「注文が来た!すぐに出荷したいが、倉庫の製品が足りない!」、というのは 顧客との関わり という点で、とても問題です。 注文が来た時のために倉庫にためておく製品は、「在庫」と言います。
在庫不足の問題は、対策が簡単に見えるかもしれませんが、そうでもないです。
在庫があれば、不意の注文にも、対応できます。 また、「工場で想定以上の不良が発生して、入荷が遅れる」、などが起こっても、顧客には影響しないようにする事もできます。
在庫は、いろいろな問題に対して、その影響を小さくするクッションの役割があります。
在庫を限りなくたくさん用意すれば、在庫は不足しなくなります。 このため、「在庫は多く持ちたい」という気持ちになります。
しかし、必要以上の在庫は、いろいろな問題を起こします。
まず、場所の問題があります。 充分な広さが必要になります。 製品によっては、その広い場所全体を、適温に保つ必要がある事もあります。
また、量が多いと、「探すのが大変」、「保管中に消費期限が過ぎてしまう」、などの問題が起きます。
生産工学 の分野で言われている事としては、在庫には、会社のお金の流れを悪くしてしまう問題があります。 また、「いろいろな問題の影響を小さくするために、 それらの問題を解決しようという気持ちが薄くなり、 問題がいつまでも解決しない」、という事も、 在庫の問題点として言われています。
必要最小限の在庫量を考える時に重要なポイントは、リードタイム、発注単位、出荷量のばらつき、運送費です。
リードタイムが短いほど、発注単位が小さいほど、出荷量のばらつきが小さいほど、在庫量は少なくて済みます。
運送費は別格です。 在庫量を少なくしようとすると、できるだけ、頻繁に入荷をする必要があります。 そうすると、運ぶ回数が増えるので、運送費が上がります。
発注点方式 や かんばん方式 の理論で考慮されているのは、リードタイム、発注単位、出荷量のばらつきです。 これらの理論を使って、在庫量を少なくする場合は、運送費がどうなるのかを考える事も必要になってきます。
リードタイムとは、発注してから、入荷するまでの時間です。 今日発注して、明日届くなら、リードタイムは「1日」になります。
発注して、すぐに入荷するのなら、それをすぐに出荷すれば良いので、在庫はゼロで済みます。 しかし、リードタイムが0でない場合、出荷したい時にすぐに出荷できるようにするには、 リードタイムを考えて、前もって発注しておく必要があります。
なお、必要な在庫量の計算は、その日の出荷よりも、その日の入荷の方が先に来る計算になっています。 実際は、出荷が朝で、入荷が夕方の場合は、計算で使うリードタイムは、1を足しておく必要があります。
「ペンを3本発注したい」と思っても、「12本(1ダース)毎でしか注文できない」、といった事があります。 このように注文できる最小の大きさを、ここでは「発注単位」と呼んでいます。
発注単位が、12本くらいならまだ良いと思いますが、100本、1000本、となって来ると、 1回注文する毎に、多くの在庫を持つ必要があります。
このため、発注単位はできるだけ在庫量を減らすには、重要なポイントなります。
出荷量にばらつきがある場合は、一番多い時に足りるように、在庫を用意する必要があります。
出荷の予定が完全にわかっているのなら、リードタイムを考えて、 それぞれの出荷のタイミングに間に合うように、発注しておけば良いです。 これが可能なら、在庫はゼロで済みます。
世の中では、出荷の予定が完全に分かっているケースは稀です。 むしろ、予定がわからないのに、注文が来たら、すぐに出荷しなければいけないケースが多いと思います。 このケースでは、リードタイムや出荷量のばらつきを、どのように考えるかがポイントになります。
発注点方式 や、 かんばん方式 は、そのようにして考えられた在庫管理の方法です。
「なぜあなたの予測は外れるのか AIが起こすデータサイエンス革命」 小松秀樹 著 育鵬社 2017
在庫量を適切に維持できるように、発注量や生産計画を決めるためのツールとして、T・AIというソフトを著者が開発していて、この本はその紹介。
T・AIは、
自己回帰モデル
をベースにしつつ、季節変動などの、現実の在庫管理で起こる典型的な動きもモデルに取り込めるようにしている。
また、
制御
の考え方も入っていて、誤差の修正もする。
著者は、これまでの在庫管理は固定観念や、人間の起こしやすい間違った思考プロセスの影響を避ける方法として、T・AIの利用を推奨している。
「すらすら在庫管理」 竹村純也 著 中央経済社 2012
公認会計士として企業の支援をしている方が著者。
在庫と会計の関係が詳しい本。
在庫管理は、購買部門など、現品を見ている部門の中での話になりがち。
しかし、在庫は連鎖しているので、在庫管理には会社全体の視点が必要。
管理レベルの最下層が現品の状況、次が物量情報、最上位が金額情報。
金額情報は単位がそろっている。
公認会計士は、決算書に表れる金額情報を見て、現品の状況までブレークダウンする。
現品の情報が、別の情報に転換するところがチェックのポイント。
「モ・ダ・マの観点(モレがないか・ダブリがないか・間違っていないか)」が有効。
情報の転換点は、業務のフロー図から見つける。
この本では、在庫の受け入れ、製造、払い出し、計上の4つの業務プロセスの中で、
この転換点の場所と、着眼する具体的な内容を説明。
予算管理は、もともと過剰在庫への対応として生まれたもの。
「最新在庫管理の基本と仕組みがよ〜くわかる本」 湯浅和夫、内田明美子、芝田稔子 著 秀和システム 2011
経営の視点からは在庫削減をしようとするが、生産担当、営業担当、物流担当は、自分の立場の都合から、在庫は多めに持とうと考える。
ロジスティクスやSCM(サプライチェーンマネジメント)として、
「売れた分だけ在庫を補充」すると考え方を、他社も含めた物流全体で持つようにすると、余計な在庫を持つ事がなくなる。
この本では、トヨタ生産方式
の代表格である
かんばん方式
が発注方式として紹介されていませんが、この補充の考え方は、
トヨタ生産方式
の基本的な考え方のひとつです。
「混雑と待ち」 高橋幸雄・森村英典 著 朝倉書店 2001
世の中の様々な混雑や待ちを紹介してから、理論の話になっています。在庫管理も出て来ます
「オペレーションズ・リサーチ読本」 刀根薫 著 日本評論社 1991
・第7章が在庫管理。前半が確定的なモデルで、発注量、発注費、保管費、品切れ損失も含めて、在庫費用を計算し、最適発注量を決めるためのモデル。
後半が確率的なモデルで、発注点方式を解説。
「はじめての確率論」 小杉のぶ子・久保幹雄著 著 近代科学社 2011
在庫管理の話があります。
・確率的在庫モデル:新聞売り子モデルは、売れ残り(在庫)と、品切れのコストのバランスを取って仕入れ量を決めるためのモデル。
座席割当てモデルは、売れ残り分は割引運賃で売る方針の時に、正規運賃で売る分を決めるためのモデル。
・複数の小売店からの倉庫への発注量のモデルは、同期発注、スケジュール発注、ランダム発注の3通り。
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