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制御工学

制御工学(Control Engineering)は、ほとんどすべての機械で基本になっている学問です。 入力と出力があるものや、 状況に合わせて動くものは、制御の理論が必要です。

制御工学で扱う制御対象は、 動的システム です。 多くの場合は、線形連立微分方程式を扱っています。

制御工学は歴史が長く、線形連立微分方程式の扱い方が、かなり研究されています。 また、非線形の場合も研究されていて、 カオス の分野との交流があります。

フィードバック

「フィードバック」という言葉は、良い方向に軌道を修正していく方法として、 ビジネスの会話の中にも出て来ます。 PDCAはその典型です。 「フィードバック」は、社会人の一般教養になっている考え方です。

ところで、制御工学では、「フィードバック」が制御のための重要な技術です。 「フィードバック」が数式として出て来ます。 「良いフィードバック」も研究されています。

制御工学を、機械の学問として学ぶのも良いのですが、 制御工学の応用範囲は、機械の学問の外にも広がっています。

制御の理論

制御の理論は、大きく分けて、古典的制御理論と現代的制御理論があります。 いずれも、システムを微分方程式で表現するところは一緒です。 その後の進め方が異なります。

古典的制御理論

古典的制御理論では、微分方程式を ラプラス変換 します。

例えば、電気回路でしたら、 ラプラス変換によって、抵抗や、コンデンサーといった電気回路の部品が、 比例要素、積分要素、微分要素、一次遅れ要素、むだ時間要素といった、演算子の四則演算で表現できるようになります。 こうなると、回路を数学的に検討できるようになります。

伝達関数

出力 = 何か * 入力
という式を作れると、予測が簡単になります。 この「何か」は、伝達関数と呼ばれます。

PID制御

流量などの制御に広く使われています。 入力が目標値との差、出力が目標値に戻すための操作量になります。 変化の仕方を考慮できるようになっています。

現代的制御理論

現代的制御理論では、連立微分方程式を、状態方程式で表現します。 その後は、行列計算です。

システムの安定性

制御系では、制御システムの安定性が重要です。 「安定」とは、ある程度の時間が経てば、出力が一定値に落ち着くことを言います。 広義には、出力がある程度小さな範囲から出ないことも、安定ということがあります。

線形システムでは、伝達関数の特性方程式(極・伝達関数の分母=0のこと)の全ての解の実数部分が、 負の時、その伝達関数は安定するそうです。

システムのモデリング

対象としているシステムを数式で表現するのが、「モデリング」です。 モデリングは2種類あります。 両方を組み合わせるものは、グレーボックスモデリングと呼ばれます。

良いモデルができると、予測しながら制御することができるようになります。 これは、「モデル予測制御」と呼ばれることもあります。




参考文献

トコトンやさしい制御の本 」門田和雄 著 日刊工業新聞社 2011
シーケンス制御、フィードバック制御、フィードフォワード制御がある。 サーボ機構はモーターを使ったフィードバック制御。 化学工場などのプロセス制御は、規模の大きなフィードバック制御。
フィードバック制御の内、PIDを使うものは古典制御と呼ばれ、状態方程式を使うものは現代制御と呼ばれる。 現代制御では、モデルと実際の誤差が問題になった。 ある程度誤差があっても安定して動くのが、ロバスト制御。
伝達関数にすると、制御系を電子部品とのアナロジーで検討できる。また、複雑な回路を等価で単純な回路に置き換える事が、計算でできるようになる。


ダイナミックシステムの統計的解析と制御」 赤池弘次・中川東一郎 著 サイエンス社 2000
初版は1972年で、先駆的な研究の本です。
ロータリーキルンという工場の設備を、コンピュータで安定して運転させるための研究です。 状態変数法に基づくダイナミックシステムの理論として、 動的計画法 で最適制御ができるそうです。
ノイズだらけのデータを統計的に処理するところが、成功のポイントだったようです。


線形制御

絵ときでわかる自動制御」 大島輝夫・山崎靖夫 著 オーム社 2007
伝達関数による制御だけの本です。 制御系の評価方法なども、平易にまとまっています。


システム制御の基礎と応用 −メカトロニクス系制御のために」 岡田昌史 著 数理工学社 2007
古典的な制御と現代的な制御の後、ロボットの制御にまでつながります。 少しだけ、非線形制御(アトラクタへの制御)もあります。 見通しよく、一通りのことがまとまっています。
・制御の観点で、 破壊工学 に関係することもコメントされています。
・可制御性行列の階数で、可制御性が判定できる。可観測性も同様。
・ロバスト制御とは、モデルの誤差に対してロバスト。H∞制御はこの仲間。


