筆者が大学生の頃、「IT」という言葉が大ブームになっていました。 会社の仕組みをコンピュータに乗せることが始まりました。
「DX」という言葉は、人によって意味が違いますが、かつてのITブームの時にはできなかったことを、新しい技術で実行しようとする取り組みも見られます。
解説書などでは、「DXとデジタル化の違い」や、「本当のDX」といった話題がありますが、 それぞれの著者の立場や考え方で違っています。
このサイトでは、実務の立場で、一番得るところが大きい理解の仕方をしたいので、様々なDXの観点をできるだけ取り入れたいです。
そのような立場では、ビジネスモデルのDXと、業務のDXの2種類に大きく分けるのが良いようです。
インターネットや画像認識などの技術を使うことで、今まで世の中になかった ビジネスモデル が、生まれて来ています。
最初からこのようなビジネスモデルで起業されている会社もありますが、 既存の会社をこのようなビジネスモデルに変えていくことは、DXと呼ばれています。
かつて「IT化」と言われていたものも、DXの一種です。 紙を使っていたものを、デジタル技術で代替したり、ITシステムで実行できるようにしたりします。
また、かつて「見える化」と呼ばれていた取り組みも、センサーやカメラといったデジタル技術を使うものは、DXの一種です。
デジタル技術の進展で、かつてできかなかったIT化や見える化ができるようになり、これが業務の効率や精度を高くするDXになっています。
ビジネスモデルのDXと、業務のDXでは、比較的規模の大きなものがビジネスモデルのDXで、業務の一部分を見ている場合は業務のDXですが、 どちらとも言える場合もあります。
例えば、規模の小さなビジネスモデルのDXだと、業務のDXとあまり変わらない場合が考えられます。 また、業務フロー全体を再構築するくらいのDXだと、想定している業務フローの規模によっては、ビジネスモデルのDXとあまり変わらなくなってくる場合が考えられます。
手段から進める場合と、目的から進める場合に大きく分けていますが、実際は、両方を並行する感じがベストのようです。 どちらかだけだと、行き詰りやすいです。
いずれにしても既存の何かがあるので、そこから変わっていくのがトランスフォーメーションになります。
データの利活用の進め方 に似た話があります。
デジタル技術をいくつか頭に浮かべながら、「どこで使えるのか?」という感じで使える場所を見つけます。
この進め方は、 手段の目的化 になってしまわないように注意する必要があるものの、着手しやすいです。
デジタル技術を使うかどうかは、横に置いておいて、「これを実現したい」という目的を念頭において、業務(ビジネス、仕組み)を設計します。
業務フロー の再設計になります。 特に、業務フローの中でも、情報の流れや、情報の取り方の部分が、デジタル技術を使うポイントになります。
DXは、システム開発を伴うことが多いので、要件定義や業務設計など、システム開発の分野での着目点が参考になります。
DXをしていくポイントとしては、部門連携の視点と、部門の中の視点に大きく分かれます。 さらにそれぞれの視点について、全体的なフローを見直す視点と、個々のフローを見直す視点があります。
製造業の場合、製造する物ができる工場を中心として、開発、製造、保全、販売、受注、購買といった役割毎に部門が分かれていて、 それぞれが連携するためのフローや、それぞれの部門の中でのフローが既にあります。
「どこから始めるのか」、「見落としはないか」、「もっとできることはないか」、ということを考える時に、既存の部門の目的や、活動の内容が、参考になります。
リエンジニアリングは、1990年代に提唱されました。 状況に合わせて、業務のやり方を作り直すことを言います。 デジタル技術を使うことを前提としていないものの、取り組みの内容がDXと似ています。
難易度の高い仕事を継続することは大変なことですが、 時代の移り変わりとともに、衰退を余儀なくされることがあります。 企業が持続的に発展しようとするのなら、 一度作られた形を解体して、作り直すことも必要です。
リエンジニアリングの一番の特徴は、「リ(再び)」のところにあります。 いわゆる「改善」や「新規立ち上げ」ではなく、 リエンジニアリングは、もっと根本的なところから業務を変えてしまうことを目指しています。
