エネルギー比型SN比 が代表的ですが、 品質工学 では、力学的エネルギーや熱エネルギーというような、 物理学的な意味の「エネルギー」に関係する品質を扱っていなくても、 「エネルギー」という言葉が使われます。 ただし、品質工学で出て来る「エネルギー」という言葉は、 物理学的な意味の「エネルギー」とは違う意味で使っています。
しかも、品質工学の「エネルギー」という言葉には、2通りの意味があります。
ひとつめが、「エネルギー = 物性値を2乗した量」です。
分散には、加法性(足し算ができる)という数学的な性質があります。 また、物理学的なエネルギーにも加法性があります。 品質工学では、この アナロジー を使って、本来、「分散」や「2乗和」という言葉で語られるべき部分を、 「エネルギー」という言葉で説明することがあります。
さらに、物性値を2乗した量を「エネルギー」と呼ぶこともあります。
ふたつめが、「X = 入力エネルギー ・ Y = 出力エネルギー」です。 機能性の評価 で出てきます。
X と Y とは、因果関係を表したり、数値的に関係する2つの物の関係を表したりする時に、一般的に使われる書き方です。 因果関係の場合は、Xが原因で、Yが結果を指します。 品質工学では、X と Y の実体が何であるかに関わらず、「エネルギー」と呼ぶことがあります。 X が入力エネルギーで、Y が出力エネルギーと呼ばれます。
太陽電池は、太陽光のエネルギー(入力)を電気エネルギー(出力)に変換しますが、 品質工学は、こういう物理学的なエネルギーを変換する時のアナロジーで説明されます。 品質工学では、実際に入力や、出力という行為をしていなくても、 「X のエネルギーを入力し、Y のエネルギーを出力した。」と表現します。
物理学的なエネルギーでは、 普通は、入力エネルギーが目的のエネルギーに100%変換されることはなく、エネルギーの損失があります。 目的以外のエネルギーにもなります。
一方、品質工学で、「エネルギー損失」という時は、 X と Y の相関が悪い(データがばらつく)ことを指します。 相関が悪い時は、品質の不具合等の、目的以外のところにエネルギーが使われていると考えます。
物理的なエネルギーの損失は、相関が良くても起きることなので、 言い回しは似ていますが、 アナロジー にはなっていません。
品質工学の中では、 熱力学 とのアナロジーを考えながら、「エネルギー」という言葉が使われています。
ところで、統計力学のカノニカル分布と、統計学の正規分布の確率密度関数の式を見比べると、 よく似ていて、統計力学でエネルギーを表す部分は、Xの二乗の項が対応しています。
品質工学で、二乗の項を「エネルギー」と呼ぶのは、熱力学とのアナロジーから二乗の項がエネルギーに相当するためのようなのですが、 統計力学と統計学の両者を知っていると、この呼び方は、当たっています。 こう考えると、品質工学は、 情報統計力学 の一種とも言えるようです。
統計学では、二乗の項は、ばらつきの尺度として使われます。 「ばらつき」と「エネルギー」という、まったく異なる概念に、実は同じ意味もあるのは、何とも不思議な話です。
「品質工学の数理」 田口玄一 著 日本規格協会 1999
エネルギーは加法性が成り立つことから、エネルギーの平方根に相当するデータを取るようにして、議論を進めるように説明しています。
加法性の成立に強いこだわりがあり、加法性が成り立つデータを取るべきとしています。
2次形式とのアナロジーもあります。
「品質工学便覧」 田口玄一 監修 日刊工業新聞社 2007
機能性の議論が進む中で、ある時から田口玄一氏が、「エネルギー」という言葉を使うようになったそうです。