自己相関分析では、ある時点(ステップ)の値が、1ステップや、それ以上前のステップの値で決まって来る現象を見ることができます。
「 相関 」と言えば、ふつうは「XとYの相関」という感じで、異なる変数の関係を調べますが、 自己相関分析では、基本的にひとつの変数の中だけの話です。 「自己」との相関を調べますので、自己相関分析と言います。
自己相関分析では、Xになるのが、前の測定の値とか、1時間前の値になります。 前の測定データには、さらに前のデータがありますから、 同じ値が、別の値のXになったりYになったりします。
一般的に「予測」と言えば、いろいろな情報を使って、もっとも確からしい予測をしようとします。大変です。
しかし、自己相関が高いのなら、自分の過去の情報だけで、予測ができてしまいますので、 これが可能なケースなら、ぜひ使いたい方法になります。
こういう書き方をすると、何か特別な予測の方法のように見えますが、 例えば、「最近3日間は、雨が降っていないから、今日の昼は晴れだろう。」 、という予測でも、これと同じ理論が使われています。
自己相関分析では、意識して、
X(n)
という書き方をしています。
時系列解析 なのに、それぞれのデータの添え字は、timeの「t」ではなく、「n」を使っています。
「n」は、「n番目の値」という意味です。
1時間おきに測定したデータなら、
「n番目 = n時間後」
という意味になります。
ただ、それは特殊な場合です。
「n番目の値」というのが、どの場合にも当てはまる使い方になります。
時系列解析では、どうやって サンプリング されたデータなのかという メタ知識 が、とても重要な事があります。 大きく分けると、「1秒ごと」、「1時間ごと」、という風に均等な時間でサンプリングしている場合と、 「1回の生産ごと」、「トラブル発生ごと」、という風に均等でないことがあります。
どちらのケースでも、ソフトの中では同じように解析することができますが、 ソフト自体は「n番目」という風にしか扱っていない点が大事です。 解析結果を解釈したり、利用したりする場合の注意点になります。
扱っているのが「n」という点のもうひとつ大事な注意点が、 自己相関分析では、ステップとステップの間で起きていることは、見ていない点です。 別の言い方をすれば、自己相関分析は、離散データとして時系列の変化を見ていて、連続データとしては見ていません。
例えば、「1時間ごとの気温のデータ」でしたら、データとデータの間に特に変わった事は起きそうもないので、特に気にしなくて良さそうですが、 どういうものを、どういう風にサンプリングしたのかがわからないデータでは、重要な注意点になります。
離散データとして考えると、 ステップからステップへの変化は、数学的には「写像」という言葉で表現できます。
「何らかのルールに従って、あるステップの値を、次のステップの値に変換している。」と解釈してしまうと、 数学の写像の理論を使って、解析することができます。 このアイディアは、 カオス の研究で、さかんに使われています。
単回帰分析 と 重回帰分析 の関係と、 自己単相関分析 と ARモデル の関係は、ほぼ同じです。
単回帰分析 は、シンプルな理論なので応用範囲が広いですが、 それと同じように、 自己単相関分析 は応用範囲が広いです。
一般的に、タイトルで「時系列解析」を掲げている本は、 自己相関分析関係が多いです。 ちなみに、 「システム同定」というタイトルの本は、目的は システム同定 ですが、 「時系列解析」の本とほぼ同じ内容です。
自己相関分析は、伝統的に線形現象の知見が積まれています。 非線形現象については、 カオス の研究の知見によるところが大きいです。
「現場ですぐ使える時系列データ分析 データサイエンティストのための基礎知識」 横内大介・青木義充 著 技術評論社 2014
時系列データと、点過程データの違いの説明から始まります。
時系列データは、値の変化のデータです。折れ線グラフが一般的です。
一方、点過程データは、値の発生のタイミングと、その時の大きさを表します。
こちらは、横軸を時刻にした
棒グラフ
にします。
この本の場合は、データの種類の解説の後に、株のデータの分析を題材にしています。
自己相関分析が中心ですが、銘柄の関係の分析として、
クラスター分析
も出て来ます。
「時系列解析入門」 北川源四郎 著 岩波書店 2005
中級者向けかもしれませんが、線形の時系列解析について、よくまとまっている本です。
時系列データの自己相関分析から始まり、ARMAモデル、状態空間モデル、周波数解析等が解説されています。
時変係数ARモデル:係数も時間的に変動するモデル。ただし、変動は正規分布を仮定。
「情報の物理学」 豊田正 著 講談社 1997
統計力学と確率的な時系列解析について解説しています。
「確率と確率過程」 武田一哉 編著 オーム社 2010
自己相関係数の次に、相互相関係数が紹介されています。
相互相関係数は、自己相関係数と、一般的な相関係数の両方の特徴を持ったもので、時刻をずらして、異なる変数の相関を見るものです。
「時系列解析の方法」 尾崎統・北川源四郎 編 朝倉書店 1998
内容のほとんどは、線形現象です。
最小二乗法で求めたモデル式の係数は、必ずしも定常性を持たないので、
シミュレーションに使うと発散することがある。
ユール・ウォーカー法だと定常性を持つ。
ピリオドグラム解析 − 雑音がある中で、未知の周波数の強さを推定する方法
システム同定
、
カルマンフィルタ
、最適制御等の制御系の話が多めです。
フィードバックシステムは、入力と雑音に相関があるから、自己相関モデルが使えない。
ベイズモデルが、非定常時系列(季節変化、等)に使うモデルとして出て来ます。
非線形現象の予測や、構造の推定方法として、一般化ExpARモデルが紹介されています。
「非線形時系列解析」 松葉育雄 著 朝倉書店 2000
式の展開が比較的詳しいです。
「状態変数=次元」ということで、次元の推定の話があります。
長期記憶性というのは、長時間前の状態の影響があることを言います。
長期記憶性の指標として、「ハースト数」が出て来ます。
「カオス時系列解析の基礎と応用」 合原一幸 編 産業図書 2000
[y(t),y(t+1)]のペアを散布図にすると、一見複雑に見えるデータのモデルが、簡単にわかることがある事を紹介しています。
わかるのは、yが写像になっている場合です。
「写像」という法則は、データの見方を工夫しないと、見つかりにくいことを指摘しています。
ちなみに、散布図が直線的な現象を表しているなら、
上記のように、自己相関分析ができます。この本は、もっと一般的な場合の話をしています。
ターケンスの埋め込み定理というのは、
「観測時系列から時間遅れ座標系へ変換」ということをするらしいです。
「カオスと時系列」 松本隆 他 著 培風館 2002
カオスを知る・発見する・予測する・事例研究という構成になっていて、カオスの本では変わっています。
ARモデル、線形確率過程のモデルが出て来ます。
「階層ベイズ的定式化」という、ニューラルネットワークそっくりのものが出て来ます。
「カオスを発見する」には、「次元の推定」が含まれます。
「理工基礎 確率とその応用」 逆瀬川浩孝 著 サイエンス社 2004
確率で使う道具を順に解説していて、
確率過程の入門があります。
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