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風土工学

風土工学は、竹林征三氏によって作られた学問です。

風土とは、人とこころのやりとりをしているものです。 風土工学では、こころのやりとりをしていないものを「環境」と呼んでいますので、「環境」は「風土」の一部になっています。

土木工学は、橋、港、ダムといった大型の構造物の建設に関わる学問です。 風土工学は、構造物の設計だけではなく、構造物を中心とした風土を設計しようとします。 地域にとって大きな存在になる構造物を作る時に必要な学問や、自然に人が手を入れる時に必要な学問、と言えます。

土木建築物は、見た目もそうですが、その土地の自然環境を大きく変えてしまうものです。 ヘップ(HEP) 等の 環境影響評価 では、経済的な価値でその自然環境を評価して、 「壊す・壊さない」や「どの程度まで壊して良いか」と言った議論になっていますが、 風土工学はそう言った議論には入って行きません。 風土工学では、その土地(風土)が受け入れられる形や、その土地にとって新しい歴史の象徴になるように、構造物を設計して行きます。 このような作り方をすると、 地域経済の活性化 につながる存在になります。

「風土」について、提唱者が実体験を通して、実感を伴っているものが、風土工学の本の中で強く描かれています。 風土工学が海外でも貢献するものになって行くとしたら、この部分の抽象化や一般化と、各国の風土へのローカライズなのかもしれません。 (ちなみに、「 パタン・ランゲージ 」も似たような事情を抱えています。)

風土分析の方法

風土の見方

風土を認識する時のポイントとして「六大風土」、認識の手段として「六感風土」があります。

仏教の視点

仏教学を、環境や、人間のこころのはたらきの見方を教えてくれる学問として、参照しています。

四窓分析

ローカルアイデンティティ(土地の個性)の調査では、 その地域をよく知っている人(住民)と、知らない人(外部の人)で、データは分けます。 また、それらの人が「わかっていること」、「わかっていないこと」に分けます。 そうすると、4つの枠ができます。 四窓分析を使うと、多角的な視点で見ることができます。

連想階層構造図

風土資産を見つけて、それらを連想する関係を調べたり、それらをグループ分けして、全体の構造を調べます。

感性工学

「風土」は、人間の「感性」とアナロジーの関係があるので、 感性工学 を応用しています。

風土の設計

土木建築物を設計する時に、機能を設計するのは、土木工学や 環境工学 の従来通りです。 風土工学は、こころを通わせる構造物にするために、「美」と「名前」も重視します。

美の設計

「真・善・美」が、人間が求めている最も価値のあるものです。 「用・強・美」は、魅力ある土木施設が持っているもので、「真・善・美」とはアナロジーの関係にあります。 魅力のある人間に求められているもののアナロジーで、建築物を見ようとします。 「用・強」は、従来の土木建築にも備わっていますが、風土工学は「美」を加えています。

美しく感じるものは、無駄のないものと考えています。 「美しいものには、法則性がある。」、としています。 美しいものの設計には、法則性の持たせ方がポイントになります。

名前の設計

土木建築物は、治水等の目的で作ったとしても、 地域の象徴にもなっていく事ができるので、名前が大きな役割を持っています。

文化の設計

風土工学では、土木建築物の設計だけでなく、 その土地ならではのストーリーにも目を向けて、絵本を作ったりもします。

風土設計の心構え

知・敬・馴

「知る」、「敬う」、「馴らす」が分析から設計までのアプローチになります。

風土五訓

風土工学では、水、大地、大気、生類、環境、風土について、 知・敬・馴のあり方が、五訓という形でまとめられています。

土木計画学

一般的な土木計画学には、その場所の風土の分析や、風土の設計の思想は入っていないようです。

土木計画学では、土木計画に必要な手法を取りそろえています。 手法は、計画手法と、分析手法に分かれます。




参考文献

風土工学のページですが、「景観デザイン」や「環境デザイン」の本も入っています。 これらの学問の、風土工学との大きな違いは、その土地"らしさ"との、関わりの深さだと思います。

風土工学

筆者は、2009年頃に「風土工学の視座」をたまたま見つけたのですが、 当時はほとんどわかりませんでした。 2014年に他の本にも目を通してみて、以前よりはだいぶわかったつもりです。 その反省もあり、下記の風土工学の本は、読みやすいものから並べてみました。


風土工学への招待」 日本感性工学会監修・風土工学研究部会 編 山海堂 2000
風土工学自体の簡単な解説は、竹林氏が書かれていますが、それ以外は主に風土工学以外を専門とする方が書いていらっしゃいます。 多くの方が注目されているのは、「こころの通うものを作る」を、風土工学が中心に据えていることではないかと思います。
人文地理学からの視点の中に、「景観」や「風土」の概念の中に、それを支える地下環境や、自然を生きた自然ととらえることが抜けているのではないか、 と言った話がありました。
全般的に手法や理念について、わかりやすく書かれているので、入門書としては一番良いと思いますが、ひとつひとつについて詳しくはないです。 仏教学の内容も出てこないのですが、 風水 は、わりとよく書かれていました。
オギュスタン。ベルク氏が、「風土工学」の英訳として、「mesotechnics」が提案されています。 (この論説ではこの訳語が出て来ますが、 英語に「風土」に当てはまる言葉(概念)がないということが風土工学では述べられています。)