リエンジニアリングのためには、 価値工学 や QFD(品質機能展開) の考え方を使って、「そもそもこれは何を実現するためにある?」、「同じことを別のやり方にするのなら、どんな方法がある?」、と言った感じで進めます。
「DXビジネスモデル 80事例に学ぶ利益を生み出す攻めの戦略」 小野塚征志 著 インプレス 2022
紹介されているビジネスモデルは、必ずしも、既存の会社がDXをして生まれたものとは限らず、
最初からそうしたビジネスモデルでスタートした会社のものが、かなり含まれています。
本の内容としては、すでに登場しているデジタル技術を利用しているビジネスモデルを学びつつ、
既存の会社がDXを進めてビジネスモデルを変えていくことを解説しています。
「デジタルトランスフォーメーション経営 生産性世界一と働き方改革の同時達成に向けて」 レイヤーズ・コンサルティング/編著 ダイヤモンド社 2017
経営者向けを意識して書かれています。
・製造業が製造するモノについて、「モノからコトへ」、「所有から使用へ」と変えるだけでなく、製造の方法も「所有から使用へ」と変える。
例えば、設備はリース、製造は外部委託、等。
・この本が論じている生産性は、狭義の生産性で、「付加価値/労働投入量」。付加価値は、「売上高−外部購入価値」。労働投入量は、「就業者数×労働時間」。
・既存の5W1Hに対して、ぶっとんだ企画を経営者が出し、他社の成功事例を提示しながら、現場に実行させる。
・現状の時間の使い方を見える化する。
・ソフトが製品として成立するようになってきたことも、DXの背景のひとつ。
「イラスト&図解でわかるDX デジタル技術で爆発的に成長する産業、破壊される産業」 兼安暁 著 鈴木祥代 画 彩流社 2019
GAFAをDXの象徴としつつも、デジタル技術の発展が爆発的なので、GAFAですら近い将来に他の企業に負けてしまう可能性があるそうです。
どちらかと言えば、デジタル化によって破壊されてしまう産業や職業の話が多いのですが、ヘルスケアや教育に関するものは成長していくようです。
最後の方では、変化が非常に速い時代に、個人としてどのように生きて行けば良いのかについての話があります。
ひとつは質の良い最新情報を常に知っていくことや、新しいことに前向きに挑戦していくことの他に、「好きを追求する」が印象的でした。
自分の価値として、誰かが対価を払ってくれるものは、追求されて来た何かで、それは好きでなければ続けられないようなこと。
「DX CX SX 挑戦するすべての企業に爆発的な成長をもたらす経営の思考法」 八子知礼 著 クロスメディア・パブリッシング 2022
DX(デジタルトランスフォーメーション)、CX(コーポレートトランスフォーメーション)、SX(ソーシャルトランスフォーメーション)について、
たくさんの事例を紹介しています。
著者の経験として、どこをDXしたら良いのかがわからない場合に、DXのポイントになるのは、物や仕組みの境界になっている部分とのことでした。
「生産工場のDXがよ〜くわかる本」 山口俊之 著 秀和システム 2021
著者は、1984年にPOP(Point Of Production:生産時点情報管理)を提案して、その後の36年間に1300以上の工場に対して、
POPシステムによるデジタル化を進めて来た実績をお持ちとのことです。
そのご経験の上に、「IoT」や「DX」に必要な知識を解説されています。
POPでは、機械、設備、作業者、ワークの情報をペーパーレスかつリアルタイムに集めようとします。
これによって、まず、事務の工数がゼロになるように進めます。
さらに、製造、保全、経営のそれぞれの立場の人に、正確、詳細、タイムリーなデータを提供して、効率的、効果的な行動ができるようにします。
「工場」の仕組みについて、工場の内部で働いている人にとって重要なことを、網羅的かつポイントを押さえたまとめ方になっています。
いろいろなアプローチが「原価の改善」につながって、会社の利益につながる話は、他の本では、ちょっと思い当たりませんので、貴重な本と思いました。
「日本型インダストリー4.0」 長島聡 著 日本経済新聞出版社 2015
ヨーロッパを中心に進められているインダストリー4.0を解説しています。
それを元に、日本のあり方を提案しています。
ヨーロッパでの先進的な取り組みは、大きく分けると3つになるようです。
