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管理会計

企業の外部の人が、その企業の財務状態を見るための制度として、 財務会計 があります。 財務会計は、期毎の集計であったりすることもあり、 企業内の分析や、意思決定のツールとしては、不足しています。

企業内で役に立つツールとしては、管理会計があります。

財務会計は、作り方の国際的なルールがあり、これがあるので、同じ方法ででどの企業でも分析することができますし、 異なる企業のデータが比べられるようにもなっています。

管理会計は、自社の分析に使う物なので、自由に作ることができます。 自社にとって一番効果的なものを作ることもできます。
管理会計

新しい管理会計:付加価値会計

付加価値会計は、製造業に対して、吉川武文氏が提案されている管理会計です。(他にもいらっしゃるかもしれませんが、筆者は知らないです。)

また、同氏が紹介する管理会計では、付加価値の話だけでなく、設備投資や在庫管理など、 製造業の業務の中で実際に起きる判断や方針決定の場面で必要な会計の使い方の話が豊富です。

例えば、「自動化を進めよう」、「ロボットを入れよう」という案は、導入のための手間や費用が何とかなるのなら、 どんどん推進した方が良いように思いがちですが、 自動化・ロボット化をすると、その後の変更が難しくなるデメリットや、投資ゲームのような側面があることに言及されています。

変動費と固定費

従来の会計では、売上原価、販売費、一般管理費、営業外費用などの項目がありますが、 これらはそれぞれの中に変動費と固定費が混ざっています。 付加価値会計では、それが会計が活用しにくかったり、不正操作を生んだりする原因と考えています。

付加価値会計では、 材料費、変動労務費、外注加工費、外注物流費、在庫金利が変動費に含まれます。 固定費は、固定労務費、設備投資、資本コストが含まれます。 そして、これらの項目を分析の対象にします。

付加価値

付加価値会計における付加価値は、
付加価値 = 売上高 − コスト
で計算します。

財務会計 にも「付加価値」の計算方法がありますが、考え方が違っています。

付加価値会計では、コストは変動費のことです。 これはコストダウンの活動の対象にします。

固定費は、資源と考えています。 ゼロは目指しません。

従来の財務会計+αの管理会計

筆者の知っている範囲での話ですが、既存の管理会計の本の多くは、社外向けに公表する 財務会計 では、社内の改善をするには足りないとして、方法を追加したり、会計ではない経営手法も解説したりするものが多いです。 財務以外にも、会社を良くするための様々なツールが詰め込まれています。

人によって、「管理会計」に含んでいるものが違っています。 このページには、Beyond Budgetingと、Activity-Based Costingについて書きましたが、 財務会計バランススコアカード経済性分析制約条件の理論環境管理会計 も管理会計に含まれることが多いです。

Beyond Budgeting(BB)

Beyond Budgeting(BB)は、「超予算」と訳される事が多いようです。 旧来の予算制度は、予算作成に膨大な手間暇がかかったり、 事業の柔軟な変化に対応するのが難しいことを問題視して考えられたものです。

まだ発展途上のようで、 目標を「他社との差」等を使って、相対的な目標にすることや、 非財務的な指標を使ったり、タイムリーな情報を使うこと等が提案されています。

予算不要論もあり、実際に予算の作成をやめた企業もあるそうです。

Activity-Based Costing (ABC)

製造間接費を原価に反映させる時は、割り勘勘定に近いものであったのですが、 実際の活動に結び付けることによって、より実態にあった計算ができるようにしているようです。 これを、Activity-Based Costing (ABC:活動基準原価管理)と言います。

ABCを元にして改善を進めるのが、 Activity-Based Management(ABM:活動基準管理)で、 ABCを元にして予算を作るのが、 Activity-Based Budgeting (ABB:活動基準予算管理) と言うそうです。

管理会計に多変量解析を使う

お金の計算は、基本的に加減乗除(足し算、引き算、掛け算、割り算)だけです。 会計にはいろいろな指標がありますが、指標同士の関係は加減乗除になっています。 また、定義式が明確です。

そのため、会計のデータの分析は、「定義式が〇〇で、現状の値は××だから、対策は△△。」といった感じになります。 上記の新しい管理会計の場合は、定義式の見直しからして、より確実な効果のある分析につなげようとしています。

