品質工学 では、「SN比(エスネヌヒ)」が頻繁に出てきます。
「SN比」と聞いて、 まず起きてくる疑問は、 「SとNって、何のこと?比って何?」ではないでしょうか? 意外かもしれませんが、この疑問の答えは品質工学の中にはありません。 答えを知るには、通信工学のSN比を知る必要があります。
通信工学のSN比では、「S」がシグナル(Signal)で、「N」がノイズ(Noise)です。 シグナルが「信号」で、ノイズが「雑音」という意味です。
SN比は、「S/N比」と書かれることもありますが、
この書き方からも分かるように、
通信工学のSN比は、信号の電圧を、雑音の電圧で割った量です。
厳密には対数を使ったりしますが、イメージ的には、
「通信工学のSN比 = 信号の電圧 ÷ 雑音の電圧」
です。
SN比の高いスピーカーは、雑音が小さなスピーカーです。
通信工学では、文字通り「信号と雑音の比」として、SN比が使われています。
通信工学のSN比とは、信号への雑音の影響を評価するための尺度です。
品質工学 のSN比の中で、 望目特性 のSN比は、 平均値と標準偏差の比です。この計算は、二乗和をばらつきと、それ以外の足し算の形に分けて、それらの比をとったものと、ほぼ同じです。 そのため、「信号と雑音の比みたいな感じ」になっています。
しかし、望目特性以外のSN比には、 「信号と雑音の比みたいな感じ」はありません。 品質工学のSN比を、「SとNの比」と呼ぶには無理があります。
品質工学のSN比を理解するには、通信工学のSN比や、
「SとNの比」という言葉の意味を、いったん忘れる必要があります。
そういう知識を抜きにして、「品質工学のSN比とは何か?」と改めて言えば、
「品質工学のSN比 =
ばらつき
の尺度」
です。
ばらつきの尺度が「SN比」という名前になっています。
品質工学のSN比の数理的な定義は、 特性とSN比の関係 のところで解説しています。
品質工学の思想と、品質工学のSN比のつながりは、 ロバスト設計 のところで解説しています。
品質工学のSN比は、通信工学の考え方の一部が アナロジー として使われています。 そのため、「信号と雑音の比みたいな感じ」がすることもあります。 ただし、全部でなくて一部なので、比較しようとすると上記のようにややこしくなります。
もっと、ややこしくなりますが、品質工学ではデータがばらつくことを「ノイズ」と呼びます。 SN比の指すものが品質工学と通信工学で異なるのと同様に、 品質工学の「ノイズ」は、 一般的な意味での「ノイズ」 とは異なります。
SN比やノイズ以外の品質工学の用語も、ややこしい事情を持っています。 簡単ですが、 品質工学の用語集 にリストにしてあります。
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