線形ロバスト制御」 劉康志 著 コロナ社 2002
安定したフィードバックのための本です。


制御工学の基礎」 尾崎弘明 著 共立出版 2008
伝達関数に関するものが、全体の3分の1を占めていて、多めです。


プロセス制御工学」 橋本伊織・長谷部伸治・加納学 著 朝倉書店 2002
入門書よりも少し先のことが、コンパクトにまとまっていると思いました。 PID制御・多変数プロセスの制御・モデル予測制御・ システム同定 です。


システムダイナミクス」 須田信英 著 コロナ社 1988
制御系のグラフ表現があります。 最後の章が、一般システムの状態方程式で、伝達関数との関連も解説されています。
この本は、題名が「システムダイナミクス」ですが、 このサイトのシステムダイナミクス とは、別物です。


システム制御」 増淵正美 著 コロナ社 1987
オーソドックスな制御理論の本です。 ロバスト制御や、状態予測が詳しいです。


非線形制御

制御工学」 岩井善太・石飛光章・川崎義則 著 朝倉書店 1999
伝達関数による制御と、状態方程式による制御が、3対2くらいの割合で解説されています。
ラプラス変換は、線形定係数系に対してのみ成り立つので、 非線形や、係数が時間とともに変化する系では成り立たない。 このような系は、s空間でなく、t空間で検討することになる、


環境問題への制御工学からのアプローチ」 計測自動制御学会 2005
第34回制御技術部会研究会の資料です。
・トヨタの生産工場 :プラントの動力は、非線形なので、PSO(Particle Swarm Optimization)という、 最適化手法が向いているそうです。 PSOは、複数のエージェントによる 機械学習 で、動物の群れの行動のアナロジーから開発されたものだそうです。
・火力発電所 :RBF-ARXモデルによる、モデルベース予測制御
・ごみ焼却プラント :入力(ごみ)の性状は、燃やしてみないとわからないので、 ボイラの蒸気流量を観測量として、フィードバック制御をしていました。 しかし、観測量の時間遅れが大きいので、制御が遅れることが問題だったそうです。 そこで、IRセンサをつけて、IRで制御することにしました。
ごみ焼却プラントでは、運転員の経験や知識を、 ファジィ理論 でルール化することによって、ファジィ制御もしています。


システムのモデリングと非線形制御」 増淵正美・川田誠一 著 コロナ社 1996
事典のようにして使うと良さそうな本です。 力学・電磁気・流体・熱・化学反応のシステムを述べた後、 線形システムの動的解析・非線形システムの安定性・ 可変構造制御(スライディングモード制御)・非線形システムの厳密な線形化・ 非線形オブザーバと続きます。 安定性の解析は、定量的なものとして、リヤプノフの方法があります。
フィードバック制御は、もともとシステムがブラックボックスなものに使われたそうです。 (確かに、そういう使い方ができます。) しかし、状態空間法が出て来てから、 「システムを厳密に知った上で制御しよう。」、という流れになったそうです。


非線形制御」 平井一正 著 コロナ社 2003
非線形に絞っているので、一般的な制御工学の本とは、趣が異なります。 数式をちゃんと追っかけるのは大変ですが、 内部安定性、入出力安定性、厳密な線形化法、適応制御は概念だけでも面白いです。
リミットサイクル が詳しいです。


カオス制御」 潮俊光 著 朝倉書店 1996
OGY法をはじめとした非線形系の制御について。 OGY法は極配置問題の一種だそうです。 周期軌道に近いところに来たところで、制御の入力をして周期軌道にする方法です。


その他

モータ制御Theビギニング」 西田麻美 著 日刊工業新聞社 2015
モーターが制御するものは、力、速度、位置。
サーボモーターは、PID制御を組み込むことで、テキパキとした動きができるようになっている。
PLCには割り込み機能がない。 PLCは処理に時間がかかるが、プログラムがシンプルになり、頑健。 マイコンの長短はPLCの逆。 コントローラで、複数のモーターを同時に制御する。


システム制御のための知的情報処理」 舩橋誠壽・吉原郁夫 著 朝倉書店 1999
高度なシステム制御のための、情報処理の解説書です。 各手法の位置付けは以下のようになります。
エキスパートシステム  :記号論理的な知の扱い
ファジィ理論  : 不確かな知の扱い
ニューラルネットワーク  : 非明示的な知の扱い
遺伝的アルゴリズム  : 発展的な知の扱い


システムの最適理論と最適化」 嘉納秀明 著 コロナ社 1987
ニュートン法や変分法による 数理計画法 の話の本です。




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