このサイトでは、工学的な分野に数理をバシバシ使っていますが、 微積分・微分方程式・行列の計算・確率論・統計学の、 せいぜい大学の理工系学部の共通科目位のレベルです。 分数や、掛け算の考え方ができるかどうかが問われるレベルの「数理」も、けっこうあります。 その程度のレベルがあれば、このサイトの内容は、ほぼ理解できます。
数理モデリングの専門家が扱う数理には、かなり高度なものがありますが、 用途が限定されがちのようです。
一方、簡単な数理は応用範囲が広いです。 例えば、「比例関係」という単純な数理を見るのが、 相関性 の分析で、使用例は無数にあります。
第一原理とは、原理原則、メカニズム、法則とも呼ばれます。 一般的に、第一原理モデルは汎用的なものです。 うまく見つかればアナロジーでの応用もできます。
統計モデリングは、 ブラックボックスモデリング として使われることが多いですが、数理モデリングは第一原理モデリングに使われることが多いです。
このサイトでは、「 Y 」や「 X 」という略語を頻繁に使っています。 「 Y 」が目的変数で、「 X 」が説明変数のことです。 また、「 Y 」が結果系で、「 X 」が原因系とも言われます。 データを扱う時には、そのデータが X か Y かという メタ知識 が、常に付いて回ります。
筆者の知る限りでは、 品質工学 で「 Y 」や「 X 」が多用されています。 経済学でも見かけます。 目的変数や説明変数という言葉よりも直感的にわかりやすいと思うので、 このサイトは、「 Y 」や「 X 」を使うことが多いです。
おまけですが、YがXと何らかの関係式(function)で表せるという意味で
「 Y = f( X ) 」
という表記も見かけます。
回帰分析
は当にこういう関係式を作ります。
しかし、上記の品質工学や経済学もそうですが、単に因果関係のイメージ作りのために、
こういった表記をしている場合が多いようです。
この分類に当てはまらないものもあると思いますが、筆者が見た本をざっくり分類すると、 下記のようになるようです。
モデリングの部分は、 物理学や 数理生態学 がやっている事と変わらないと思いますが、 モデルができた後に、さらに何かをしようとしている所が違いのようです。
なお、数理モデリングの一段高い概念が、 逆問題 になります。
数理工学とは、工学分野全般に数理でアプローチしていく、 学際的で支援型の学問と言われています。
「数理工学」の本を手に取ると、入門書レベルのものでも、 かなり高度な数学を使っています。 数理工学とは、「数理を、工学に使っていく学問」ではなく、 「"最先端の"数理を、工学に使っていく学問」と言った方が良いかもしれません。
現象数理学は、現象を数理でモデリングすることと、 その数理を研究することの2段構えのようです。
「モデリング」をタイトルにしている本は、 オペレーションズ・リサーチ の流派が多いようです。
モデリングは、現象の予測や最適化を目的としています、
本のタイトルで分類しています。
「プログラマの数学」 結城浩 著 SBクリエイティブ 2018
ゼロ : 「何もない」を「ある」ものとして定義することで、
シンプルなルールを作る。
剰余 : 周期性を見つけて、問題を簡単にする。
数学的帰納法 : 2ステップで無限に挑む
再帰 : 大きな構造が、小さな構造の繰り返しで作られていると、漸化式で問題を単純に表せる。
指数的な爆発への対処 : 「力ずくで解く」、
「容易な問題に変換して解く」、「近似的に解く」、
「確率的に解く」
ファンタジーの法則 : 問題を別の世界の問題に置き換え、
別の世界の問題として解いてから、元の世界に戻す。
現実の問題は、見た目には周期性があっても、剰余できれいに取り出せるものではなかったりします。
この本の内容に加えて、統計的な観点も加えると、
データとルールがうまく合ってくると思いました。
「暮らしを変える驚きの数理工学」 合原一幸 編著 ウェッジ 2015
第1章は編著者によるものなのですが、この本全体の総括だけでなく、現在までの数理科学の総括になっていました。
主旨は、「一見複雑な現象が単純な数式で表現できる事があり、それができると被害の予防や拡大防止に役立つ」、というものでした。
平易な文章でコンパクトにまとまっていて、圧倒されました。
