トップページ | ひとつ上のページ | 目次ページ | このサイトについて | ENGLISH

品質工学の「T法」

T法の「T」は、田口玄一(Taguchi)氏の「T」です。 「法」は英語でメソッド(Method)です。 そのため、「T法って、 タグチメソッド(品質工学) のこと?」、という誤解が起きやすいです。 しかし、T法は、タグチメソッドのことではありません。 そういう名前になっているひとつの手法です。 ややこしいですが、T法は、タグチメソッドの一部です。

T法は、 多変量解析 の一種です。 品質工学では、 MTシステム の一手法として、 MT法 の親戚のように見なされています。

このページでは、T法についてまとめてみました。

T法のアイディア

T法のアイディアには細かい話もありますが、 根幹になっているアイディアは、

線形の単回帰式
Y = Ai × Xi
( i = 1 〜 n )
を重み付けして、重回帰式もどきの
Y = A1' × X1 + A2' × X2 +・・・ + An' × Xn
を作る。

、です。
「 Ai 」 に重みをかけて 「 Ai' 」にします。
見た目は重回帰式ですが、 重回帰分析 の式ではないので、「重回帰式もどき」と、ここでは書きました。

T法では、この式を使って、重要因子の評価や、予測をしようとします。

T法の「重み」と、T法の係数

動特性のSN比 のlogを外したものを、 ηi(イータ)と書くと、i 番目の項目のT法の「重み」とは
ηi /(η1 + η2 +・・・ + ηn)
です。

よって、T法の係数 Ai' は
Ai' = Ai × ηi /(η1 + η2 +・・・ + ηn)
です。

T法の単位空間

上記で Y = Ai × Xi
を使って重回帰式もどきを作っていますが、
「Y = Ai × Xi + Bi
の Bi はどうしているのか?」については書いていません。

T法では、 単位空間 のデータの平均値を使って、グラフが原点を通るように修正をしています。 そのため、Bi が0になっています。

一般的に「 標準化 」では、すべてのデータを使って、平均値を計算しています。 T法はそれを単位空間のデータだけで行う点に特徴があります。 確かに、データに異常値が含まれていたりする場合は、 すべてのデータを使うより、単位空間だけにした方が現実的な対応と考えられます。

Aiを計算する時に、単位空間のデータだけで作るのか、全部のデータで作るのかは、解析の目的によって使い分けると良いです。

T法では、平均値によって、データを修正することを 「基準化」と呼んでいます。 上記の「 標準化 」も、「基準化」と呼ばれることがあるので、 文献を読む場合は注意が必要です。 標準偏差で割る部分の有無が異なっています。

T法の注意点

T法の根幹部分のアイディアは、いくつかの注意点を持っています。

効果の過小評価

例えば、知らなかった事実として、Aという要因でYの変動がほぼ決まっているものの、Bという要因も影響していることがあったとします。 Aの要因の変動によって、X10、X11、X12、X13、X14、X15、X16という変数の値も決まっており、 これらの変数は互いに非常に相関が高いとします。 また、Bの要因の変動によって、X20という変数の値が決まっているとします。

この状況で、すべての変数でT法を実行すると、「X20が一番影響している、その他の変数は、少し影響している」という結果になります。 そして、「X20が一番注目すべき」となり、事実に反するおかしな結論が導かれます。 これは、本来、1要因で起きていることの効果の大きさが、複数の変数に分散してしまうために起こります。

T法では、 多重共線性 を考えて 変数の選択 をしなくても、モデルが作れてしまうのですが、その代わり、このような困ったことが起きます。

X同士の関係性の事前チェックが必要

例えば、X1、X2という2つの変数のデータが 多重共線性 があったとして、そのデータで重回帰式もどきの式を作ったとします。

この式を予測式として使えるのは、X1とX2の多重共線性が保たれているケースに限定されます。 予測式として使う時には、例えば、「X1を一定にして、X2を変えたらどうなるのか?」、といった事が試したくなりますが、 これは一種の 外挿 になり、T法でこういうシミュレーションをすることには無理があります。

T法の係数

ところで、標準化済みのT法の係数と、 Y と各 X について計算した 相関係数 には、ほぼ比例関係があります。

「比例関係」の証明

動特性のSN比には補正項が付くこともありますが、 ここでは補正項を付けない場合を使っています。

まず、品質工学では、
Y = A × X
ではなく、 Y = (1/β) × X
という表記をします。 検算をする場合は、この点に注意する必要があります。

重回帰分析のページ に書きましたが、標準化をすると、「傾き」と「相関係数」は等しくなります。 平均値は0になり、標準偏差は1になります。 この事実を使うと、簡単に証明できます。 (標準化しなくても、証明はできますが、見た目が複雑になります。)

【証明】
標準化しているので、 傾きをβiとすると、
ηi = βi の2乗
です。
T法の係数は、
(η1 + η2 +・・・ + ηn)
の部分が共通なので、T法の係数は、
ηi × Ai
と比例します。そして、
ηi × Ai
= βi の2乗 × Ai
= βi の2乗 ×(1/βi)
= βi
= 相関係数
です。
よって、T法の係数と相関係数は比例します。(証明終わり)。



Yが量的変数の時はT法で、質的変数の時はMT法を使えば良いのですか?

参考文献

T法の詳細が書いてある本は、筆者が知る限りでは、下記の2冊です。

このページの「T法」は、これらの本の「T法(1)」のことです。 T法(2)の詳細は、これらの本には書いてありません。 T法(2)というのは、計算方法が発表されていないそうです。

T法(3)(別名RT法)は、これらの本に詳しく書かれています。 T法(1)が重回帰分析もどきであるように、 T法(3)は、 主成分分析 もどきのような感じです。


入門MTシステム」 立林和夫 編著 日科技連 2008
MTシステム全般について書かれていて、事例も多いです。


よくわかるMTシステム :品質工学によるパターン認識の新技術」 田村希志臣 著 日本規格協会 2009
上記の本よりは、内容が絞ってあります。


順路 次は 信頼性工学

Tweet データサイエンス教室