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三重指数平滑法

三重指数平滑法は季節性も扱えるので、、近年紹介されることが増えた、 Prophet に近い分析ができます。 また、データの差分について適用すれば、 SARIMAモデル に近い分析もできます。

私見ですが、数学的な研究対象としては、SARIMAモデルが面白いです。 三重指数平滑法は、実務向きです。 Prophetは、周期性、トレンド、イベントが共存しているような現象には、一番良い感じです。

単純指数平滑法(指数平滑モデル)

三重指数平滑法の前に、単純指数平滑法ですが、これは、時系列分析でポピュラーな、ARモデルの一種です。 単純指数平滑法は、単に「指数平滑法」や「指数平滑モデル」と呼ばれることが多いです。 二重指数平滑法や三重指数平滑法と区別する時には、「単純」を付けます。

まず、以下の式を使います。 この式は、局所的な平均値を求める式になっています。 最新の平均値を求めるのに、過去の平均値を使うので、 逐次学習 の一種です。
単純指数平滑法

ARモデルと同様の書き方をするのなら、予測式は以下になります。
単純指数平滑法

αは0から1の間にしますた、 αが0の時は、ホワイトノイズモデルと同じです。 αが1の時は、ランダムウォークモデルと同じです。 そのため、単純指数平滑法は、両極端にホワイトノイズモデルとランダムウォークモデルを持った中間モデルです。

ARモデルは、いくつ前のサンプルまでを参照するのかや、そのサンプルの係数の大きさを個別に調整しますが、 単純指数平滑法は、「直近のサンプルほど重視する」という考え方で、そこに指数の方法を使います。 計算が軽くなり、実務向きな手法になっています。

逐次学習としての単純指数平滑法

単純指数平滑法は、 平均値の逐次学習 の式と、似ています。

いわゆる逐次学習は、真の値が一定なことを想定しています。 単純指数平滑法は、真の値が変化することを想定しています。 その違いが、係数の違いになっています。

二重指数平滑法

ホワイトノイズモデルやランダムウォークモデルを使った予測では、予測する時に、直近の最新の値を使います。 ホワイトノイズモデルは、直近までの平均値です。 ランダムウォークモデルは、直近の値そのものです。 ばらつきの大きさがわからないので、それは予測に含めず、直近まででわかった情報の範囲で予測します。 この点は、単純指数平滑法も同じです。

「トレンド」というのは、上昇傾向や下降傾向がある場合をいいます。 例えば、上昇傾向がある場合に、単純指数平滑法で予測すると、ほぼ間違いなく、予測値が実測値より低くなります。 下降傾向でも同様です。

そのため、トレンドがあるとわかっているのなら、トレンドの分も加味した方が、予測値の精度が上がります。

二重指数平滑法は、トレンドを加味する方法です。

比較すると、下のグラフのようになります。 単純指数平滑法では、トレンドが考慮できない様子がわかります。
二重指数平滑法

三重指数平滑法

最後に、三重指数平滑法ですが、これは季節性(周期性)を、二重指数平滑法に加えています。

加法型と乗法型

三重指数平滑法には、加法型と乗法型があります。 加法型は、各項が足し算の形で組み合わさっています。 乗法型は、掛け算です。

「対数にすると、掛け算を足し算に変換できるので、加法型と乗法型は同じ」と考えることができますが、 実際は違います。

まず、加法型が適していて、乗法型が合わない例です。 下の例では、加法型は実測値の延長のような形で、もっともらしい予測ができています。 乗法型は、振幅が大きくなってしまっています。
加法型と乗法型

次に、乗法型が適していて、加法型が合わない例です。 下の例では、乗法型は実測値の延長のような形で、もっともらしい予測ができています。 加法型は、おかしな予測になっています。
加法型と乗法型

三重指数平滑法がマイナーな理由

三重指数平滑法があまり知られていない理由ですが、おそらく、三重指数平滑法よりも、ARIMAモデルの方が多くの研究者を引き付けたことが理由です。

ARIMAモデルは、抽象化や一般化がしやすいので、数学的な研究対象として面白いです。

一方、三重指数平滑法は、抽象化や一般化がしにくいので、数学的な研究対象になりにくいです。 これがマイナーな理由と思います。


ところで、三重指数平滑法は、直近のデータを重視する予測の方法として作りこまれた感じの理論なので、 ARIMAモデルよりも使い勝手が良く、予測の方法としては実務向きです。

Excelの予測シートに三重指数平滑法が採用されたのは、これが理由ではないかと思います。

Excelによる三重指数平滑法

Excelでは、三重指数平滑法が非常に簡単に使えるようになっています。 このサイトでは、 Excelで簡単に予測とシミュレーション のページで説明しています。

例えば、下の分析例は、東京の平均気温です。 12か月の周期がありますが、その周期を考慮した予測をしていることがわかります。 ちなみに、この関数は、「12」という周期を自動で判断して、考慮してくれます。 季節性がなければ、二重指数平滑法でモデルを作ってくれます。
Excelによる予測モデル

Excelでは、加法型が使えます。 また、予測値は中心値だけでなく、予測区間も出力されます。



参考文献

Forecasting: principles and practice, 3rd edition 予測: 原理と実践 (第3版)」 Hyndman, R.J., & Athanasopoulos, G.  著 OTexts 2021
https://otexts.com/fppjp/ets-forecasting.html
8章が、三重指数平滑法になっていて、詳しく説明されています。




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