機械リスクの対象は「人の生命」です。
信頼性工学
の対象の「物」を、「人」に応用したリスクでもあります。
乗り物を運転したり工場で機械や装置を扱う人や、
原子力発電所の建設のような大きな施設を対象にしています。
ヒューマンエラー(Human Error)とは、人が原因となる過ちのことですが、
学問としてのヒューマンエラーでは、根本的な原因を個人の性格にはしません。
個人の問題ではなく、
「その人が置かれた環境や状況」にエラーの発生原因を見つけようとします。
そのため、「エラーの責任は、エラーを発生させた本人にある。」という考え方はしません。
一連の作業を要素に分解し、 その要素を分類していきます。 分解や分類の方法や、それらの整理の方法がいろいろ考案されています。 「○○のタイミングで、××が起こったから、△△になった。」という風に、 時間軸にそった原因の 推論 もします。
ヒューマンエラーを外側から見ると、 リスクの問題になって、確率的な解釈になります。 しかし、「環境や状況(「情況」と書くことがあります。)によって必然的に起きた」と考えると、 確率は0と1しかありません。 つまり、確率論ではなく、決定論として話を進めます。
安全・衛生のために、人間とシステム(作業環境)の関わりを研究する学問です。 人間工学とも言われます。 環境生理学 や 環境心理学 が関係します。
信頼性工学では、寿命や故障の評価をします。 寿命が長かったり、故障しにくいように製品を設計することは大事ですが、 限度があります。
フェイルセーフ構造というのは、壊れてしまっても、 身の安全だけは確保できるようにする設計を言います。 このページは機械リスクについてのものですが、 フェイルセーフ構造の考え方は、 リスク全般に対して、リスクを低減する手段のひとつになります。
ちなみに、フェイルセーフ構造も「品質」ですが、 品質学 には、こういう「品質」を扱う観点が、あまりありません。
「ヒューマンエラー防止の心理学」 重森雅嘉 著 日科技連 2021
ヒューマンエラーの原因として、人の行為や判断の仕組みを挙げています。
特に、状況判断を間違えると、誤った記憶に基づいて行動、慣れて来ると注意をしない、思い込みで行動する、といったクセがあることに注目しています。
対策としては、作業効率を下げることで、短絡的な判断をしにくくしたり、複雑さや柔軟性を下げて、事象を精確に認識しやすくすることを基本的な考え方としています。
指差呼称、KYT、ヒヤリハット、といった従来からの対策には、この考え方が入っているけれども、ただ、やれば良いというものではなく、
人間のクセも考えた運用が必要としています。
「現場のリスク管理と災害未然防止のための不安全行動の防止対策」 金塚憲彦 著 日刊工業新聞社 2022
従来の安全対策は、教育とメカ対策だけれども、どちらも現場の心理を理解していない対策としています。
メカ対策というのは、センサを使ったりして、不安全なことができない仕組みにすることです。
著者が提案しているのは、現場のひずみを除去や軽減したり、動機の除去や軽減する対策です。
これをする時には、リスクには時間的な変化があるので、リスクが高くなる時を特に狙います。
「安全学入門」 古田一雄・長崎晋也 著 日科技連 2007
信頼性工学
の方法に心理学的な要素も加えてヒューマンエラーを解説しています。
「リスクアセスメント」 N.W.Hurst 著 丸善 2000
副題が、「ヒューマンエラーはなぜ起こるか。どう防ぐか」です。
人に依存しているリスクを論じた本です。
「認知システム工学」 エリック・ホルナゲル 著 海文堂 1996
副題が、「情況が制御を決定する」です。
この本の内容は、タイトルから
人工知能
や、
システム工学
を連想しましたが、違いました。
人間の
信頼性
の本でした。
評価方法等があります。
「モダン信頼性工学」 熊本博光 著 コロナ社 2005
副題が「リスクの数値化と概念化」です。
確率論的なヒューマンエラーについての解説が詳しいです。
「確率論的リスク解析」 ベッドフォード T ・ クック R 著 シュプリンガー・ジャパン 2006
確率論的なヒューマンエラーを専門的な内容も含めて書いています。
読み解くことができないでいる本です。
「エルゴノミックス」 池田良夫 著 日刊工業新聞社 1996
人間の体の仕組みを述べた後に、作業環境のあるべき姿を述べています。
「ヒューマンエラーと機械・システム設計 事例で学ぶ事故防止策」 柚原直弘・稲垣敏之・古川修 編 講談社 2012
ヒューマンエラーの分類をしてから、それらを設計でどのように防止するのかを説明しています。
「産業用ロボットTheビギニング」 西田麻美 著 日刊工業新聞社 2022
産業用ロボットの構成要素、法令、周辺機器、等を体系的にまとめています。
「活躍する圏論 具体例からのアプローチ」 Brendan Fong, David I.Spivak 著 共立出版 2023
7.1が「機械の安全性を証明する方法」として、
圏論
を使う方法を紹介しています。
ただ、「部分のそれぞれが正常の範囲で動いていれば、全体としても正常」という暗黙の前提があるように見受けられ、筆者にはよくわからない証明方法でした。
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