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環境心理学

環境心理学(Environmental Psychology)は、環境と心理の関係を扱っています。

環境心理学の扱う「環境」は、このサイトの中心になっている自然環境だけではありません。 教育環境や、職場環境のように、広い意味で「環境」を捉えています。 環境心理学の「環境」は、「環境」というより、「空間」に近いことが多いようです。

環境心理学の扱う環境は、人工的な環境に対するものが多いです。 環境心理学は、建築の分野、特に都市計画で、ずいぶん研究されているようです。 環境心理学の初期の頃(70年代)の文献を見ると、 高度成長期に作られた住環境( 都市環境 )が問題意識の中心です。 人口の過密や高層建築による心理的な諸問題への解決策として、環境心理学が期待されていたようです。

環境と心理の関係を考える学問ですが、 環境と心理の間に、「感覚」があるという考え方もできることから、 環境生理学 とも関係が深いです。 環境心理学の文献の中に、五感の解説が入っていることもあります。

環境心理学には、 環境と心理というより、環境と行動の関係を研究しているものが多いです。 このサイトには、行動の理論として、 ヒューリスティクス や、 ゲーム理論 があります。

環境心理学の中でも、リスクに関するものについては、 リスクのページ の方に書きました。

アメニティ

アメニティの意味は、「the right thing in the right place あるべきものが、あるべき所にある」、です。 「アメニティを念頭に置いて物事を考えよう」、という考え方につながります。

風水 は、これに近い思想を持っています。

アフォーダンス

アフォーダンスとは、ものの見方のひとつの概念です。 環境が人や動物に与えている価値のことを言っています。
例えば、ある物を見て、それを「腰掛けて良いもの」と判断できる場合、 「その物は、『腰掛ける』をアフォードしている。」と言えます。
ここで挙げた例もそうですが、アフォーダンスの応用の場面は、 デザイン の世界で広がっています。

環境問題 の向き合い方として、ひとつの答えは リスク だと思いますが、 ここでいう「アフォーダンス」も、ひとつのアプローチではないかと思います。
アフォーダンスは歴史的には 環境生理学 の延長として生まれてきたようです。

ごみのポイ捨てと、アフォーダンスの関係の研究があり、 ポイ捨てを許す(アフォードする)ようなものを、その場所(環境)が持っているそうです。
このポイ捨ての研究を拡大解釈すると、 環境経済学 で出てくる コモンズの悲劇 は、 「利己的な行動をコモンズがアフォードした」、 と考えるのもひとつの見方だと思います。

アフォーダンスはギブソンという人が提唱したものです。 ギブソン自身、またギブソンに賛同する人たち(「ギブソニアン」というらしいです。)の研究は、 生態心理学とか知覚心理学として発達しているのですが、 筆者には方法も目的も理解できない分野です。 環境生理学 にもまたがるようですが。。。

認知地図

認知地図とは、頭の中の地図です。
ある場所までの地図を自分の頭の情報だけで描くと、認知地図を目で見ることができます。 本物の地図とは長さの割合が違ったりします。

頭の中のものを具現化する点と、名前が、 マインド・マッピング と似ていますが、別物です。

環境評価

環境心理学の環境評価は、 個人の環境に対する尺度を調べるアプローチと、 アフォーダンスのような、環境の各機能を調べるアプローチがあります。

環境心理学的な環境評価を、 自然保護的な 環境影響評価 の項目に加えることも提案されています。



参考文献

環境心理学 ―人間と環境の調査のために―」 羽生和紀 著 サイエンス社 2008
環境心理学の入門書です。 いろいろなことがコンパクトにまとまっています。 参考図書への案内も親切です。
環境問題に関わるような自然環境についても、 ひとつの章が設けられています。 筆者の感想は、 「自然環境のための環境心理学は、これから発展する分野かな」、です。


環境心理学」 佐古順彦・小西啓史 編 朝倉書店 2007
環境心理学の歴史がけっこう書いてあります。 環境リスク意思決定論 の話がありました。


快適環境の社会心理学」 岩田紀 編著 ナカニシヤ出版 2001
社会心理学 と環境心理学にまたがる本です。
住宅・オフィス・地域、等の快適さについての章の後に、地球環境の話になるのですが、 地球環境の話は、リスクの考え方が重点的になっています。
環境教育の章もあります。 日本で、「環境学習」と言えば、自然体験を指すことがほとんどだと思いますが、 海外では、都市環境を学習することもあるそうです。
環境配慮行動を動機付ける環境認知には、 @環境汚染の被害のリスク認知、 A環境汚染の原因の責任の認知、 B対処有効性の認知、 の3つがポイントだそうです。
また、環境配慮行動をするかどうかの基準は、 @実行可能性の評価、 A便益・費用の評価、 B社会規範の評価、 の3つがポイントだそうです。
この本は、上記の認知や評価を変化させるためのアプローチも示しています。