市民環境工学 風土工学」 竹林征三 著 山海堂 2004
風土工学では珍しく、横書きです。
六窓分析 : 四窓分析の地元以外の部分を、さらに近隣と遠隔地に分けるので、6になります。
八箱分析 : 地元・近隣・遠隔地が、それぞれ、わかっている・わかっていないの2つに分け、全部の組み合わせを見ようとすると、 2×2×2で、8になります。


風土千年・復興論 天変地異・災害の世紀 誇り高い千年先の風土を作る」 竹林征三 著 ツーワンライフ 2013
東日本大震災を念頭に置きながら、災害への風土工学の視点を解説しています。 日本は、大雨、渇水、地震等の危険がある国というところから始まります。 災害は文明を滅亡させて来たが、復興すべきは、文明ではなく文化としています。
マズローの五段階説に沿った、河川、道路、災害復興のあり方を提案しています。 ちなみに、 環境工学 から風土工学へのレベルアップもこの五段階説が論拠になっています。
最初の2割が復興論で、残りの大半が風土工学自体の解説になっています。 風土工学の入門書として、比較的よくまとまっています。


風土工学序説」 竹林征三 著 技報堂出版 1997
風土工学が世に出る始まりとなったのは著者の博士論文ですが、それを元にした本とのことです。 風土工学で使う手法が、比較的詳しく書かれています。
この本では、風土工学への導入部分が、「地域おこし」になっています。 (風土工学全体では、土木工事への風当たりの悪さや、環境問題も風土工学の背景にあります。)


風土工学の視座」 竹林征三 著 技報堂出版 2006
著者の、思い、興味、問題意識の具体的な対象が詰まった本、と言えそうです。
良い加減な「美」の追求として、経済指標等の客観軸と、イメージや誇り等の主観軸による、二軸で風土を評価。


日本以外の風土

筆者の知る限りでは、「風土」を扱っている本で、和辻哲郎氏の「風土論」を参照していないものはないです。 「風土論」では、世界各地の風土を比較していますが、「風土」を扱っている本の中には、 風土の概念自体を論じているものも多いです。
この欄の本は、世界各地の風土を扱っている本です。 範囲が広い分、風土工学が考えているような「風土」よりも、内容が浅くなっているようです。

世界の風土と人びと」 野外歴史地理学研究会 編 ナカニシヤ出版 2000
世界各国の歴史、地理、政治等について、断片的かもしれませんが、詳しく紹介をしています。


世界の風土と民族文化 」 別技篤彦 著 帝国書院 1989
上記の本よりは、体系的です。


風土と世界経済 国民性の政治経済学」 加藤義喜  著 文真堂 1986
風土の経済への影響を研究しています。 環境経済学 にも関係している内容でした。


土木計画学

土木計画学」 奥村誠 著 コロナ社 2014
土木計画学の体系は1980年代にできていて、変わっていないそうです。
この本では、それらの内容に加えて、リスクマネジメントや、市民参加にも触れています。


土木計画学 社会資本整備とマネジメント」 伊豆原浩二・嶋田喜昭 共編 オーム社 2013
データ解析が多めです。環境や地域性に配慮する話があるのですが、環境は、環境による制約や 環境アセスメント の話で、地域性は、住民参加の話でした。


社会基盤の計画学 確率統計・数理モデルと経済諸法」 藤田素弘 編著 理工図書 2013
土木計画学の教科書です。


環境と防災の土木計画学」 萩原良巳 著 京都大学学術出版会 2008
766ページの大著です。 土木計画学の教科書の体系がベースですが、 離散選択モデルとして、ランダム効用モデル、多項ロジットモデル、ネステッドロジットモデルがあったり、 コンフリクト分析として、 ゲーム理論 等があったりして、手法が豊富です。
タイトルにある環境や防災の話は、環境や防災の手法が出ているというよりも、これらの手法の適用事例の中で出ています。


非集計行動モデルの理論と実際」 土木学会土木計画学研究委員会 編 土木学会 1995
交通の計画や、立地選択の分析に、ランダム効用理論を使っています。


水と緑の計画学 新しい都市・地域の姿を求めて」 萩原良巳・萩原清子 編著 京都大学学術出版会 2010
「水と緑」というタイトルですが、水の話の方が多いです。
事例で扱っている地域は、京都、中国、バングラディシュ等です。 バングラディシュは、川の上流が他の国なため、それが問題になっているそうです。
土木計画の他に 健康リスク意思決定論環境経済学 等の話があります。
数値的な手法は、 相関分析因子分析感性評価 )、 ニューラルネットワークゲーム理論流体力学 があります。
全体的に事例集や、論考集のような印象がありますが、 システム論 的な考え方でそれらをまとめようとしています。 まとめることによって、統治や、対立の緩和の手段につながることを狙っているようです。 「最大不幸の人の最小化」というのが、目的のひとつになっています。


