統計的因果推論には、ルービンとパールという2人の第一人者がいらっしゃいます。
ルービン流は、 実験計画法 による科学的な研究方法を、さらに発展させたような分野になっています。
ルービン流では、因果関係は、 因果効果 で判断しようとします。 因果効果は量的変数で表されるものです。 因果推論では、「効果があるのか?、ないのか?」という2値の質的変数で考えることが多いですが、まず、この点が特徴です。 また、 反事実 があるということを念頭に置いています。
因果効果と反事実ということを始めに考えるようにしてから、因果を検証できるデータの取り方を考えて行きます。
計量経済学 は、ルービン流の因果推論を基礎にしているものが多いです。 経済のデータから、「事実と反事実」とみなせそうな部分をどのように見つけるのかが、手法のポイントになっています。
計量経済学 の手法の中でも、操作変数法については、特に反事実を意識した理論ではないです。
どちらかと言えばパール流の内容ですが、パール先生の本の中では、少し出てくる程度です。 一方、「ルービン流」と書いてある本の中では、ひとつの章を使うくらいの位置付けです。
パール流は、 条件付き独立による探索 による研究方法を、発展させたような分野になっています。
原因と結果の変数以外の変数について、扱い方の話が多いです。
因果関係の検証をするツールとして、因果ダイヤグラムと呼ばれる有向グラフを使います。
パール流でも、反事実という考え方は出て来ますが、条件付き独立による理論を、さらに強化するもののような位置付けになっています。
当初は大きな違いがあったようですが、2024年の時点での、ルービン流とパール流の大きな違いは、学ぶ項目の位置付けの違いのようです。 ルービン流では、反事実の話が、最初の関門ですが、パール流では、最終の関門です。 因果効果については、ルービン流では、常に念頭にありますが、パール流では、「計算しようと思えば計算できる」といった感じのものです。
下図のような感じです。
実線の丸は、事実として得られているサンプルで、点線の丸は、そのサンプルの反事実です。
ルービン流では、「反事実のデータをどのようにして得るか」というところからアプローチします。
パール流では、全体的なモデルを作ってから、反事実をモデルに入れて行きます。
厳密にどうかまでは、筆者は調べ切れていないのですが、ルービン流やパール流で扱われていない種類の因果推論は以下です。
「インベンス・ルービン 統計的因果推論 上・下」 G.W. インベンス・D.B. ルービン 著 朝倉書店 2023
潜在的結果変数(事実と反事実の両方があること)を述べてから、因果効果の説明になります。
上巻は、潜在的結果変数のデータを取る方法としての、
実験計画法
の本になっています。
下巻は、操作変数といったものも考慮しています。
「医学のための因果推論II Rubin因果モデル」 田中司朗 著 朝倉書店 2022
一般化線形モデルから始まって、潜在結果変数、媒介、操作変数法と続きます。
「統計的因果推論の理論と実装 潜在的結果変数と欠測データ」 高橋将宣 著 共立出版 2022
ルービン流とパール流の違いについて、少し解説があります。
「統計的因果推論」 岩崎学 著 朝倉書店 2015
事象と事象の間に因果関係がある事を言うには、そうでないパターンもわかっている必要がある、と言った話を丁寧に解説しています。
こういったデータを取るには、実験的なアプローチがベストですが、社会科学など、実験ができない場合は、観察研究になります。
観察研究では、実験研究とは異なり、必ず偏りが起きる。
データの集め方など、できるだけ実験研究に近付けると良い。その方法のひとつが傾向スコア。
8章までが、薬などの効果の有無の分析です。
9章のケースコントロールは、結果の原因を探る方法になります。
原因と考えられるものが、本当に原因なのかを調べます。
「社会科学と因果分析 ウェーバーの方法論から知の現在へ」 佐藤俊樹 著 佐藤俊樹 2019
「事実と反事実のデータをきちんと取って検証しようとすると、先進国ではデータが取れないから、発展途上国でデータを取る」
という話があるそうです。
この本が問題視しているのは、そういう行為が研究のあり方として良いのか、という点のようですが、
「発展途上国の場合の結果が、先進国でも当てはまるか」という問題もあるようです。
「岩波データサイエンス Vol.3」 岩波データサイエンス刊行委員会 編 岩波書店 2016
相関と因果の違いは、後者は、Xに介入する事で、Yが変わるという性質を持っている事。
これを確認するためのデータの取り方をまとめています。
バックドア基準、準実験のデザイン、傾向スコア、操作変数、と言った事が話題です。
「統計的因果推論 モデル・推論・推測」 Judea Pearl 著 黒木学 訳 共立出版 2009
ベイジアンネットワーク
や
SEM
の中での交絡の扱い方などの話があります。
哲学的な話や、論理学的な話が、独特な言い回しで展開されていて難解です。
因果関係にはANDとORがある話や、必要条件と十分条件の違いがある話もあります。
「入門 統計的因果推論」 Judea Pearl, Madelyn Glymour, Nicholas P. Jewell 著 落海浩 訳 朝倉書店 2019
グラフィカルモデル、介入、反事実について、200ページ弱でまとまっています。
「因果推論の科学 「なぜ?」の問いにどう答えるか」 ジューディア・パール、ダナ・マッケンジー 著 文藝春秋 2022
上記の同著者の本を、一般の人向けにわかりやすく書き直したような内容になっています。
著者の周囲では、原因と結果の関係について議論することは、非科学的として避けられていたそうです。
そのような状況に対して、科学的な方法となるのが、この本の内容としています。
・因果のはしご :関連付け、介入、反事実の3段階でレベルアップすること。
「もし〜ではなかったら」を想像する反事実がもっとも高度。この本で「因果革命」と呼んでいるものの中心が反事実の事。
・媒介 :原因と結果をつなぐメカニズムのように説明しているが、実体としては、原因対しての結果、結果に対しての原因のような中間的なものや、
間接的な経路にあるものを想定している。
「統計的因果推論 回帰分析の新しい枠組み」 宮川雅巳 著 朝倉書店 2004
副題にもあるように、回帰分析の発展的な使い方として、統計的因果推論を解説しています。
因果効果として、分散を使う時の理論も説明があります。
「構造的因果モデルの基礎」 黒木学 著 共立出版 2017
因果ダイヤグラムの数学的な性質を解説している感じの本でした。
ベイジアンネットワーク
自身が因果を表すモデルではない事は、はっきりと述べられています。
順路 次は 事実と反事実の分析