民芸運動は、大正時代の末期からの運動です。 当時は、「民藝運動」と古い字で書いています。 「民芸品」と言う言葉は、この運動から始まりました。
一般大衆が日常で使うために作った製品を、作品として評価しようとしました。 中心人物は柳宗悦氏です。 日本民藝館には、柳氏が選んだものが展示されています。
優れた民芸品として、評価されてしまうと、その作品や作者は有名になりますし、値段は上がってしまいます。 そのため、民芸品を高く評価する運動なのに、優れた民芸品は、民芸品ではなくなってしまうという現象が起きていたようです。
また、「民芸」に影響を受けた芸術家の作品があったり、 芸術作品が民芸品のコレクションに混ざっていた事も、民芸運動への批判につながったようです。
現代の「民芸品」の意味は、「お土産品」、「手作り品」、「伝統工芸品」の意味で使われる事も多いようです。
民芸運動は、芸術の世界に対して、新しい物の見方を提案した運動です。 しかし、民芸をこうした高尚な世界で扱おうとしたことで、おかしな方向に進んだのかもしれません。
経済学や経営学の中での工業製品の考え方には、 土地や作家の個性というのは、強く出て来ることがないです。
そのため、 地域経済の活性化 や プロダクトデザイン の視点でも、民芸運動は面白いです。 現代において、ガラクタ市、蚤の市、骨董市、○○フェスタといった場所で、素敵な物が見つかります。 民芸品を売り買いする形や、評価する形は、こういう場所で、うまく実現しているのかもしれません。
グローバル化の時代と言っても、私たちそれぞれにとっては、自分の住んでいる場所がイキイキとしている事が、大切です。 民芸は、そんな時代のヒントになるのではないでしょうか。
「民芸運動と地域文化 民陶産地の文化地理学」 濱田琢司 著 思文閣 2006
陶器の産地への民芸運動の影響や、小規模産地や個人作家の重要性を解説しています。
地域は、小鹿田(おんた)、小石原、益子(ましこ)です。
地域の工芸は、美術と工業の間の、あいまいな存在。
三宅忠一氏は、民衆を経済的に潤すことができる生産の運動として、民芸運動を考えていました。
民芸運動が上流階層の趣味的な側面を持っていたことを批判。
「個人作家」よりも、「生産者」を重視。
民芸運動の主流からは離れ、日本民芸協団を設立。
「柳宗悦の民藝」 NHK「美の壺」制作班 編 日本放送出版協会 2009
民芸品の観賞のポイントをまとめています。
「使い込むほど美しい」をポイントのひとつにしている点が、特徴です。
「道具の足跡 生活工芸の地図をひろげて」 瀬戸内生活工芸祭実行委員会 編 アノニマ・スタジオ 2012
瀬戸内生活工業祭の関連本です。
主に、作っている人の立場で書かれています。
香川県とデザインとの関わりが詳しいです。
日本民藝館の館長でプロダクトデザイナーの、深澤直人氏との対談があります。
「ひと昔前のデザイナーは企業の中にいたから、企業の都合を考えた。
今はもの作りが海外に行っているから、社会のためのデザインに目を向けられる」、といった話もありました。
「〈民藝〉のレッスン つたなさの技」 鞍田崇、他 編 フィルムアート社 2012
「TROPE」というブランドでは、隙間をいっぱい作ることによって、物と関わる事で生まれる機能をデザインします。
「提案しないという提案」と説明していました。
これは、
価値工学
や
QFD
の思想とは真逆でした。
本全体としては、いろいろな立場の人の文章が混ざっていて、民芸運動の紹介と再評価をしようとしています。
柳宗悦氏や民芸運動の思想についての批評に、ずいぶんページが割かれていました。
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