下記の参考文献で「そういうこともあるのか」と思ったのですが、定義式から定性的かつ論理的に対策を立てるのは正攻法ですが、 定量的には必ずしもベストな方法ではないこともあるようです。 多変量解析の見方で、定量的に変数の関係を見て行くことも合わせていくと、強固な分析になるようです。



参考文献

新しい管理会計:付加価値会計

脱炭素経営の基本と仕組みがよ〜くわかる本 CO2の削減と経済の持続を両立する!」  吉川武文 著 秀和システム 2022
工場のカイゼン活動の経験が豊富でありながら、公認会計士や気象予報士の資格も持つとという異色の経歴の著者です。
エネルギー生産性として、「事業付加価値/エネルギー使用量」という計算式を提案しています。
吉川氏の一連の著作の内容に、エネルギー使用料を会計的に管理する方法が、従来の環境会計なども元にして、提案されています。
エネルギー購入費を変動費、再エネ維持費を固定費に加えています。


図解!生産現場をカイゼンする「管理会計」  新しい会計を生産技術者が知るための<なぜなぜ88>」  吉川武文 著 日刊工業新聞社 2020
・会計に表れないカイゼンは意味がない。従来から注力されて来た7つのムダは、すべて変動労務費の話で、他は取り上げられてこなかった。 この本では、従来の7つのムダとは別に、8つのムダを新たに設定している。「ゼロ在庫」、「ムダ取り」、「共倒れ」、「場当たり配送」、 「工場外無関心」、「身分分断」、「会計不毛」、「株主不在」の8つを説明する形で、章が構成されています。
・製造業の主戦場は、工場から物流へ。物流部門が製造部門をプッシュする。
・変動費と固定費で、やることは変わる。コストダウンするのは、変動費。固定費は生産性を管理する。
・「在庫ゼロ」は会計的にも意味にある目標だが、在庫ゼロにこだわり過ぎると弊害もある。
・付録として、各種の改善活動について、活動のビフォーアフターをまとめるための計算シートが付いています。 会計の点で明確に効果が現れる活動をするための参考になります。
内部収益率 > 資本コストなら計画はGO
内部収益率は、EXCELのIRR関数で求まる。


図解!製造業の管理会計「最重要KPI」がわかる本 会社を本当に良くして事業復活するための徹底解説」 吉川武文 著 日刊工業新聞社 2020
以前から重視されて来たKPIについて、問題点と新しいあり方を説明する形で章が作られています。
従来から製造業では、最重要KPIとして、利益や利益率を見ていることは、大きな問題があるとしています。 利益は、株主のものなので、従業員のモチベーションが上がらないことや、 また、利益を良く見せるために、他を悪くすることもできることを問題点として挙げています。


技術屋が書いた会計の本」  吉川武文 著 秀和システム 2016
「〇〇と言われた時に読む章」というタイトルで、各章が作られています。 〇〇に入るのは、「利益計画を立てなさい」、「設備投資を計画しなさい」、「キャッシュに注意しなさい」、「在庫を減らしなさい」、「コストマネージメントをしなさい」、「業績評価をしなさい」、「IoTの時代だろう」です。
・「利益計画を立てなさい」:まず、売上から総費用(変動費+固定費)を引くCVP分析を紹介した後で、売上から変動費を引くCVP分析を紹介して、 後者を「付加価値法」と紹介しています。
・「設備投資を計画しなさい」:割引計算。WACC(資本コスト)を加味して計算。WACCは、負債と資本のそれぞれの金利を統合した金利の指標
・「キャッシュに注意しなさい」:黒字倒産しないための財務諸表の読み方
・「在庫を減らしなさい」:ビジネスモデルから適性在庫を見積もる
・「コストマネージメントをしなさい」:コストダウンの3原則は、「実行可能」、「効果が十分」、「会計的に測定できる」
・「業績評価をしなさい」:財務会計ではなく、新しい管理会計(変動費と固定費をしっかり区分・サプライチェーン全体が対象)で管理
・「IoTの時代だろう」:変動費はコストダウンを目指し、固定費はイノベーションを目指す。 流通業はお客様のニーズを真っすぐに見つめた活動をしているので、製品の転売だけで大きな価値を出す。 製造業は流通業を見習うべき。 自動化は、キャッシュの固定、ラインの更新ができない、作業者が工程改善できない、というリスクがある。
このページにある同著者の4つの著作ですが、回収期間法と内部収益率法の考え方などの解説は、この本が一番詳しいです。


