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信頼性工学

信頼性工学は、「故障」という品質を扱う学問です。 扱っているのは、機械や道具の品質です。

機械や道具を作っているメーカーは大きく関係する学問です。 また、例えば材料を作っているメーカーでは、材料を作るための設備の品質を考えるための学問として、 信頼性工学は関係してきます。

信頼性工学は、故障の話から始まりますが、 故障すれば人の生命に関わってくることもありますし、 経営に打撃を与えることにもなりますから、 リスクの分野にも関わってきます。 また、当初は機械や道具の学問だったようですが、 現在はコンピュータシステムの信頼性も扱っているようです。

信頼性とは

故障しない性質と、故障しても修理が容易な性質(保全性)を合わせて信頼性と言います。

バスタブ曲線

故障は初期・中期・後期の分けられます。 初期の故障の原因は欠陥が多く、時間軸に対して減少傾向です。 中期は安定期とも呼ばれ、故障は偶発的な原因が多いです。 後期の故障は寿命とも呼ばれ、材料の消耗であることが多く、時間軸に対して増加傾向です。

初期・中期・後期の故障をグラフにすると、ちょうど浴槽(バスタブ)の断面図のようになります。 そこで、「バスタブ曲線」と呼ばれています。

信頼性工学の手法

実験

信頼性評価の実験は、故障するまでの時間が重要な因子になります。 そして、故障するまで実験しなければならないため、試験時間の確保が重要になります。 そのため、中途打切試験や加速試験(より厳しい条件下で試験する方法)が考案されています。

また、動作環境も重要な因子です。 環境に配慮した実験は、 品質工学における 誤差因子 のアイディアと似ています。

ワイブル解析

故障する確率の 分布 に、 ワイブル分布に従うと仮定して現象を調査するのが、ワイブル解析です。

ワイブル分布は、 極値統計 で使われる分布のひとつです。

ワイブル解析は、製造業の中では、「信頼性データの分析」等と呼ばれるものですが、医療関係で、 生存時間分析 と呼ばれているものと、使っている数式が同じです。 医療関係では、条件の違いの分析として紹介されることが多く、 製造業関係では、平均寿命を推定する方法として紹介されることが多いです。 違う分野の使い方を知っていると、実務の場で役に立つ場面が増えます。 このサイトでは、 生存時間分析 のページに、製造業関係の話もまとめています。

リスク評価

信頼性の評価は、工業的な分野のリスク評価です。 このサイトでは、いろいろな リスク評価 が登場しますが、信頼性工学もそのひとつです。 信頼性工学のリスク評価は、 リスクの定量化方法・調査方法・分類方法・推論方法・管理方法が、 それぞれ整備されており、体系がよくできています。

原因と結果の関係について、整理や推論を系統的に行う方法が、 FMEAやFTAです。 知識や経験を効率よく生かせる方法です。

「FMEAはボトムアップ、FTAはトップダウン。」と呼ばれることもあります。

FMEA

FMEAは、Failure Mode and Effect Analysis(故障モード解析)の略です。

FMEAでは、まず、故障になるシナリオを思いつくだけ列挙していきます。 次に、各シナリオについて、発生の頻度・発生の検出度・被害度、等を点数付けします。 そして、各項目の点数を掛け合わせて、各シナリオのリスクの大きさを計算します。

FMEAは、計画や設計の前に行うことが多いです。 リスクの大きなものは対策を施します。 対策後に、再評価してリスクが下がったのを確認し、 それから、計画を実行に移していきます。

FTAと素事象

FTAは、Fault Tree Analysis(故障木解析)の略です。 FTAの場合は、まず、故障の発生があり、原因を要素に分解していきます。 要素は、「素事象」と言います。 ひとつのリスクの発生が、素事象の組み合わせで起こると考えます。 原因というのは必ずしもひとつではないことを、きちんと考慮しています。

組合せの方法としては、素事象の直列関係・並列関係を想定したり、 AND・ORの関係を想定します。 「直列関係」というのは、原因の原因があって、故障が起きるような状況です。 「並列関係」は、原因が2通りあるような状況です。 「AND」は、2つ以上の条件がそろった時に始めて、起きるような現象です。 「OR」は、2つ以上の条件の内、どれかひとつがあれば起きてしまうような現象です。





因果関係の種類(ANDとOR)

参考文献

信頼性物理 物理・化学モデルに基づく信頼性検証技術」 木村忠正 監修 門田靖・藤本直伸 著 日科技連出版社 2022
故障のメカニズムは、力学的、化学的、電気的、といったことが単独や複合的に関係します。 こういうことを考察する時のエッセンスが一冊にまとまった感じの本でした。
今までにありそうでなかった本と思います。


入門信頼性 技術者がはじめて学ぶ」 田中健次 著 日科技連出版社 2008
「直列系にせざるを得ない場合に、信頼性を高めるには、構造を一体化が良い」、「接点が壊れやすい」など、 信頼性を分析する時や対策を考える時の、具体的なポイントが紹介されています。
確率紙を使った信頼性データの分析があります。 打ち切りデータの打ち切りの種類ごとによる方法の違いもあります。