・@ 3DのCG :工場全体の規模のによる、設計の確認(動線の確認、等)や、生産活動のシミュレーションに訓練。
・A 3Dプリンタ :試作の効率化。
・B センサーデータ :設備の健全性の把握。サービスビジネスへの活用
日本が得意とする改善活動と相性が良く、また将来性も良いものとしては、Bのセンサーデータの活用が提案されています。
「スマート・ファクトリー 戦略的「工場マネジメント」の処方箋」 清威人 著 英治出版 2010
生産設備の制御機器から、生産管理や購買管理をしているシステムまでのすべてをネットワークでつないだ工場を、スマート・ファクトリーとしています。
これができていると、CO2削減のためにすべきことや、品質問題が起きた時の影響範囲なども、具体的にわかってくるようです。
「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか 「スマホネイティブ」以後のテック戦略」 西田宗千佳 著 講談社 2019
既存のビジネスにおける顧客とのコミュニケーションの基盤を、インターネットに変更することを、
デジタルマーケティングやデジタルトランスフォーメーションとしています。
単なる変更ではなく、スマホが当たり前になっている世代への対応や、ビジネスの効率化、働き方改革にもつながっています。
一番ページを使っているのが、アドビ社のソフトの販売が、パッケージ型から、クラウドを使ったサブスクリプション型に変わった話です。
これによって、顧客には、最初の導入費用が低くなる利点があり、アドビ社には、販売上の問題点がすぐにわかり、業務の効率が格段に上がる等の利点があったそうです。
アドビ社以外は、通信販売のロハコや、三井住友銀行が、顧客との接点や入口となる、ホームページのデザインや、
顧客データを改善することで、商売を改善させた話があります。
「マーケティング視点のDX」 江端浩人 著 日経BP 2020
DXが大きな成果につながらないのは、デジタル化したシステムの構築にとどまっていることであるとしています。
マーケティングの視点を持って、顧客の欲求を実現するための方法として使って行くことを提唱しています。
「デジタル化の教科書」 西村泰洋 著 秀和システム 2019
AI、IoT、RPAなどの個々の技術への、著者の導入体験も踏まえた解説です。
「データレバレッジ経営 デジタルトランスフォーメーションの現実解」 ベイカレント・コンサルティング 著 日経BP 2019
レバレッジとはテコのことで、自社や他社のデータをテコの片側におき、支点をデータ分析にすることで、大きな力を得る経営モデルが、
データレバレッジ経営とされています。
デジタルトランスフォーメーションに必要なのは、データとデータ分析という考え方をしています。
「リエンジニアリング革命 :企業を根本から変える業務革新」 M・ハマー、J・チャンピー 著 日本経済新聞社 2002
リエンジニアリングの提唱者による本です。
リエンジニアリングの成功例や失敗例が、詳しい解説付きでたくさん載っています。
リエンジニアリングとは、「最初から作り直すこと」、「再出発」としています。
リエンジニアリングの特徴は、
「プロセス重視」、「『そもそも、なぜこの作業をするのか』を考える」です。
「黒船を迎えた製造現場 : ISO9000シリーズ・リエンジニアリングを変革の第一歩に」 西沢隆二 著 産能大学出版部 1995
トヨタの格子理論というのを紹介しています。
格子理論では、材料の流れの軸と、人や装置の流れの軸を格子状に考えています。
この本は、「リエンジニアリングの方法は、日本にとっては新しいものではなく、
格子理論で説明できる」という立場です。
この本は、ちょっと変わった視点で
品質管理
を解説しています。
生産管理の担当者は工程全体を見ている一方で、
品質管理の担当者は工程全体を見ていないので、
ISO9000
の導入には、生産管理の担当者を入れるべきとしています。
このような提案をされることについて、品質管理の担当者は反省すべき点があるかもしれません。
「一環品質設計マニアル :企画・開発・設計のリエンジニアリング」 野口彰夫 編著 新技術開発センター 1994
品質の設計の実務をまとめています。
新規の工程設計の方法として、
ISO9000
や、リエンジニアリングを参考にしています。
順路 次は 課題達成の手順