析の紹介が、生物による水質評価に限定されている等、断片的なテーマの設定になっています。
第X部ですが、「文字文化の発達と環境問題は関係している。」という主張のみが、
環境問題と関連しているものの、
その他は「ホールの音響設計」や「デザイン」の話です。
第X部は、なぜこの本に含まれているのかが不思議です。
東京大学環境三四郎「環境の世紀」編集プロジェクト 編著 学芸出版社 2005
環境問題とは何か、環境学とは何か、と言った話と、 先端技術の勉強や、各国の実情の紹介になっています。 月刊誌の特集号のような構成です。 タイトルに「問う!」と掲げていますが、 内容では、そのような批判的な感じは弱いです。
市川定夫 著 藤原書店 2008
副題が「現代の科学技術批判」です。 断片的な事例が大量に詰め込まれている感があります。 事例の量や、事例の切り取り方にはすごさを感じます。
瀬戸昌文 著 岩波書店 2002
食糧・水・エネルギー・廃棄物の話が出てきて、
貧富の差や、物欲と絡めています。
環境問題の結末が、人類の消滅であると何度も力説しています。
著者が人類を説得しようとしているような感じで、
かなり熱い文章になっています。
既存技術への批判が多いです。
平塚彰 編著 電気書院 2004
「価値を基軸にした、いのち、経済、環境を絡ませた視点」を与えるための、
環境学の原論の制定を意図しているようです。
各章のスタイルはばらばらで、思うところを列記した感じです。
読んでみたものの、何を「原論」としているのかがわかりませんでした。
「環境と○○」というタイトルの章が、20個あります。
○○に入るのが、
人間・創発・意味・地球市民・政治・
経済・経営・社会システム・教育・
デザイン
・
農業・水危機・モノづくり・新素材・河川・
植物・構造物・防災・医学・倫理です。
末吉冨太郎 著 思考社 1982
自伝的な書き方になっていて、論旨が読み取れなかったです。
環境問題を解決するために環境学を想定している訳ではないようです。
末吉冨太郎 著 世界書院 2001
論考の混ざった自伝です。
順路 次は 環境科学の本