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統計的因果推論

統計的因果推論には、ルービンとパールという2人の第一人者がいらっしゃいます。

ルービン流

ルービン流は、 実験計画法 による科学的な研究方法を、さらに発展させたような分野になっています。

ルービン流では、因果関係は、 因果効果 で判断しようとします。 因果効果は量的変数で表されるものです。 因果推論では、「効果があるのか?、ないのか?」という2値の質的変数で考えることが多いですが、まず、この点が特徴です。 また、 反事実 があるということを念頭に置いています。

因果効果と反事実ということを始めに考えるようにしてから、因果を検証できるデータの取り方から考えることが多いです。

計量経済学:実証分析

ルービン流の因果推論は、 計量経済学 の基礎理論になっています。 経済のデータから、「事実と反事実」とみなせそうな部分をどのように見つけるのかが、手法のポイントになっています。

パール流

パール流は、 回帰分析 による研究方法を、発展させたような分野になっています。

パール流でも因果効果の考え方は出て来ますが、こちらでは主に相関関係から因果の有無を判断しようとしています。 ただし、単なる相関関係では因果は言えないので、 第3変数の除去 の方法が研究されて来ています。 また、第3の変数(媒介)による因果関係(間接効果)の発現の定式化も研究されています。

因果関係の検証をするツールとして、因果ダイヤグラムと呼ばれる有向グラフを使います。

パール流でも、反事実という考え方は出て来ますが、理論の終わりの方で出て来ます。 変数間の因果関係を構造方程式で仮定すれば、反事実の場合は、そこから導けるという考え方をしているようです。

ルービン流とパール流の違い

ルービン流とパール流の違いは、見方によっては、 同じ事についての、アプローチの違いと言えそうです。

下図のような感じです。 実線の丸は、事実として得られているサンプルで、点線の丸は、そのサンプルの反事実です。
causal_effect

ルービン流では、「反事実のデータをどのようにして得るか」というところからアプローチします。

パール流では、第3変数の除去で、介入(do演算子)という考え方をしますが、ここで、「条件のどちらか片方だけの場合にどうなるか?」 ということを想定します。 これをまとめると、事実と反事実を網羅したモデルができます。

いずれのアプローチも、現実のデータだけではわからないものを仮定して、そこから理論を導き、それに現実のデータを当てはめて行く点は同じです。 最初に仮定するものが違いますが、縦を先にするか、横を先にするか、という違いと言えそうです。

ルービン流でもパール流でも、扱われない因果推論

厳密にどうかまでは、筆者は調べ切れていないのですが、ルービン流やパール流で扱われていない種類の因果推論は以下です。



参考文献

ルービン流(どちらかと言えば)

インベンス・ルービン 統計的因果推論 上・下」 G.W. インベンス・D.B. ルービン 著 朝倉書店 2023
潜在的結果変数(事実と反事実の両方があること)を述べてから、因果効果の説明になります。 上巻は、潜在的結果変数のデータを取る方法としての、 実験計画法 の本になっています。 下巻は、操作変数といったものも考慮しています。


医学のための因果推論II Rubin因果モデル」 田中司朗 著 朝倉書店 2022
一般化線形モデルから始まって、潜在結果変数、媒介、操作変数法と続きます。


統計的因果推論」 岩崎学 著 朝倉書店 2015
事象と事象の間に因果関係がある事を言うには、そうでないパターンもわかっている必要がある、と言った話を丁寧に解説しています。
こういったデータを取るには、実験的なアプローチがベストですが、社会科学など、実験ができない場合は、観察研究になります。
観察研究では、実験研究とは異なり、必ず偏りが起きる。 データの集め方など、できるだけ実験研究に近付けると良い。その方法のひとつが傾向スコア。 8章までが、薬などの効果の有無の分析です。
9章のケースコントロールは、結果の原因を探る方法になります。 原因と考えられるものが、本当に原因なのかを調べます。


社会科学と因果分析 ウェーバーの方法論から知の現在へ」 佐藤俊樹 著 佐藤俊樹 2019
「事実と反事実のデータをきちんと取って検証しようとすると、先進国ではデータが取れないから、発展途上国でデータを取る」 という話があるそうです。 この本が問題視しているのは、そういう行為が研究のあり方として良いのか、という点のようですが、 「発展途上国の場合の結果が、先進国でも当てはまるか」という問題もあるようです。


パール流(どちらかと言えば)

岩波データサイエンス Vol.3」 岩波データサイエンス刊行委員会 編 岩波書店 2016
相関と因果の違いは、後者は、Xに介入する事で、Yが変わるという性質を持っている事。 これを確認するためのデータの取り方をまとめています。
バックドア基準、準実験のデザイン、傾向スコア、操作変数、と言った事が話題です。


統計的因果推論 モデル・推論・推測」 Judea Pearl 著 黒木学 訳 共立出版 2009
ベイジアンネットワークSEM の中での交絡の扱い方などの話があります。
哲学的な話や、論理学的な話が、独特な言い回しで展開されていて難解です。
因果関係にはANDとORがある話や、必要条件と十分条件の違いがある話もあります。


因果推論の科学 「なぜ?」の問いにどう答えるか」 ジューディア・パール、ダナ・マッケンジー 著 文藝春秋 2022
上記の同著者の本を、一般の人向けにわかりやすく書き直したような内容になっています。
著者の周囲では、原因と結果の関係について議論することは、非科学的として避けられていたそうです。 そのような状況に対して、科学的な方法となるのが、この本の内容としています。
変数の関係を、因果ダイアグラムと呼ばれる有向グラフで仮定して、構造方程式でモデル化して、それに基づいて疑似相関の影響を除去して、因果関係を検証する方法を紹介しています。


構造的因果モデルの基礎」 黒木学 著 共立出版 2017
因果ダイヤグラムの数学的な性質を解説している感じの本でした。
ベイジアンネットワーク 自身が因果を表すモデルではない事は、はっきりと述べられています。



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