景観デザイン・環境デザイン

風土とまちづくり その第2歩」 佐佐木綱 編著 技術出版 1991
「男性度」、「女性度」による町の分析があります。
風土分析の対象は、行動・行為(タブーや行事等)、形(建築、色、道等)、生活(服飾、食物、等)、深層心理(昔話、等)を挙げています。
従来の土木計画は、男性(父性)原理であるとして、女性(母性)原理が必要としています。


風土と都市の環境デザイン」 金澤成保 編著 ふくろう出版 2007
佐賀を題材にして、町が形成されてきた経緯や、背景を調べています。主導した人物も調査しています。
日本では、「オモテ」と「ウラ」が都市空間を見る時のキーワードになっているそうです。


社会基盤施設のための景観設計学 脳から環境の美しさを考える」 福井幸夫・空京子 著 コロナ社 2006
美の設計の本です。 目の仕組みの話から始まっています。
景観づくりや地域づくりの考え方として、風土工学を参照しています。


景観デザイン 総合的な空間のデザインをめざして」 市坪誠・小川総一郎・谷平考・砂本文彦・溝上裕二 著 コロナ社 2006
デザインの指南書の体裁になっています。地形のデザインが多いです。 景観デザインの原則は、
1.地域環境の潜在能力を見きわめる。
2.人が手を加えていいところと、いけないところを正しく認識
3.人が1/2を造り、残りの1/2を自然に創ってもらう
としています。
「景観をデザインするうえで大切にしたいこと」として、 「デザインに行き詰まったら歴史に聞く。」を挙げています。 また、「土地の記憶を元にする。」とあります。


つなぐ 環境デザインがわかる」 日本デザイン学会環境デザイン部会 著 朝倉書店 2012
環境デザインは、「人、モノ、場、時、コト」の快適で心地よく美しい関係づくり、としています。
「人」=「こころ、感覚、行為」
「モノ」=「要素、様相、価値」
「場」=「風土、景色、内外」
「時」=「継承、季節、時間」
「コト」=「物語、情報、価値」
、というようにさらに分化して、相互の関係を読みとります。 また、これらの関係をデザインして行きます。 これらの個々の事例もあります。
つなぎ方の方法論として、
「取り組み方」=「心構え、感性、美意識」
「考え方」=「文脈、分析、仕組み」
「行い方」=「設え、調和、可変」
を挙げています。 環境デザインは完成しないもの、改変するものと考えています。
デザインの決定には、住民の意見、コスト、法、といったものの分析では足りず、 感性的な判断も挙げています。 一方で、絵画やデザインの学問による感性的な判断には、説得力が足りないとしています。


景観設計」 鹿島建設土木設計本部 編 鹿島出版会 2003
道路と橋の事例が多いです。
橋のデザインの例として、 SD法 で感性データを集め、「女性的・男性的」、「動的・静的」の軸で 因子分析 する例があります。


景観工学」 石井一郎・元田良孝 著 鹿島出版会 1990
感性の評価は、「計量心理学的手法」となっています。 調和感、違和感、危険感、重要感、威圧感、目立ち具合、等を評価します。


まとまりの景観デザイン −形の規制誘導から関係性の作法へ」 小浦久子 著 学芸出版社 2008
イメージをつなぐ・時間をつなぐ・変化のある中での持続、というような視点で、 景観の認知の仕方がありました。


環境デザイン学 −ランドスケープの保全と創造」 森本幸裕・白幡洋三郎 編 朝倉書店 2007
古代からの世界の庭園の歴史の解説から始まり、 緑地計画や自然再生計画の考え方・技術・手順、等があります。 景観生態学 の視点も少し取り入れられています。
筆者は、かねがね、 「欧米の環境保全は、庭や公園作りの発想を、拡大しているのではないか? 地球全部を自然公園だと思っているのではないか?」、と思っていたので、 その答えの参考書として、ちょうど良い本かもしれません。


ランドスケープと都市デザイン 風景計画のこれから」 宮脇勝 著 朝倉書店 2013
「ランドスケープは人々が感じている場所のイメージ」で始まります。
オギュスタン・ベルク:日本の文化、自然、田園、都市、政治を外国人の目で考察した地理学者
法律と風景の関係や、国内外の事例が多数あります。


景観論

風景学 :風景と景観をめぐる歴史と現在」 中川理 著 共立出版 2008
副題がぴったり当てはまる内容の本です。 風景や景観に関する多様な議論について、歴史的な順に体系化しています。 「風景から景観へ」、「美から快適さへ」、という表現で、変遷をうまく表現しています。
景観工学が、快適さを定量化し、設計に生かす学問として登場します。
この本によれば、 パタン・ランゲージ のパタンとは、 「環境の中にあらかじめ存在する資質を、人間が経験的に見出したもの」とあります。


景観地理学

都市の景観地理」 阿部和俊 編 古今書院 2007〜2009
日本編1・日本編2・韓国編・中国編・大陸ヨーロッパ編が分冊になっています。 景観の変化と、その変化の原因についての読み物が集まっています。
景観地理学というのは、 GIS で扱えなかったり、 様々な分野の知識が必要なので、若い研究者(学生含む)の研究テーマになりにくいそうです。




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