この章で出て来る数理モデルは、
カオス
や
ニューラルネットワーク
でした。
「点過程」と言うそうですが、経済、地震、神経といった風に対象がまったく違っていても、
瞬間的な値の増減で現象が変化する点では、これらは似ていて、数理モデルも似たものが使えるそうです。
力学系の理論は、非線形、不安定、自律系、という特徴があり、制御の理論は、線形、安定、非自律系(外部入力がある)という点で
相補的なので、複雑系制御理論としてそれらの融合を目指しています。
本のところどころで、データ科学やビッグデータの話があります。
欠損値のあるデータを使ってモデルを使うケースへの貢献や、
大量のデータからモデルを構築するアプローチへの貢献が期待されていました。
また、
機械学習
への期待も寄せられています。
情報幾何学:データに内在する不変な統計的性質を調べる学問。モデルの持つ幾何学的な性質を利用して、推定量の精度を向上させることができる。
「スウガクって、なんの役に立ちますか? 数学は最強の問題解決ツール」 杉原厚吉 著 誠文堂新光社 2017
小、中学生向けに役に立つ数学を解説した連載の書籍版。
確率は、単発の確率より、ひとつ前のパターンを組み合わせた条件付き確率を使うと、もっと良い。
ネットワークで組み合わせを考えると、どこまでが最適化できるかがわかりやすい。
余計な情報をひとつ加えて冗長にすると、間違いのチェックがしやすくなる。
異なる分布のそれぞれの1位の優劣は、偏差値で比較することができる。(どれくらいずば抜けているかを評価できる)
泥臭くグラフを描いて、答えを予想する。
輪郭線を含む方眼の数と、輪郭線の内側にあり、輪郭線を含まない方眼の数の間に、正しい面積がある。
方眼を細かくするほど、正確に求まる。
脳は「道は直線」、「交差点は直角」と考えがりなので、これが原因のミスが起こる。
「数理工学への誘い」 東京大学工学部計数工学科数理情報工学コース 編 日本評論社 2002
15のテーマを10ページ位ずつ解説しています。
数理で現象を説明することの、「ほんとに最初の導入部分」と言っても良さそうな内容でした。
「数理工学最新ツアーガイド :応用から生まれつつある新しい数学」 杉原正顯・杉原厚吉 編著 日本評論社 2008
超ロバスト幾何計算・離散凸解析・脳数理工学・情報幾何学が出て来ます。
面白そうなのですが、ほとんどわかりませんでした。
「なわばりの数理モデル :ボロノイ図からの数理工学入門」 杉原厚吉 著 共立出版 2009
「なわばり」というのは、空間的な範囲が形成される現象のことです。
例えば、ハチの巣です。
こういう現象は、ボロノイ図が道具になるそうです。
「現象数理学の冒険」 三村昌泰 編著 明治大学出版会 2015
拡散パラドックス、立体知覚、先史文化、地球科学、金融危機、タイル貼り、折紙がテーマです。
「現象数理学入門」 三村昌泰 編著 東京大学出版会 2013
粘菌の迷路解き、アリの集団行動、渋滞、脳、インフルエンザ・パンデミック、バブルの発生と崩壊がテーマです。
「数理モデリング入門 ファイブ・ステップ法」 Mark M.Meerschaert 著 佐藤一憲 他 訳 共立出版 2015
ファイブ・ステップ法というのは、問題の設定から始まって、モデルができるまでのステップを表しています。
問題の設定では、関係する変数や定数を全部洗いだす事、等があります。
この本では、数理モデルを、「最適化モデル」、「動的モデル」、「確率モデル」に分けています。
たいていのモデルは、これらのどれかに当てはまるそうです。
「モデリング 広い視野を求めて」 赤池弘次、伊理正夫 他 著 近代科学社 2015
様々な方が、それぞれの知識や経験からモデリングについて解説しています。
あまりにも複雑なモデルを作ることの弊害や、モデリングは作成者の世界観を表している事等、いろいろなコメントがありました。
「データ分析のための数理モデル入門 本質をとらえた分析のために」 江崎貴裕 著 ソシム 2020
方程式のモデル、確率モデル、統計モデル、機械学習モデルなど、数理モデルを幅広く見た後に、モデルの作り方を解説しています。
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