従来の財務会計+αの管理会計

ケースで学ぶ管理会計 ビジネスの成功と失敗の裏には管理会計の優劣がある」 金子智朗  著 同文舘出版 2014
有名な大企業がどういった経営判断をしているのか、どのような組織作りをしているのか、といった視点が中心です。
管理会計自体の話は、製品や顧客で分けて分析できるようにしておくこと、等があります。


管理会計がうまくいかない本当の理由 : 顧客志向で売上を伸ばす新アプローチ」 金子智朗 著 日本経済新聞出版社 2011
管理会計の問題を挙げつつ、経営全般について、いろいろとコメントしている本です。 企業価値マーケティング に関わる内容は、それぞれのページに振り分けました。 このページの下記は、それら以外の内容について。
・コストは、売上の源泉。コストの削減では、企業は成長しない。
・人は評価基準通りに行動する。
・売上を伸ばすには、 マーケティング の考え方を取り入れて顧客志向になっていくと良く、そういう行動を社員がしていくようになるには、業績評価(管理会計の手法)で評価するようにしていく。


「管理会計の基本」がすべてわかる本」 金子智朗 著 秀和システム 2009
・財務会計は、意思決定には役に立たないと強く主張して、管理会計の必要性を力説しています。 財務会計は、港で待つ貴族のための会計
・財務会計は、年度毎に利益をまとめるタテの視点。管理会計は、項目毎に年をまたがって利益をまとめるヨコの視点。
・「費用」は、キャッシュアウトがその年度。「投資」は、キャッシュアウトが複数年。費用とは異なる計算も必要
・投資の経済性計算:回収期間法、投下資本利益率法(ROI法)、正味現在価値法(NPV法)、内部利益率法(IRR法)
・間接費の管理が重要になって来ているが、それには標準原価計算はあまり役に立たない。
・ABC(Activity Based Costing):間接費を細かく配賦する。
・予算管理は管理できる数字だけにする。
・業績評価の話もある。


会計思考トレーニング」 金子智朗 著 PHP研究所 2023
意思決定のためのお金の考え方の本です。


ケーススタディ戦略管理会計 :MBAアカウンティング」 辻正雄 編著 中央経済社 2010
・1章がレピュテーション・マネジメント(reputation management:評判の管理)になっていて驚きました。 この本では、 CSR企業価値 を増大させる活動と考えています。 管理会計の手法の、バランススコアカードや戦略マップは、お金以外の無形の資産も対象にしているので、 管理会計はレピュテーションと関係があるそうです。 RepTrakによるレピュテーションの評価基準は、 製品・サービス、革新性、パフォーマンス、リーダーシップ、ガバナンス、市民性、職場の7つです。
・原価企画に 価値工学(VE) が入っています。
・環境管理会計には、 MFCAやLCC の他に、環境予算マトリックスというのも入っています。
リスクマネジメント 、報酬システム、業績評価にも触れています。


組織を活かす管理会計 :組織モデルと業績管理会計との関係性」 伊藤克容 著 生産性出版 2007
組織問題と管理会計の関係を明らかにしようとしている本です。 この本の主題とは少しズレますが、目的と手法の関係がコンパクトにまとまっていました。
・短期の利益計画作成 : CVP分析、予算編成
・利益管理の統制 : 予算実績差異分析
・原価管理 : 標準原価計算、変動予算
・短期の意思決定 : 差額原価収益分析
・長期の意思決定 : NPV、IRR
10章は、「業績管理会計による組織文化マネジメントの可能性」です。 組織文化には、「(1)標準化されていないような、あいまいで、不確定な状況でも、 社員が大雑把ながらも行動ができる。」、 「(2)組織の一体感が高まる。」、という利点があるそうです。
また、伝統的な予算管理が組織の呪縛になっているので、BBやABBは、 官僚的な組織が自律的な組織になるためのツールとして期待できるそうです。


