工場の保全は、工場に不可欠の状態を確保するための活動です。 機械が故障しないように、故障しても素早く直します。 どんなに難しい故障でも、迅速な対応が求められることもあり、大変な活動です。
しかし、この活動は、工場の内部の人でも、知らない事があるくらい、目立たないです。 また、外部の人が知るのは、よほどの時です。
リスク管理 の具体的な活動のひとつになります。
保全の方式は、事後保全と予防保全に大きく分かれます。
予防保全は、さらに2つに分かれます。
「PM」は、予防保全と予知保全の両方の略称なので、注意が必要です。 例えば、工場で、「BMとPMのどちらにするか?」という話をしている時は、予防保全の方です。 機械学習の話で出て来る時は、予知保全の方です。
BMがTBMとCBMに細分化されるのではないので、ややこしいです。「B」の元の単語が違います。
保全のデータ分析は、古くはワイブル分析ですが、 機械学習 の活用も進んでいます。 データ分析の対象にするには、データを準備しなければなりませんが、それをするのは、工場の中で特に重要な部分になるのが一般的です。
一方、工場で保全の対象となる物は、膨大な数があります。 保全担当者は、とにかく全部について、何かが起きたら対応しなければなりません。
膨大な数の保全対象については、データ分析というよりも、 データマネジメント や デジタルトランスフォーメーション(DX) の観点の方が必要とされています。
なお、工場の保全の場合は、「事後保全でも可」という選択肢があるのでこういう話になりますが、 分野が異なるとそうでもないです。 例えば、飛行機では「飛行中に故障しても可」とはならないので、 膨大な数の保全対象に、膨大な時間をかけた保全活動が行われているようです。
信頼性工学 にあるワイブル分析は、工場から生産している製品の寿命だけでなく、工場で使われている機械や部品の寿命を分析する方法としても、原理的には使えます。
ただ、工場の機械や部品の場合は、「今までに1度しか壊れたことがない」、「この使い方をしているのは、ここだけ」といった事になりやすいので、「使えるデータがない」といった状況になりやすいです。
これと同じ理由で、定期保全の期間を決めるのは、なかなか難しい問題です。
基本的には、センサーの値そのものや、その値を 特徴量 に変換した値の、 管理図 による監視です。 「特徴量」と言っても難しいものとは限らず、「電源ONの時のデータだけ抽出」といったものでも有効です。 実際、始業点検などで行われています。
センサー毎に見ていても分からない場合は、複数のセンサーのデータから判断する必要がありますが、 機械学習 の 異常検知 の技術を使って、予知保全を進める研究が進んでいます。
故障時のデータが少ない点については、 1クラスモデル がひとつの対策になっています。
TPMは、Total Productive Maintenanceの略で、設備中心の視点によって、経営や社風を良くしようとする運動です。 TPMの方法論には、設備保全、生産の効率化、品質保全の方法論があります。
TPMでは、製品の視点ではなく設備の視点で、「生産の効率化」や「品質保全」を進めます。
TPMはひとつの運動の名称なので、 TPMの中には、設備視点の方法論を社内に導入したり、啓蒙したりする話もあります。
「機械保全」という言葉が、世の中ではあります。 機械保全は、工場の保全の一部です。 機械保全では、個々の機械や部品の具体的な見方の話が中心ですが、 工場の保全では、それらを総合的に管理する話もあります。
このサイトでは、 環境保全 が出て来て、「保全」が同じですが、中身はまったく違います。 ただ、工場の保全で問題が起きて、有害な物が工場の外に出てしまうと、環境問題になるので、まったく無関係という訳でもないです。
「工場・製造プロセスへのIoT・AI導入と活用の仕方 第3版」 技術情報協会 編 技術情報協会 2021
第8章が故障予測のための異常検知システムの作り方になっていて、12の節がそれぞれ著者も違う形で、様々なことが解説されています。
設備データでは、故障のデータが少ない点については、
1クラスモデル
が良いとされています。
また、コストが低く、設置が比較的簡単な方法として、振動データの収集と活用が紹介されています。
「データ分析の進め方及びAI・機械学習導入の指南 データ収集・前処理・分析・評価結果の実務レベル対応」 荻原大陸 他 著 情報機構 2020
様々なことが書かれている本です。設備故障の分析についても、いくつかの触れられています。
shapelets:異常時は、波形データの一部に異常の特徴が表れることに着目して、波形データの一部を切り出して分析対象にする方法
キャビテーション検知:圧力、流量、等を利用
振動データとMT法による異常検知
音のデータの分析
「信頼性工学入門」 真壁肇 編 日本規格協会 2010
計画保全の期間の決め方が紹介されています。損失コストと保全コストを使っています。
「わかる!使える!TPM入門」 日本プラントメンテナンス協会 編 日刊工業新聞社 2018
前半は、保全の基礎知識が体系的でわかりやすく解説されています。
後半はTPMの組織作りですが、現場のオペレータによる自主保全活動の具体的な内容が詳しいです。
「現場が主役のTPM ムリ・ムダ・ムラをなくすための鉄則51」 JIPMソリューション 編 JIPMソリューション 2010
副題の「鉄則51」というのは、目の付け方や、仕事の進め方を個別にまとめたものになっています。
「ものづくりのためのTPM実践塾」 天川一彦 著 日刊工業新聞社 2011
副題は、「タフな企業の全員参加アクティブマネジメント」です。
TPMができた1970年代とは異なり、現在は、
「標準化の弊害」、「グローバル化」、「設備の老朽化」等が、問題であるため、
TPMも変えていく必要がある、としています。
そのひとつとして、リスクがロスという形で現れてくることを挙げ、
ロスとリスクの一体的な管理を提案してます。
「人を活かす経営 人が活きるTPM」 中嶋清一 著 JIPMソリューション 2009
副題は、「TPMの創始者が説く「企業=人」のモノづくり経営」です。
TPMの歴史や体系をTPMの提唱者がまとめています。
品質保全の方法に、品質工学や
シックスシグマ
を入れています。
「経営革新手法TPM」 中嶋清一 著 日本能率協会 2011
副題は、「ドラッカーの「マネジメント」を実践する」です。
上記の同著者の本と、ほぼ同じ内容です。
ドラッカーの経営理論とTPMの関係を論じている点が、この本の特徴です。
「生産性の高い経営 = 経営革新」としています。
「生産工場のDXがよ〜くわかる本」 山口俊之 著 秀和システム 2021
事後保全の情報を登録するシステムや、予知保全のシステムを紹介しています。
予知保全のシステムは、工場の健康状態がわかるセンサーを洗い出しておき、その変化をチェックします。
「保全データマネジメントの考え方報告書 MOSMS保全技術プログラム」 日本プラントメンテナンス協会 編著 日本プラントメンテナンス協会 2020
MQ(Maintenance Quality)、EQ(Engineering Quality)、OQ(Maintenance Quality)の3つのデータをうまく組み褪せて、想定外の事故の防止に使うための考え方があります。
「橋があぶない 迫り来る大修繕時代」 依田照彦・高木千太郎 著 ぎょうせい 2010
米国や英国では、点検の計画、保全員の質の向上、ホームページによる橋の状態や保全状況の情報公開、
といった橋の保全の仕組みができていて、日本も早く体制を整えるべき、としています。
順路 次は 工場物理学