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計量経済学:実証分析

筆者の知る限りですが、 回帰分析 の一般的な紹介では、データに偏りがある可能性、説明変数と誤差項に相関がある可能性、そして、その対処法としての操作変数法が紹介される事はないです。

一方で、計量経済学の文献では、これらの話が主な内容になる事が多く、入門的なテキストでも紹介されています。 文献によっては、 時系列解析 にもページを割いている場合があります。

計量経済学では、これらの手法を「実証分析」と呼んでいます。

計量経済学の文献は、因果推論というよりも、「応用回帰分析」と呼んだ方が良いような形で書かれるのが一般的のようです。 統計学の教科書にあるような回帰分析の解説から始まって、 パネルデータ分析 や操作変数法といったものに進みます。

操作変数法

因果関係を調べたいYとXに、Xと相関の高いZがある時の方法です。 この場合は、YとXで回帰式を作ると、誤差項とXの相関が残ると考えます。

XとZで回帰分析をして、XのZによる予測式を作ります。これを新たな変数にすると、新たな変数と誤差項の間には相関がなくなる、というように考えます。

パネルデータ分析

線形混合モデル の一種ですが、Xが時間になっていて、 経時解析 の一種にもなっています。

差の差分析

経時解析 の一種です。 時間的な差について、2つのグループの差を見ます。

回帰不連続デザイン

政策では、例えば、「年収〇〇以上か」といったように、境界線を引いて対策を分けています。 境界線付近のサンプルは、 これを利用して、「処置あり、なし」の違いが分かるサンプルとして使います。

不均一分散

計量経済学の解説書では、回帰分析における 等分散の仮定 が経済関係のデータでは成り立っていないことを説明していることがあります。 「不均一分散」と呼ばれています。

計量経済学では、不均一分散への対策として、加重最小二乗法というものが紹介されます。

ただ、加重最小二乗法は、データへの当てはめとして考えられたもので、物理的な解釈につなげにくいです。 筆者としては、 比例分散の回帰分析 として進めた方が良いのではないかと考えています。



非等分散の回帰分析

参考文献

回帰分析の応用が多い

経営・会計の実証分析入門 SPSSによる企業モデル分析」 門田安弘 著 中央経済社 2003
経営のテーマについての、回帰分析ロジスティック回帰分析分散分析の本です。


データ分析をマスターする12のレッスン」 畑農鋭矢・水落正明 著 有斐閣 2017
回帰分析 の話が豊富です。 質的な原因の回帰分析として 数量化理論 、質的な結果の回帰分析として ロジスティック回帰分析 もあります。
「最終学歴の考え方に注意する」等、社会や経済のデータを扱う時の具体的な注意点も多いです。


計量経済学の第一歩 実証分析のススメ」 田中隆一 著 有斐閣 2015
重回帰分析 を、外的変数を操作できるモデルとしています。 このモデルがどのような計算をしているかを理解して、使えるようになるため、統計学の初歩から解説しています。
その後に、操作変数法、パネルデータ分析、マッチング法、回帰不連続デザインです。
操作変数法:  コラムとして、先行研究で使われた操作変数の例があります。
パネルデータ分析: パネルデータ(繰り返し測定されたデータ)を使うと、要因の制御ができる。
マッチング法: 条件や、環境がまったく同じではないが、似ているものを探して、効果の有無を見る。
回帰不連続デザイン: 政策導入を瞬間的な変化として、その前後の変化の仕方に注目しつつ、政策導入の効果を見る。


入門 実践する計量経済学」 藪友良 著 東洋経済新報社 2023
回帰分析の基本から始まって、操作変数、差の差分析、回帰不連続デザイン、 ARモデル(VARモデル) 不均一分散:ロバスト標準誤差と加重最小二乗法が対策


Rによる実証分析 回帰分析から因果分析へ」 星野匡郎・田中久稔 著 オーム社 2016
前半が回帰分析の一般論で、後半が一般的な回帰分析では、因果関係が表現できない場合の応用的な回帰分析です。 Rの実施例もあります。
まず、バイアスへの対応は、ランダム化実験やマッチング法。
Xと誤差項に相関がある場合(Xが内生変数)のモデルが、操作変数法。 XのXとして、操作変数という変数を想定します。


新しい計量経済学 データで因果関係に迫る」 鹿野繁樹 著 日本評論社 2015
回帰分析を丁寧に解説しています。
非実験データのための因果分析として、操作変数法。
非線形の回帰分析として、 プロビットモデル、ロジットモデル 、トービットモデル。 この本の計算は、「gretl(グレーテル)」というフリーソフトでできるそうです。