信頼性工学入門」 真壁肇 編 日本規格協会 2010
信頼性工学の話題を広く紹介しています。


おはなし信頼性」斉藤善三郎 著 日本規格協会 2004
品質保証や 品質管理 との関係もあります。


モダン信頼性工学」 熊本博光 著 コロナ社 2005
副題が「リスクの数値化と概念化」です。 リスクについての解説が詳しいです。


リスク分析工学」 J.X.Wang・M.L.Roush 著 丸善 2003 
副題が、「FTA,FMEA,PERT,田口メソッドの活用法」です。 FMEAとFTAが事例を交えて解説されており、興味を引く紹介方法でした。 副題のPERTは、 オペレーションズ・リサーチ の一手法ですし、田口メソッドは 品質工学 の方法なので、 リスクの本のタイトルに出てくる理由が最初、わかりませんでした。 品質の乱れによるコストのリスクの対策方法として、 田口メソッド(このサイトでは、 設計段階の品質工学 として分類している部分が相当) が紹介され、 PERTはスケジュールが予定通りに進まないリスクの対策方法として、 紹介されていました。


技術分野におけるリスクアセスメント」 M.G.Stewart・R.E.Melchers 著 森北出版 2003
リスク解析の後に、 意思決定 の話があります。 心理学的な話もあり、面白いです。


安全学入門」 古田一雄・長崎晋也 著 日科技連 2007
信頼性工学の手法の解説があります。


確率論的リスク解析」ベッドフォード T ・ クック R 著 シュプリンガー・ジャパン 2006
難解な本です。 予備知識や背景の知識がないと、何を想定しているのかが、 わからないようにできているようです。 確率論の解説がしっかりしている信頼性工学の本と言えそうです。 決定木ベイジアンネットワーク意思決定危機管理リスクの捉え方の話です。


リスク解析学入門」 D.M.カーメン・D.M.ハッセンザール 著 中田俊彦 訳 シュプリンガー・フェアラーク東京 2001
じっくり腰をすえて勉強する本です。 文脈から手っ取り早く内容を理解しようとする読み方には、向いていません。 直感的には良い本だと思っているのですが、 つかみきれないでいる本です。


トラブル未然防止のための知識の構造化 SSMによる設計・計画の質を高める知識マネジメント」 田村泰彦 著 日本規格協会 2008
トラブルの教訓を活かすには、検索等がしやすい形に整理して蓄積する必要があります。 これを「知識の構造化」と呼んでいます。
SSMモデルというのは、「○○の許容量を超えたからトラブルが起こった。」、という記述の方法の事です。 これを使うと、トラブルを整理しやすいそうです。
この知識を、FMEAやFTAの作成時に利用する話もあります。


環境材料学」 長野博夫・山下正人・内田仁 著 共立出版 2004
副題が「地球環境保全に関わる腐食・防食工学」です。
この本は、材料の長寿命化の本です。 また、長寿命化は 安全 にもつながります。 そのため、信頼性工学のページにこの本を分類してあります。
タイトルからは 環境 対応の本のように思えるのですが、内容は、腐食・防食工学でした。 腐食現象の解説があります。
「材料の寿命が長くなる。 → 製造のためのエネルギーや資源の削減になる。  → 環境対応になる」という理屈でタイトルに「環境」を入れてあるようです。


DEOS 変化しつづけるシステムのためのディペンダビリティ工学」 所眞理雄 編 近代科学社 2014
信頼性、強靭性、安全性などの、システムを継続的に利用するためにシステムが備えるべき能力を、ティペンダビリティ(Dependability)と呼んでいます。
また、外部環境が変化し続けることを考えると、システムの設計時や制作時の時点で、完全なディペンダビリティを構築することはできず、 むしろ、変化に対応し続けることで被害を最小にできるシステムにすべきと考えています。 このようなディペンダビリティを、「オープンシステムディペンダビリティ」と呼んでいます。 タイトルの「DEOS」は、「Dependability Engineering for Open Systems」の略です。
オープンシステムディペンダビリティに必要な機能は、未然防止、迅速対応、原因究明、再発防止。 さらに、説明責任を遂行するために、ステークホルダ間の合意事項を記録する機能や、システムの運用状態を監視する機能も必要。
従来のシステム設計との違いとしては、 上記の機能を、システムに必須の要件に加える点にあるようです。 この本は、こうした設計の手順やポイントの説明書になっています。 著者たちは、こうした設計を進めていくための、プロセスやツールも考案しています。
例えば、「発注システム」を設計する場合、発注の手順の把握から始めて、それを実現できるように機械やコードを作ります。 この中にディペンダビリティの機能は、その発注システム自体ではなく、発注システムを使う関係者や発注システムの場所が持っている機能になります。 あえて「システム」として考えるのなら、機械やコンピュータでできている発注システムをサブシステム(システムの一部)とする大きなシステムの話になっています。 そのような、システムの外のシステムでディペンダビリティを扱うためのツールを、DEOSのプロジェクトで開発して来ているようです。
未然防止、迅速対応、原因究明、再発防止、説明責任を果たすための機能、といったものは、従来は設計するシステムに対して考えるものではなく、 そういったシステムを使う組織が持っている機能と考えられて来ています。 そのため、DEOSでは、従来の組織論に加えるものでははなく、開発するシステムに寄せてディペンダビリティを確保しようとしている感じですので、 従来との兼ね合いの取り方がポイントかもしれません。




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