フェルミ推定は、ざっくりとした数字(データ)を得るための方法です。
「日本の猫は何匹?」、「日本の電信柱は何本?」といった例がよく知られています。
答えの数字がまったくわからなかったとしても、答えの数字をざっくりと計算してしまうのがフェルミ推定です。
例えば「A市の小学生の数は?」を推定したいとします。
計算式は、
「学校の数 × 1校当たりの人数」
とします。
学校の数 = 20校
1校当たりの人数 = 500人
とおきます。
すると、
20 × 500 = 10000人
と求まります。
フェルミ推定では、「0が4つあるくらいの桁の数」とわかったことが重要で、その後の意思決定などで活用します。 一番大きな桁の数字が「1」であるということは、あまり重要視しません。 というよりも、ざっくりとした数字なので、「1」であるということにピッタリ合わせた対策は、失敗しやすいです。
仮に置いた数によって、2倍や半分くらいの数になることもありますが、そういうことはあまり気にしません。 フェルミ推定では、少なくとも、1000とか100000といった大きさの数字ではないことがわかったことを、成果と考えます。
フェルミ推定では、重要なポイントが2つあります。 「頭の中にあるデータの活用」と「計算式の作成」です。 計算式の作成は、「因数分解」とも呼ばれています。
まず、計算式を考えます。 次に、計算式に頭の中にあるデータを当てはめます。 こうすることで、単独ではわからない数字を導き出していきます。
なお、一部でも良いので正確な値や計算式があれば、それを使った方が良いです。
頭の中にあるデータは、計算式がないような場面でも役に立つことがあります。 「データがない」、という場面で役に立ちます。
例えば、作業時間を改善する時に、「作業時間は、どこにも記録していないから、現状の時間はわからない」という意見をいただくことがあります。
しかし、このような時にいつもその作業をしている人に、「この作業は、ふだん何分を目安にしているのですか?」と聞くと、「30分です」といった感じで、 欲しいデータがとれたことがあります。 このケースだと、10分刻みくらいの粗さで、それぞれの作業時間のデータが得られました。 この時は、最初の調査としては、十分な精度のデータでした。
似たものとしては、「このトラブルは、どのくらいの間隔で起きますか?毎日ですか?1か月に1回ですか?1年に1回ですか?」 という質問をすると、この3択のどれに近いかくらいは、答えが得られることがあります。 これだけでも、その後の方針を決めるのに役立ちます。
フェルミ推定は、 数理モデリング の一種です。 仮説や原理原則を使って、計算式を作ります。
定性的な仮説の探索 をして、計算式に入っていそうな項目(要因)を洗い出してから、「項目の関係は、足し算、引き算、掛け算、割り算のどれか?」として、式を作る方法もあります。
次元解析 をすると、作った計算式の正しさを単位の側面から確認できます。
「リスク」や「生産性」は、イメージはできるものですが、直接的には測れないものです。
しかし、これらはうまく式を作ると、個々の因子については、だいたいの数字を知っていることがあり、測れるようになります。
フェルミ推定は 予測とシミュレーション に使えます。
例えば、上記のリスクについては、「発生頻度を半分にできれば、リスクは半分にできる」といったことがわかるようになります。
有効数字 を知っていると、こだわった方が良いポイントがわかりやすいです。
例えば、上記の例で1校当たりの人数を「500」としましたが、「正確な値は503だから」と言って、503を入れても最終的な数字はあまり変わりません。 一方、「正確な値は100だから」と言って、100を入れると、結構大きく変わります。
フェルミ推定の場合は、それぞれのデータの一番大きな桁の数字の正確さが大事です。
計算式を改良する場合も、最終的な推定値の一番大きな桁の数に影響するような要素が、改良のポイントになります。
一番大きな桁の数が変わってくると、推定値の桁の数が変わることもあるので、その意味でも、 一番大きな桁の数を見て行くのがポイントになります。
「世界の猫はざっくり何匹? 世界の猫はざっくり何匹?」 ロブ・イースタウェイ 著 ダイヤモンド社 2021
世の中の数字の多くは、フェルミ推定のようなざっくりとした計算でできているとしています。
シンプルな加減乗除で推定する本です。
数の例が多いですが、確率の推定方法もあります。
フェルミが行った概算は、爆弾の強さだった話も紹介されています。
「問題解決大全」 読書猿 著 フォレスト出版 2017
フェルミ推定は、桁数の推定を目標にする方法として紹介されています。
問題を分割してロジックツリーを作る → ロジックツリーの先端から数値を推定 → 分割した推定をかけ合わせて答えを出す → 推定結果のチェック
「定量分析の教科書 ビジネス数字力養成講座」 グロービス 著 東洋経済新報社 2016
フェルミ推定の手順のうち、特に関係式を作る部分を紹介しています。
すぐにわかる数字と、いくつかの前提から、ざっくりとした量を計算する方法としています。
「地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」」 細谷功 著 東洋経済新報社 2007
結論から考える、全体から考える、単純に考える、ということが地頭力の良さになり、これを鍛えるツールとしてフェルミ推定を説明しています。
問題解決の基本的な考え方を身に着けるツールとしてもフェルミ推定を説明しています。
「「フェルミ推定」から始まる問題解決の技術」 高松智史 著 ソシム 2022
対象としている分野の状況の変化に影響しているものも考慮して、推定の精度を高める工夫をしています。
また、いったん推定するための式を作ってみて、「気持ち悪い」という感覚を手がかりにして、式を改良しています。
この本では、かなり複雑な式を扱っています。
この本は、「問題解決」という言葉を使っていますが、
問題解決と課題達成
のページの呼び方を使うと、この本の内容は課題達成になっています。
例えば、「売上を2倍にするには?」というタイプの話が、この本で扱っている内容です。
フェルミ推定を使って、現状の売上がどのような式でできているのかを考えます。
式ができれば、式の各要素が売上を増やす要因になっているので、あとは要因ごとの対策になります。
そして、目標値を達成するまでの筋道をつけていきます。
「因数分解思考 あらゆる悩みを自分で解決!」 深沢真太郎 著 あさ出版 2022
この本には、「フェルミ推定」という言葉は出て来ませんが、
内容はフェルミ推定と、とても似ています。
フェルミ推定の解説書では、「日本全体での学校の数」のように具体的な数字を扱うことが多いですが、
この本では、人間関係のように抽象的なものについても、要素に分けて、それらの四則演算で成り立っているものと考えて、推定していきます。
また、この本が扱っているのは、「悩み」ですが、「悩み」は
問題解決と課題達成
の分野における「問題」や「課題」と考えます。
つまり、悩みは、理想と現実の差と考えます。
悩みについても、四則演算で成り立っているものと考えて、理想と現実のそれぞれを要素に分けて、推定値を出すことで、悩みも数字で表現できるようにしています。
順路 次は 測度論とデータサイエンス