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圏論(カテゴリーの理論)

圏論(けんろん)は、数学の一分野ですが、「数学のための数学」になっていて、数学の世界を表現するのに適した方法として、数学の分野では使われているようです。

カテゴリーの理論

「圏論」という名前は、何の論なのかがわかりにくいので、 このページのタイトルに「カテゴリーの理論」と入れました。 データサイエンス では、データの種類として、「カテゴリーデータ(質的データ・言葉のデータ)」というものがありますので、 データサイエンス関係の人には、この名前の方がイメージしやすいと思います。

「カテゴリーの理論」というのは筆者が付けた注釈ではないです。 「圏論」の英語訳は、「Category theory」なので、この直訳になっています。

カテゴリーの間の関係が座標の近さといったものだけでは、表現しきれない時の解決策のひとつになります。

アナロジーの理論

システム理論 的な立場で圏論を理解するのなら、「 アナロジー を扱うもの」と考えると良いようです。

比喩を使う時は、個々の単語としては、まったく異なる分野のものだったとしては、それぞれの分野の中での、位置付けを考えた時には、 対応関係ができています。 こうしたことを表現するのに、圏論が使えます。
アナロジー

圏論の応用

圏論は、カテゴリーのネットワーク構造を表現する方法として優れています。 人間がカテゴリーを認識する方法と似ているからのようです。

圏論を数学以外の分野で活用する時は、圏論そのものに、その分野独自の理論を足すのが良いようです。

アナロジーへの応用

下記の文献では「TINT(Theory of Indeterminate Natural Transformation)」が紹介されていました。 圏論に確率過程を足すことで、ネットワーク構造の対応が成立して、ネットワークが進化する過程を表現できるようにしています。

この文献では、「比喩」を対象としていますが、広くアナロジー全般に対しての 人工知能(AI) としても使っていけそうな理論でした。



参考文献

圏論

圏論の道案内 矢印でえがく数学の世界」 西郷甲矢人・能美十三 著 技術評論社 2019
著者2人の会話形式で説明しています。
圏、関主という順に学んで、自然変換まで学ぶと、圏論で初めて扱える概念が理解できるが、自然変換でつまずく人が多い。
この本は、自然変換の後の話も紹介。
異なる分野の道案内に構造対応があれば、それはアナロジー。そして、アナロジーのアナロジーというものも考えられる。 アナロジーが関手で、アナロジーのアナロジーが自然変換。
対象と射でできているのが圏。
圏と圏をつなぐのが関手。 関手は、例え話が相当。
関手を射の合成を保つもの。自然変換は、関手の構造を保つもの。


抽象数学の手ざわり ピタゴラスの定理から圏論まで」  斎藤毅 著 岩波書店 2021
高校の数学と大学の数学の橋渡しとして書かれた本です。 扱っている題材は、高校の数学で出て来るものですが、それを圏論で説明しようとします。
ブルバキ『数学原論』に「すでに広い知識を持ち合わせている読者にしかその効用がわからない」と抽象的な定義を説明している。 定義とは、数学のさまざまな対象から共通の性質を抜き出したもの。


圏論の歩き方」  圏論の歩き方委員会 編 日本評論社 2015
数学、物理学、生物学の理論を圏論を使って説明することで、圏論を学べるようにしている感じの本です。
圏論だけでは、これらの分野で使うには足りず、圏論に何かを加えることで、理論を構築しようとする点が比較的共通しているようでした。


圏論の地平線」 西郷甲矢人 著 技術評論社 2022
著者と、様々な分野の研究者との対談集になっています。 それぞれの対談は、圏論との出会いから始まり、研究分野の詳しい話になり、圏論を学び始める人へのアドバイスで構成されています。
・圏論と確率の融合は、圏代数や圏上の状態を使うことによってできる。(p.126)


圏論的な<ものの見方・考え方>入門」  西郷甲矢人 著 認知科学第28巻第1号 2021
圏論を数学専攻ではない学生向けに、日常的な例えを豊富に使って説明した講演が論文として、書き起こされています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcss/28/1/28_2020.075/_pdf/-char/ja


認知科学への圏論の応用

特集「圏論は認知科学に貢献できるか」の編集にあたって」  高橋達二 他 著 認知科学第28巻第1号 2021
論文記事の簡単な説明があります。圏論がいろいろな分野に使われるようになったことと、認知科学にも取り入れられるようになった経緯があります。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcss/28/1/28_2020.076/_pdf/-char/ja


認知科学者が圏論を始めるための参照情報」  西郷甲矢人 他 著 認知科学第28巻第1号 2021
数学者向けではなく、認知科学者が自分の研究に圏論を取り入れるための資料として書かれています。
・集合論は階層的な世界観と相性が良く、圏論はネットワーク的な世界観と親和性が良い。
・圏では矢印の合成が必ずあるので、その意味では特殊な有向グラフ。しかし、有向グラフ一般としても扱うことができる。
・圏は何でも当てはまりそうにも見えるが、そうではなく、実際は圏の公理を満たすものは限られている。 だからこそ、公理が満たされているかどうかをチェックすることで、プログラムの正しさのチェックなどに使うこともできる。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcss/28/1/28_2020.072/_pdf/-char/ja


A category theory principle for cognitive science: Cognition as universal construction」  Steven Phillips 著 認知科学第28巻第1号 2021
圏論は、認知科学の役に立つのか、という点について、順を追って回答しています。物事の成り立ちを表現する方法として、圏論は適しているということのようです。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcss/28/1/28_2020.074/_pdf/-char/ja


比喩表現を圏論を使ってモデル化

不定自然変換理論の構築:圏論を用いた動的な比喩理解の記述」  布山美慕・西郷甲矢人 著 
新規比喩の理解過程の理論として、Theory of Indeterminate Natural Transformation(TINT)」を提案しています。
・イメージの意味をコスライス圏で定義するのは、この論文の仮説です。 (コスライス圏は、ある一つの視点から見た場合の世界の見え方に対応するそうで、 そうだとすれば、物事の見え方が人によって異なるという、人の多様性の実際に合ったモデルと言えそうです。)
・意味創出の動的過程を捉えるために、圏論に確率過程を足しています。
http://www.jaist.ac.jp/fokcs/papers/8th/G6_paper_Miho_Fuyama.pdf


不定自然変換理論に基づく比喩理解モデルの計算論的実装の試み」  池田駿介・布山美慕・西郷甲矢人・高橋達二 著 認知科学第28巻第1号 2021
比喩がどのようにして作られるのかという研究の論文ですが、人間の類推や転移学習という能力の解明への足がかりにしようとしています。
この論文では、TINTを使って、比喩が生まれて来る動的な過程のシミュレーションをして、理論の検証もしています。
比喩が当てはまるかどうかは、言葉同士を対応付くかどうかを探索して、対応がどの程度あるかにかかってくるという過程を経ますが、 その部分が確率的に起きると考えて、どの程度対応付きやすいのかを見ています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcss/28/1/28_2020.065/_pdf/-char/ja




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