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カオス

カオス(Chaos)は、単純な規則でできているのに、見た目が複雑な現象を扱う分野です。 ここでいう規則とは、式で表せるという意味です。

シミュレーション は未来の予測に使う。」、 という説明をすることがありますが、 カオスは未来の予測ができない現象です。 「なぜ予測できないか?」、 「こういう現象の性質や数理はどうなっているのか?」、 「技術として応用できないか?」等が研究対象になっています。

カオスは、「力学系」という、数学と物理学にまたがる分野に含まれます。 「 複雑系 」のひとつとして扱われることもあります。

有名な例では、2重振り子(振り子の先端に、もうひとつ振り子がついているもの)や、 天気の予測があります。
カオスは非線形の式で出てくる現象です。 しかし、非線形の式なら何でもカオスになるわけではないため、 カオスになるものとならないものの違いも、大事なポイントです。

ちなみに、「カオス」や「複雑系」という言葉には、 SFのような響きがあるかもしれません。 SFでも使われますが、学術用語としても使われています。

ロジスティック写像の話で、パラメータの値で規則的になったり、 カオスになったりする話は入門的な本で出てきます。 面白い性質の数学です。

ベクトル場

非線形方程式は、厳密な解が求まらないことがほとんどです。 そのため、方程式の性質を知るには、ベクトル場を使って、視覚的な解析をします。

ベクトル場というのは、各ポイントでベクトルを計算して作ります。 見た目は、矢印がいろいろな方向を向いている絵になります。 ここでいうベクトルは、各地点の「傾き」の、向きと勾配のことです。 向きと勾配を、矢印の向きと長さや、矢印の向きと色で表現します。

線形安定理論

モデル式の安定性を見るための方法です。 カオスになるかどうかの解析に使います。 テイラー展開した時の一次の項を考えます。 すると、安定点と思われる点の近傍について、線形の理論で解析ができます。

リアプノフ指数

リアプノフ指数が、プラスになるかマイナスになるかで、カオスになるかどうかがわかります。 リアプノフ指数だけが、カオスの尺度という訳ではないのですが、 ポピュラーな尺度になっています。

同期現象の理論

蛍の点滅が一斉に起こったりと、個々の動きは別々に制御されているはずなのに、 集団として見ると、同期現象(シンクロ)が起こっていることがあります。 同期現象は自然界の様々な場面で見られます。 もしかしたら、群衆の運動のような社会現象にも、当てはまることがあるかもしれません。

カオスの理論の延長に、こうした現象を解明する研究があります。



参考文献

力学系

基礎からの力学系 :分岐現象からカオス的遍歴へ」 小室元政 著 サイエンス社 2005
カオスの本なのに、リアプノフ指数に関する記述がほとんどない本です。 シミュレーションによる観察を重視しています。 非線形の話に入る前に、その準備として、線形写像や線形ベクトル場が丁寧です。
カオス的遍歴は、この本のクライマックスです。 カオス的遍歴というのは、100次元を超えるような高次元での現象です。
秩序→乱れ→別の次元で秩序、が繰り返されます。
カオス的遍歴は、アナロジーとして社会現象に当てはめたがる人がたくさんいそうな理論です。 「社会変革の理論」とか、「パラダイムシフトの理論」とか、言われるんでしょう。。。


入門力学系 :自然の振舞いを数学で読みとく」 森真・水谷正大 著 東京図書 2009
数学寄りの解説と、物理学寄りの解説に分かれます。
有名な方程式がいろいろ登場します。 波動方程式、マクスウェル方程式、ナビエ=ストークス方程式、シュレディンガー方程式、ソリトンのKdV方程式、等です。
最小作用の原理や変分原理の解説もあります。


カオス現象

流体力学」 神部勉 編著 裳華房 1995
流れ の安定性の解説の中で、カオスの話が出てきます。


非線形論(哲学書に近いもの)

非線形とは何か : 複雑系への挑戦」 吉田善章 著 岩波書店 2008
「スケールの数学的認識」、「変動の中で変わらぬもの」、「対称性と保存則」、 「階層を縦断する現象」、「トポロジー 差異を定めるための体系」、等々、 目次を眺めると、気になる見出しが並んでいます。 ところが、実際にその場所を読むと、これらの見出しに対して筆者が期待している話と、合いませんでした。
力学系やカオスをタイトルにしている多くの本と、大差のない内容ですが、 哲学的な思索につなげたいのなら、良い本かもしれません。


非線形な世界」 大野克嗣 著 東京大学出版会 2009
「世界を理解する」という、野心に満ちた本です。 非線形の数式の性質を扱えれば、「世界」が理解できると考えているようです。 概念分析 と現象論を武器にしていることを掲げているのですが、 実際の内容では、物事をはっきりさせる手段を直観に帰結させたり、 モデルで物事を論じることを力説していました。 定義をすることに強いこだわりを持っています。
この本は、物理学の本として話が展開されるのですが、 展開の行き着く先が生物学になっています。 著者は、この本の内容が環境問題の処方箋になると、おぼろげに考えているようです。


同期現象

同期の理論の本は2冊見ましたが、難解なため、ほとんど内容がわからないでいます。


同期理論の基礎と応用 :数理科学、化学、生命科学から工学まで」 Arkady Pikovsky 他 著 徳田功 訳 丸善 2009
数式なしでの解説から始まります。


同期現象の数理 :位相記述によるアプローチ」 蔵本由紀・河村洋史 著 培風館 2010
縮約理論というものをベースにしているらしいです。




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