異常状態の工程解析は、 「異常が発生したのはなぜか?」、 「問題が発生したのはなぜか?」ということを調べるための方法です。 原因不明の不良品が発生した時や、 定常状態の工程解析 で不可解なものが見つかった時に必要になって来ます。
例えば、「製品にゴミが付着する不良が多発している!」、 という品質の異常があった場合、 すぐにデータ解析で原因を調べ始めるのは、必ずしも良くありません。
こういうケースでは、例えば、 「ゴミの大きさは、どれも1mm位」、 「ゴミの主成分は、鉄」、 と言った追加の情報があれば、調査はうんと楽になります。 つまり、結果からすぐに原因を探しに行って、原因を見つけるよりも、 まず、「何が起きたのか?」と、結果をよく調べることが、とても大事です。
結果の調査の他にも、工程解析の実際の場面では、 情報源の調査や、データの収集や裏付けの調査等が、データ解析以前にあります。 場合によりますが、 それらを含めた一連の作業の中では、データ解析の作業は1割にもならないと思います。 解析以前の作業が、データ解析の成否に大きく影響します。
以下は、データ解析の話です。
扱うのが「異常」なので、 まずは、データの素性を調べる必要があります。 「普段は数字のデータなのに、文字のデータや、空欄になっている。」、というのが、 「異常」になっていることもあるので、生のデータを眺めることも必要です。
全部が数字のデータで、データの量が多い時は、 グラフ統計 が役に立ちます。 グラフを見ただけで、問題が解決することもあります。
データサイエンス 全般に言えることですが、 現実のデータは様々な事情が絡んでいるので、事情を把握しないで、データに統計手法(数理モデル)を当てはめると、 あまりうまく行かないものです。 特に、扱うのが「異常」現象の時は、データをよく見ることが威力を発揮します。
重回帰分析
や
判別分析
等の統計手法は、生のデータにそのまま使うと、あまり役に立たないです。
これらの手法は、
Z = a * X + b * Y + c
のような式が仮定されたり、
正規分布
が仮定されたりしますので、これらの仮定と実際のデータが合っていないと、役に立ちにくいです。
これらの手法は、 層別 のサンプリングや、データのクレンジングをすると、仮定が成り立つようになって、役に立つことがあります。
クレンジング(洗浄)というのは、データの修正です。 一般的な解説書では、異常値を削除することをデータのクレンジングのように説明していることがありますが、 「異常」の原因を調べることが目的の時は、削除しない方が良いこともあります。 削除するのは、例えば、正常状態の時に成り立っている数理を見つけて、その数理と異常値との関係を調べたい時です。
ちなみに、層別やクレンジングの作業の中で、異常の原因が見つかることもあります。
数理による解析で中心になるのは、 決定木 の考え方です。 データ全体に当てはまる理論を探すのではなく、データを分けて、絞り込んで行くところが役に立ちます。
MT法 は、「異常」の程度を数値的に表現する方法です。
解析の流れは、大きく分けると、下記の2つの系統になるようです。
外乱とは、製品に影響するあらゆる外部環境の乱れ(ばらつき)を言います。 ある日突然、品質に影響するようになったり、 予測不能であったり、しかもその影響が甚大だったりするものを指します。 現場の気温の変化、作業手順のちょっとした変更、仕様として表現できないような製造装置の差異、 材料のばらつき、等々、挙げればキリがありません。
異常状態の工程解析では、「異常」の原因が外乱になっていることがあります。
ちなみに、 品質工学 の ロバスト設計 という考え方は、設計段階で外乱に強い製品を作ることを目指しています。
「<図解>品質コンプライアンスのすべて ISO9001:2015プロセスアプローチによる不正防止の進め方」 小林久貴 著 日本能率協会マネジメントセンター 2019
品質コンプライアンス違反を引き起きすのは、4つのオーバーがあるとし、その違反を止められないのは3つのバッドがあるとしています。
それを未然に防ぐ方法として、プロセスアプローチを紹介しています。
「リスクの目分析シート」という、「目」のような形をしたフォーマットを使って、現状のプロセスがどのようになっているのかを調べます。
この分析は、監査の方法にします。
「わかる!使える!品質改善入門 <基礎知識><段取り><実践活動>」 石川君雄 著 日刊工業新聞社 2019
トヨタで行われている品質改善の方法が、コンパクトかつ網羅的にまとまっています。
工程の種類別の不良の種類などもあります。
「異物不良「ゼロ」徹底対策ガイド一般エリアからクリーンルームまで即効果が出る」 中崎勝 著 日刊工業新聞社 2019
異物対策の豊富な経験が、コンパクトにまとまっています。
原因対策の話もありますが、清掃の話がかなりあります。
5Sのひとつに「清掃」があることはよく知られていますが、「清掃」をここまで徹底してまとめているものは、他にはないかもしれません。
このページに関係するデータ関係の事は、少しあります。
異物の数のデータや、異物の種類のデータを常時監視しておき、その情報と現場の情報を紐付けて、解決につなげています。
「やさしいKI法 磯部式問題解決法で生産性を上げよう」 磯部邦夫 著 日本規格協会 1987
従来の問題解決法は、
特性要因図
を描いて、原因を見つけるものとしています。
そして、このアプローチのは、考えてもわからない原因は、見つからないことを、指摘しています。
この本では、観察によって、原因を見つける方法を紹介しています。
「不良は、ばらつきの結果と考えて、ばらつきの原因を探す」、
「場所や時間で、焦点を絞る」、
「比較する、拡大する、周囲を見る、重ね合わせる、によって、ちがいを見つける」を観察の視点として挙げています。
「よくわかる電子機器実装の品質不良検査とコスト削減」 杉山俊幸 著 日刊工業新聞社 2020
電子機器実装で起こる不良の種類や、その検査方法が具体的にまとまっています。
順路 次は 温度と湿度の原因分析