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品質工学の過去と未来

品質工学の歴史と解釈

「品質工学の歴史」と題名に書きましたが、以下に書いていることは、正確には筆者の仮説です。 多分、正しいと思いますが、ちゃんと確認していません。

目的と方法の変遷と、それらの関係

ロバスト設計 の所で、品質工学の目的になっているロバスト性には、
「@ 工程で外乱があっても、同じものが作られること」
「A 顧客の使用条件の違いや、製品の劣化があっても、同じ性能が発揮されること」
の2つがあると書きましたが、歴史的には、@からAに移って来たようです。

目的が移るタイミングで、方法論に「動特性」が加わっています。 品質工学の文献では、「Aを実現するための方法論が、動特性(機能性)の評価」と説明されることがありますが、 筆者は賛同できません。 @・Aの目的と、静特性・動特性の方法論は、一対一で対応するものではないからです。 品質工学の関係者には、目的論の歴史と、方法論の歴史の関わりの解釈に、混乱があります。

SPCや信頼性工学との関係

上記の@は、 SPC の中でも重視されて来たことです。 また、上記のAは、 信頼性工学 の中で重視されて来たことです。

「品質工学は、SPCや信頼性工学の分野を補完する」と考えると、品質工学の利点がわかりやすいと思います。 しかし、世の中には、「品質工学があれば、SPCや信頼性工学は不要」とする主張もあるようです。

品質工学がしてきたこと

品質工学(もっと言えば、田口玄一氏)がしてきたこととは、品質の分野に他の分野の言葉を、次々と持ち込んだことです。 持ち込まれたものとは、例えば、 実験計画法SN比フィードバック多変量解析パターン認識です。 そして、ものによっては、言葉を持ち込むだけでなく、品質工学なりの解釈をし、アレンジを加えたりもしています。 (人によっては、これらのアレンジしたものを使いこなすことが品質工学であり、 それだけで品質の諸問題はすべて解決すると考えているようです。)

自分の問題意識に対して、使える道具を様々な分野から持って来て、 アレンジまでするのは、品質工学のすごさであり、特徴だと思います。 (ただし、未完成や不適切なアレンジが、いつまでも残ってしまうのも、品質工学の特徴のように思えます。)

参考文献

品質工学 は、田口氏がほぼ独自に築いたものですから、品質工学の「原典」は田口氏の著書です。 これを読まないままで、品質工学についてどうこういうのも、どうかと思います。

このサイトの品質工学は、だいぶ整理できましたので、 一度、田口氏自身の著書を、調べてみました。 下記は、その時のメモです。 下に行くほど、出版が古いです。 今は言われていないことや、論点の変遷がわかり、面白い試みでした。 尚、田口氏の著書でも、このサイトの本編で取り上げているものは下記に入れていません。

1950〜70年代の著書は、 「統計解析」・「実験計画法」がタイトルになっている本と、工程管理のための本です。 この年代の本は、筆者はちょっと変わったタイトルのを1冊見ただけです。

80年代後半から90年代前半の間の本は、見ていません。 その前後の本を見る限りでは、 この期間に、「静特性のSN比の時代」⇒「動特性(機能性)オンリーの時代」、と変わったのだと思います。 また、この期間に製造段階(工程管理)は言われなくなり、 MTシステムが言われ始めたようです。

研究開発の戦略 華麗なるタグチメソッドの真髄」 田口玄一 著 日本規格協会 2005
最初はマネジメント論。戦略と戦術の違い、等。
T法 は、名前だけ出てくる。
MTシステム で、情報システムの設計の分野に進出しようとしているみたい。
「L18で実験しなさい。」になっている。
動的SN比が、唯一の測度という位置付け


逆説の技術戦略 タグチメソッドによるブレークスルー」  田口玄一 他 編著 日本規格協会 2002
品質工学で有名な田口玄一氏と矢野宏氏のご子息(田口伸氏・矢野耕也氏)は、お二方とも品質工学で仕事をしている。
最初の章が、ご子息同士の対談(クールに品質工学を見ている)。 その後に、矢野宏氏による品質工学の解説、 田口玄一氏による品質工学の解説、 品質工学の事例集、 田口玄一氏と矢野宏氏の対談、という順で構成されている。
標準SN比 の話が多い。


品質工学の数理」  田口玄一 著 日本規格協会 1999
「試作の合理化は、小型・テストピース・シミュレーション」 ⇒ この合理化だけで、品質の設計が終わるような言われ方が、別の所でされているようです。
この本は最初から、 「機能性」 の評価の話
MT法 で、信号(Y)と マハラノビスの距離 ( X 系で作った量)を、比例式で評価している。 (このアイディアはMTシステムだけの本にも出て来るのですが、筆者は以前から疑問があります。 田口氏自身も使っていることは、この本で初めて知りました。)
直交表は、利得の加法性のチェックの方法としている。
L18の直交表に強いこだわりを持っている。
デジタルのSN比や、順位データのSN比、等の変わったSN比が紹介されている。
品質工学では、 検定 が必要ないとしている。
「製品の機能 = 機能性」、ということなっている。
品質工学では、非線形でかなり複雑なものが望ましいとする。 (別のところでは、線形が望ましいとしているようですが。)
比例式(線形性)がある場合が望目特性のSN比を使い、ない場合は動特性のSN比を使うとしている。 (動特性のSN比の使用目的が、非線形現象の、線形への近さを調べることになっています。 ところで、動特性のSN比の使用目的には、線形と思っているものが、どれ位線形なのかを調べる場合もあります。 しかし、ここでは、その目的の時は望目特性のSN比を使うとしています。)


管理者、スタッフのためのオフライン品質管理」 田口玄一 著 中部品質管理協会 1981
「ノイズ」だけでなく、「雑音」という単語も出てくる。
製品設計の3段階が紹介されている。
この本は、製品について 設計の3段階 を解説した後、工程設計の3段階も出てくる。 手順は、製品も工程も同じ。 (ちなみに、筆者の知る限りでは、現在の品質工学で、工程設計の議論は見かけない。)
寿命試験( 信頼性工学 の手法)をやることになっている。(ちなみに、現在の品質工学には、寿命試験を不要とする主張がある。)
SN比が登場しない。 分散分析 をすることになっている。


ビジネスデータの分析 手法と実例」 田口玄一・横山巽子 著 丸善 1975
マーケティング 関係のデータ分析の本
実験的回帰分析を主要な手法にしている。 回帰分析のデータを、実験計画法で取得する手法。
SN比が登場しない。 分散分析 をすることになっている。



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