立地論というのは、「工場や店をどこに作れば良いのか?」、ということを検討する分野です。
歴史的には、
立地論 → 都市経済学 → 空間経済学
と考えれば良いようです。
都市経済学までは、ひとつの地域の話が中心ですが、
空間経済学となって来ると、国際的な貿易の話も絡んでいます。
立地論は、全国や、全世界を、またにかけているような企業に当てはまる話です。 また、工業を念頭に置いていることが多いです。 もっと私たち自身に身近な問題となってくると、もっとローカルな視点が必要ですし、 農業の話がもっと重要になっていると思います。
都市化や、都市の形態を分析するためのモデルがあります。
複数の企業がひとつの地域に集まることを「産業集積」といいます。 集積することのメリットとしては、いくつか言われており、 これも 外部性 です。
直接会うと、特別な信頼関係が築けたりしますので、インターネット等の通信手段がある時代でも、直接会うことには大きな意味があるように思います。 頻繁に直接会うのでしたら、その信頼は、さらに太いものになるではないでしょうか。
「契約を結べば、あまり信頼関係のない相手とでも問題なく仕事ができる。」、 と考えられなくもないですが、 契約で仕事を進めようとすると、 「万一の時に裁判で負けないように、起きそうなすべての事は、契約に書いておかねば。」、 といったことになったりします。かなり大変な仕事です。
空間経済学の中でも、 環境経済学 のような 外部性 の議論があるのですが、視点が異なります。 空間経済学では、物理的な距離が近いことによって、情報交換ができたり、 早く、安く、物が運べるメリットが、外部性として大きいです。
空間経済学は、都市の内部や都市同士の比較の議論だけでなく、 環境経済学のような視点で、 都市の周辺環境との関わりを問題にしても良いように思いますが、 まだそのような解説を見たことがないです。
空間経済学でも、人口問題等が取り上げられることがありますが、その土地特有の地域性は考慮されません。 世界を均質なものと考えているようです。 また、「もうける」ことを主眼にした立地論なので、 環境影響という観点では、賛同できない部分もあります。
下記の本の分類ですが、タイトルが「空間経済学」でも、内容が立地論主体であれば、「立地論」のグループに入れています。
「実践!「繁盛立地」の判定・分析・売上予測」 林原琢磨 著 同文舘出版 2020
6大立地要因が、商圏規模、商圏の質、接近容易性、知覚突出性、土地・建物制約、競合制約。
立地の考え方だけでなく、お店の見え方や見せ方の話もあります。
5店舗を超えたら取り組みたい売り上げ予測の方法が比較法で、数字を表にして比較する方法。
30店舗を超えたら取り組みたい売り上げ予測の方法が、
重回帰分析
。
「空間経済学の基礎理論」 石川利治 著 中央大学出版部 2003
農業・商業・工業の立地の分析です。
生産と小売の経済的関係。
数式が多用されているのが特徴の本。
モデルを図ではなく、数式で理解するところに敷居がありますが、
立地、生産者や消費者、お金の流れ、等々のバランスを考えるには、こういうアプローチが良さそう。
「産業立地論」 鈴木洋太郎 著 原書房 2009
伝統的な産業立地論と空間経済学の本とのことです。
・クラスター論 : 地域ごとに多様な産業が自然発生的に集積する、とする理論
・宮沢健一氏の産業論には空間的な視点がなく、矢田俊文氏の「地域構造論」には企業の立場からの「産業配置論」と、
立地場所である地域社会の立場からの「地域経済論」があるが、両者の相互関係が明確ではないそうです。
この本では、立地行動と立地環境という2つのアプローチをしています。
「立地調整の経済地理学」 松原宏 編著 原書房 2009
・工場閉鎖の決定は、工場所在地から離れたところでなされる。
・旭化成は、今でも創業地の延岡を特別な場所にしている。その土地の政治にも関係が深い。
「都市の空間経済立地論 −立地モデルの理論と応用」 神頭広好 著 古今書院 2009
経済地理学・都市経済学・計量地理学にまたがる「立地論」を扱っています。
立地論の教科書やモデル集とも言えそうな本です。
現代の「外部性」として、ネットワーク(インターネット)による流通を挙げていました。
「都市経済地理学」 林上 著 大明堂 2002
交通・工業・商業の立地を扱っています。
10章は、「都市経済の持続的発展と環境問題の解決」でした。
エネルギー消費等の経済活動が環境問題を起こすとしています。
ネルソンの「持続的生存のための原則」が紹介されていますが、倫理的なものです。
この章は、問題提起が中心で、経済学的な解決策は示されていないように思いました。
「都市・地域の経済学」 フィリップ・マッカン 著 黒田達朗 他 訳 日本評論社 2008
企業立地の理論・都市経済の空間分析・労働市場分析・都市と地域の経済政策(ゾーニング・グリーンベルト)、等です。
「現代都市経済学」 宮尾尊弘 著 日本評論社 1995
