特性の分類 のページで、動特性の8つの種類について説明しています。 このページは、それぞれの動特性について、それを測るのに適したSN比を説明します。 ただし、残念ながら、全部ではないです。
なお、このような動特性の説明は 品質工学 の文献では出て来ないです。 筆者が調べてみたところ、このような形が一番良いと思ってまとめましたが、不備があれば、直す方針です。
品質工学のSN比
は、
「ばらつきが小さい = SN比が大きい」
、ということが計算されるように作られた尺度です。
logの前に「-」があるものは、「ばらつきが小さい = 数字が大きい」という尺度になっています。
R2は、0から1までの比率データなので、SN比として使う場合は、 オッズ(オメガ変換)した方が良いです。
動特性のようなデータを扱うのは、一般的な統計学では、 回帰分析 になります。
回帰分析 では、ばらつきの大きさを残差で判断したり、RやR2を使って判断します。 等分散を想定するのが普通ですし、「分散が傾きに比例する」といったことを考えることはないです。
上記の分類では、一般的な統計学では想定しないことや、従来の品質工学が踏み込み始めていた領域について、方法論を整理した形になっています。
静特性のSN比 については、特性と、それに相応しいSN比の関係が、いろいろな文献で紹介されています。 一方、動特性については、こういった分類は世の中にないようです。(筆者の知る限りですが)
「比例分散の場合に、変動比型が合っている」と言った説明のある文献が1冊あるのですが、上記のような分類まで踏み込んだものはないようです。
そこで、筆者が調べた結果が、上記の対応関係になります。
下記は調べた方法です。 それぞれの特性について、4つのグループのデータを用意しました。 4つのグループで同じ値になるのなら、その特性としては同じということを、定量化できることになります。
なお、比例分散特性3・4については、実務で出会うことがとても考えにくく、出会ったとしても、データをずらして、比例分散特性1・2にすれば良いので、調べませんでした。
等分散は、比例等分散と違って、傾きが異なっていても、ばらつきが同じです。
下図は
Y = β X + E
という式で作られたデータです。
aとbは、Eが共通でβだけが違います。また、Xの領域も2種類用意しています。そのため、4つのグループになっています。
βが違っても、見た目のばらつきは同じです。
SN比が同じ値になったのは、Veです。 VeがSN比として適していることがわかりました。
なお、 Veは、等分散がどの程度の大きさなのかを、直接的に表す尺度です。
下図は
Y = β X + β E
という式で作られたデータです。
aとbは、Eが共通でβだけが違います。
Eが共通でも、βがかけ合わさることで、βが大きいほど、見た目のばらつきも大きくなっています。
Veは、直線からのYの距離(残差)を表します。Yaで0.99、Ybで約0.09というのは、標準偏差がそれらの平方根の1と0.3なことがわかります。 等分散の場合は、Veがばらつきを直接的に表しています。
R2、(Sβ-Ve)/r/Ve、β2/Ve、Sβ/Seは、SN比がほぼ同じ値になっています。 R2、(Sβ-Ve)/r/Ve、β2/Ve、Sβ/SeがSN比として適していることがわかりました。
下図は
Y = β X + E X + c
という式で作られたデータです。
等分散特性3の評価に適したSN比は、この中にはありませんでした。
下図は
Y = β (X + E)
という式で作られたデータです。
R2は、SN比がほぼ同じ値になっています。 R2がSN比として適していることがわかりました。
下図は
Y = β X + E X
という式で作られたデータです。比例分散になっています。
aとbは、Eが共通でβだけが違います。βが違っても、同じXでは、見た目のばらつきは同じです。
Xが大きいほど、見た目のばらつきが大きくなっています。
Std(Y/X)は、SN比がほぼ同じ値になっています。 Std(Y/X)がSN比として適していることがわかりました。
なお、Std(Y/X)は、比例分散の形を直接決めるものなので、この値が、ばらつきの大きさを直接的に表しています。
「比例比例分散モデル」というのは、筆者の造語です。 同じXの時のばらつきが、Xの値と、傾きβの値の両方に比例します。
下図は
Y = β X + β E X
という式で作られたデータです。比例比例分散モデルになっています。
aとbは、Eが共通でβだけが違います。
Eが共通でも、βがかけ合わさることで、βが大きいほど、見た目のばらつきも大きくなっています。
また、Xが大きいほど、見た目のばらつきが大きくなっています。
Sβ/Seと、Ste(Y/X)/Ave(Y/X)は、SN比がほぼ同じ値になっています。 Sβ/Seや、Std(Y/X)/Ave(Y/X)がSN比として適していることがわかりました。
なお、Std(Y/X)/Ave(Y/X)は、比例比例分散の形を直接決めるものなので、この値が、ばらつきの大きさを直接的に表しています。
「基礎から学ぶ品質工学」 小野元久 編著 日本規格協会 2013
変動比型のSN比が紹介されています。
従来の動特性のSN比は、比例分散のような場合に対応していない点を指摘しています。
さらに変動比型は、分子と分母のそれぞれが信号(X)に比例するので、比例分散に対応した尺度になっているとしています。
(この本では、「比例分散」という呼び方ではなく、図で説明しています。)
また、一般的な動特性のSN比は、Xの範囲を固定したデータにしないと、不都合がある点も指摘しています。
順路 次は 動特性のSN比の歴史