企業価値創造の管理会計」 櫻井通晴・伊藤和憲 編著 同文舘 2007
日経PRISM が、経済性、環境性、社会性の側面から企業を測定する方法として解説されています。
戦略論には、ポジショニング・アプローチ、ゲーム・アプローチ、資源アプローチ、学習アプローチの4種がありますが、 BBは、学習アプローチに向いているそうです。
第13章は、 制約条件の理論 の紹介です。
第18章は、「CSRを配慮した原価企画」です。 社会的費用 も含めてLCCをして、このLCCによる目標原価をおき、原価低減の活動をしていくと CSR に配慮できるそうです。
この本は、政府や銀行の管理会計の章もあります。 銀行は信用リスクをコストとして会計の中に取り込むことをしています。 リスク管理 は、どの企業にもあることなので、参考になります。


管理会計を学ぶ」 溝口周二・奥山茂・田中弘 著  税務経理協会 2010
財務分析バランススコアカード 、予算管理、キャッシュフロー管理、原価管理、差額原価収益分析等について、基礎的なことをまとめています。


わかる!管理会計 :経営の意思決定に役立つ会計のしくみを学ぶ」 林總 著 ダイヤモンド社 2007
・7章で月次決算の必要性を説明
・経営者の使命は、株主価値を高めること。株主価値が、キャッシュフローを得続けるのに必要だから。
・この本の「コスト」は「原価」のこと。「費用」とは異なる。
・原価計算や中期経営計画の話が詳しめ。
・利益の計算の話は重視していない。


管理会計・入門 戦略経営のためのマネジリアル・アカウンティング」 浅田孝幸 他 著 有斐閣 2017
原価の計画や、事業戦略です。


ドラッカーと会計の話をしよう」 林總 作 横山アキラ 画 中経出版 2011
ドラッカーは 経営学 だけでなく、会計についても深い考察をしていたという所から始まります。
---利益」と「儲け」---
・利益 = 売上と費用の差 → 恣意的な調整ができるので、データとして信用できない。
・儲け = キャッシュフロー(現金) → データとして信用できる。
・価値を作り出すことが利益を生む。
・利益 = @事業の判定基準、A将来のリスクに備える保険、B資金調達の誘因
---コストについて---
・製品には、寿命があるから、寿命の中のどの時期なのかを考えて、コストをかける重みを考える。
コストは、無駄に使われたのか、利益を生むのに使われたのかを見極める。
・損益計算書の欠点 : お金の使い方がわからず、使った金額だけわかる。
・原価 = 材料の仕込みから現金代金を回収するまでの通しコスト。このような原価計算ではプロセス全体を見る。 ABC原価計画で実現できるようになった。
従来の原価計算は生産時のコストのみ。これは肉体労働が製造業のコストの主体だった時に有効だった。
---価格について---
製品の価格は顧客が決める。 顧客が妥当だと思う値段で、買ってくれる。
売り手は自分のコストだけを考えて価格を決めたがるが、 顧客は買う事に伴うプロセスのコストも支払っている。


管理会計に多変量解析を使う

意思決定のための管理会計 :財務戦略&キャッシュフロー時代に対応して」 陶山博太 著 同友館 1999
管理会計の本ですが、 多変量解析 を使う例も出て来る珍しい本です。 一般的な管理会計の本で、統計的な話が出て来る場合、 単回帰分析 を使って固定費と変動費を分ける話があります。 この本は、さらに積極的に使っています。
ゲーム理論 は意思決定の方法として紹介されています。
まず、 相関解析 をして、変数間の様々な組合せの分析があります。
重回帰分析 は、効果的な対策の検討に使います。
従来の管理会計では、各指標の定義式を頭に入れて、「Aという指標は、BをCで割ったものだから、Bに対して対策すれば、Aが改善する」という考え方をするものの、どの指標に注目するのか、どういう風に解釈するのか、というところに、分析者の思い込みがあったようです。 著者は、Aという指標に相関が高いものを探すというアプローチをして、効果的な対策を見つけようとしています。
そして、従来の考え方で選んだ変数の組合せと、相関関係が高いものを選んだ組合せについて、 ニューラルネットワーク でモデル式を決める計算をすると、後者の方が収束が早いことを確認しています。



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