土地・住宅・交通についてのミクロ経済学的な分析が載っていますが、
全体的には、社会学っぽい内容です。
「現代経済学の潮流 2010 」 池田新介 他編 東洋経済新報社 2010
この本の内容は、2008年のリーマンショックの影響を少なからず受けているようです。
第5章が、「自然災害・人的災害と家計行動」なのですが、東北地方の大震災は、この本の出版から半年後です。
補助金制度はモラルハザードを誘発する等の示唆がなされているのですが、
大震災の時にどの程度被害の軽減に貢献したのかは、筆者にはわかりません。
この分野の一層の発展は、社会の願いと思いますし、研究者もそのような意識で挑まれていることと思います。
第1章:空間経済学の発展
・チューネンのモデル : 町の中心に工業、町の周辺に農業
・マーシャルの理論 : 特定産業の集積には、ロックイン効果(ひとつの場所に留まる効果)をもたらす外部性が重要
(マーシャルの外部性についてのミクロ経済学的基礎付けは、十分に進んでいないとのこと。)
第4章:世界観と利他的経済行動
利他的な行動に、合理的な理由を見つけようとしています。
信仰心をもつ人は、献金をしたりボランティア活動を好むのに、所得の再分配政策は好まないという傾向があるそうで、
著者はそれを矛盾と考えています。
そして、死後の世界での報いへの認識が、この矛盾が成り立つ合理的な理由であると考えているようです。
筆者の印象として、著者にとっては、「合理的 = 利己的」のようです。
世界観、宗教観、利他主義、といったものと、利己主義を前提とした経済学の理論を結びつける研究の一端として、
興味深い章でした。
「空間経済学」 佐藤泰裕・ 田渕隆俊・山本和博 著 有斐閣 2011
空間経済学の教科書的なまとめ方をしている本です。
中心地理論
が出てくるのが最後の章なのは、時代に即応した構成ではないかと思います。
動学的分析の理論の中では、「住民は効用の高いところに、簡単に移住する。」、と想定されているようです。
実際は、そんな事はないと思うのですが。。。
「空間経済学 −都市・地域・国際貿易の新しい分析」 藤田昌久 他 著 東洋経済新報社 2000
各章は
テーマ選定 → 数式モデル作成 → 解析
、で構成されています。
「都市の階層システムの自己組織化」、「都市規模」、「成長と持続可能な賃金格差」、
「多数産業と持続可能な国家間の差」、等のタイトルがあり、
このサイト
にとって重要な事が書かれているようなのですが、内容を読み取れないでいます。。。
(^_^;)
「産業集積の経済分析」 大塚章弘 著 大学教育出版 2008
産業集積の現象を公の統計データから分析しています。
難しい本でした。
「ものづくりの現場から :まちの希望がここにある」 加藤正文・綱本武雄 編 かもがわ出版 2012
2012/2/18のシンポジウムの記録です。
・大田区には、今も4千もの工場がある。
その半数が4人以下。
特徴は、どんなに難しい仕事も断らないこと。
必要な道具は、自分で作ること。
ローテクがきっちりできること。
数十の工場が支え合うこと。
・中小企業の課題は、情報の収集力と発信力。
いろいろな人が、その技術を見れるようになると、新しい使い道が生まれる。
・中小企業は、植物。地域に根を張っていて、深く関わっている。
・中国と競うのは、「人」になる。
「イノベーションの地域経済論」 野澤一博 著 ナカニシヤ出版 2012
イノベーションが起きる地域のあり方を検討しています。
この本で言うところの「イノベーション」は、大学の持っている技術の実用化です。
地域が学習して行くことが、イノベーションにつながるようです。
イノベーションの仕組み作りで終わらず、その後のマネジメントが必要としています。
この辺りは、
都市計画
の課題と同じだと思いました。
「備前焼を科学する シリーズ「岡山学」1」 岡山理科大学『岡山学』研究会 編 吉備人出版 2002
備前焼の特徴、作り方、窯の移動、等、多角的に解説した本です。
立地論も出て来ます。 いわゆる「立地論」は、近代の企業による大量生産についての研究成果なので、
近代の経済の仕組み以前に起こっていて、
今も「企業」という形態では生産されていない備前焼という産業に対して、
立地論を適用することには、無理があることを力説しているところが、印象に残りました。
「ハルカの陶」 ディスク・ふらい 原作 西崎泰正 作画 芳文社 2011
一枚の皿に魅せられて、備前焼作家に弟子入りした人の物語です。 備前焼の歴史や特徴を学べる本でした。
ちなみに備前焼の特徴は、
・釉薬を使わない。(植木鉢や昔ながらの土器も釉薬を使っていません。
釉薬は、「うわぐすり」とも呼ばれ、表面を丈夫にしたり、表面に色を付けるのに使われます。
備前焼は釉薬を使わないので、土の品質や、焼き方で多彩な世界を作っています。)
・丈夫。(古代から、生活の器として重宝されたそうです。)
・千利休に認められた。(見方によっては、地味な焼き物ですが、茶道ではその良さを認められたそうです。)
順路 次は 計量地理学