環境心理学への道」 入谷敏男 著 日本放送出版協会 1974
人間と人工の環境の関係を、住環境・生活環境・都市環境について考察しています。 空間の構成や、他の空間との関わりを論じています。 「秩序のないものに、力を加えて秩序を作るのが環境計画」とし、 建物等への環境基準の厳格な設定を提言しています。


環境心理学」 相馬一郎・佐古順彦 著 福村出版 1976
環境は主体との関連において把握される」という一文が、 「認知とは何か」への答えのような印象がありました。 物理的環境と社会的環境の二面性を論じています。 環境認知は、感覚で環境を捉えるところから始まって、それから広さや距離を認知する流れです。 環境評価は、好み・魅力・便利さの評価をしています。


環境心理学」 望月衛・大山正 編著 朝倉書店 1979
環境心理学の位置付けから始まり、各論がコンパクトにまとまっています。 「環境と行動」として、「行動の場理論」、「自然環境」、「構築環境(建築)」、 「社会環境」、「象徴環境」が出て来ます。 「自然環境」は「風土論」のことでした。 風土論は、気候と人間の行動の関係を論じています。 「象徴環境」というのは、象徴としての環境のことで、芸術と関係しています。 「そもそも環境をうんぬんするとき、それは象徴的なものである。」という一文が印象的でした。 確かに、環境保護として希少種や景観の保護が掲げられる時は、 「環境を守るのではなく、象徴を守ろうとしている。」と見ることができます。 諸問題として、都市環境、交通、労働環境が出て来ます。


環境認知の発達心理学 環境とこころのコミュニケーション」 加藤孝義 著 新曜社 2003
人の成長に伴う環境認知の変わり方が詳しく書いてあります。 環境事故(この本では交通事故や犯罪のこと)・環境問題・環境教育も扱っているのですが、 現状報告と常識的な感想があるだけで、 心理学らしさのようなものはないように思いました。


環境心理学」 R.ギフォード 著 北大路書房 2005
重厚な本です。筆者はまだほとんど読んでいません。 研究者の紹介があり、しかも写真付になっている変わった本です。


都市の風水土 都市環境学入門」 福岡義隆 編著 朝倉書店 1995
都市にターゲットを絞った 環境学 です。 アメニティの紹介があります。


The experience of nature : a psychological perspective」 Rachel Kaplan and Stephen Kaplan 著 Cambridge University Press 1989
筆者は、この本の目次と最初の方を読んだだけですが、 「好み:preference」という言葉がよく出てきます。 同じ著者が、 景観のページ で紹介している「自然をデザインする」という本を書いています。 この本は、その本につながるような、「好ましい自然」の研究の本と言えそうです。


アフォーダンス

アフォーダンス - 新しい認知の理論」 佐々木正人著 岩波書店 1994
アフォーダンスが歴史的なことも含めて、丁寧に書かれている本です。 以下は、筆者の感想です。
◆知覚心理学は、知覚の仕組みを「説明」しようとする学問です。 特に、光を人間がどう捉えているか(視覚)の理論が中心です。 しかし、説明すると反論やアラが出てくるので、 それの克服に奮闘しているようです。 そして、その奮闘の作業が知覚心理学の本質に見えます。
◆個々の部分を把握しようとすると、対象の数が膨大になります。 そこで、個々の部分を全部見ないようにするには、 複雑な全体として捉えるのが妥当ということになります。 すると、複雑さを把握する方法の話になるので、 複雑系 の話とのタイアップが期待されているようです。


心理学・入門 心理学はこんなに面白い」 サトウタツヤ・渡邊芳之 著 有斐閣 2019
アフォーダンスに少し触れています。 物の物理的な特徴を正確に測定するのではなく、それが自分から見てどのようなアフォーダンスを持っているのかを判断することが、 環境への適用には必要。





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