やさしい計量経済学 プログラミングなしで身につける実証分析」 加藤久和 著 オーム社 2019
gretlを紹介しています。
一般的な回帰分析から始まって、操作変数法、パネルデータ分析、時系列分析と高度な回帰分析に進みます。
不均一分散:加重最小二乗法が対策。XとYの両方を、Xの平方根で割ってから最小二乗法をする。
頑健な標準誤差:傾きβの推定値を不均一分散でも求める方法


EViewsで学ぶ実証分析入門 基礎編」 北岡孝義・高橋青天・矢野順治 編著 日本評論社 2008
EViewsというソフトのマニュアルと、計量経済学の入門書になっています。 応用編の方もそうですが、いわゆる多変量解析の方法で手持ちのデータを調べる、 という教科書でよくある内容ではなく、知りたい事を知るために、ひと手間加えた分析をしています。
この本は 重回帰分析 で、生産関数を分析します。 モンテカルロ法でデータを作って、回帰分析で調べるアプローチをしています。


EViewsで学ぶ実証分析入門 応用編」 北岡孝義・高橋青天・矢野順治 編著 日本評論社 2008
VAR(Vector Autoregressive Model:ベクトル自己回帰モデル): 変数が2つあり、相互作用しながら変化する時のモデルで、政策の効果の分析をしています。 インパルス反応として、瞬間的な変化があった後の変化を調べてます。
GMM(Generalized Methods of Moments:一般化積率法):ヒストグラムでGMMという量を見ると、何かがわかるようです。
ボラティリティ分析:経済のデータは、分散が不均一な事があるそうです。 その対応として、ARCHとその応用版があります。
トービット・モデル:ある条件や範囲のYやXのデータがない場合のモデル。 (データがない事によって、何がわかって、何がわからなくなるのかは、筆者にはわかりませんでした。)
パネルデータ分析:多変量の時系列分析


因果推論寄りの内容

「原因と結果」の経済学 データから真実を見抜く思考法」 中室牧子・津川友介 著 ダイヤモンド社 2017
因果関係と相関関係は違うことの話から始まり、 因果関係を検証するためには、反事実が必要な事を説明しています。
反事実を得るには実験が一番ですが、実験できない時は、ありもののデータでどのように実験に近い分析をするのかが説明されています。
「効果がある」という解釈で間違ったものには、反事実がどうなのかを考えていないものが多いそうです。


データ分析の力 因果関係に迫る思考法」 伊藤公一朗 著 光文社 2017
因果関係を分析する方法の本です。
ランダム化比較実験:ランダムサンプリングされたデータを理想としています。
RDデザイン:国境など、世の中にある様々な境界線を、水準の境目と考えて、分析します。
集積分析:社員の等級など、世の中にある様々な階段上の変化を、水準の境目と考えて、分析します。
パネルデータ分析:介入の有無と、介入の前後のわかるデータを探し、介入の効果を検証します。


実証分析入門 データから「因果関係」を読み解く作法」 森田果 著 日本評論社 2014
読み切りの形で、楽しくエッセイ風に解説されています。
社会科学の分野では、1回しか起きていない事件を扱ったりするので、 データの再現性を議論できないことがあるそうです。
この本の内容は、 検定回帰分析ベイズ統計 、サバイバル法、操作変数法、 テキストマイニング 等ですが、これらを使う目的が因果推論になっています。
サンプリング はランダムにすると、バイアスがかかりにくい。
異常値があっても、原因が特定できなければ、除外しない方が良い。


因果推論入門 ミックステープ:基礎から現代的アプローチまで」 Scott Cunningham 著 技術評論社 2023
確率論、非巡回アウトカム因果モデル、マッチング、回帰不連続デザイン、操作変数、パネルデータ分析、差分の差デザイン、合成コントロール法


統計的因果推論の理論と実装 潜在的結果変数と欠測データ」 高橋将宜 著 共立出版 2022
回帰分析の後に、傾向スコア、操作変数法、回帰不連続デザインと続きます。 欠測データの処理も扱っているところが特徴です。


その他

データサイエンスの経済学 調査・実験,因果推論・機械学習が拓く行動経済学」 依田高典 著 岩波書店  2023
第1部がアンケート調査で、コンジョイント分析が紹介されています。
第2部がフィールド実験です。
第3部が因果推論と機械学習で、コウザルフォレストが紹介されています。


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