トップページ | ひとつ上のページ | 目次ページ | このサイトについて | ENGLISH

変形と振動と波動(連続体力学)

物質は、ミクロに見て行くと原子の集団です。 連続体力学は、物質をミクロに見ずに、その物質を「均質」とみなすことで発展した分野です。 マクロな視点の学問です。

連続体とは、建物では柱や梁です。 地球で言えば、マントル、プレート、川、海、大気のそれぞれが連続体です。 連続体力学は、構造力学、材料力学、地球物理学等の、「変形」を扱う様々な学問の基礎になっています。

連続体力学の基本は、弾性体力学と 流体力学 の2本柱になっています。 弾性体でも流体でもない連続体については、まずは、弾性体と流体の理論の延長として考えて行き、 足りない部分をミクロの理論で補っていくアプローチが良いようです。

連続体力学では、力(応力)と変形の関係を考えます。 物質の状態によって、変形を表すのに適切な尺度が異なります。

固体

固体と言ってもいろいろですが、 特に書いていない文献の場合、固体の話をしている時は、金属の場合が多いです。 金属は結晶ですので、金属の理論はセラミックスのような結晶にも、ある程度当てはまります。

高分子(プラスチック、ゴム等)は、歴史上の登場が後ですので、研究も後から始まっています。 高分子の固体には、金属とは違う観点も必要です。

弾性

力をかけると変形し、力を除くと元に戻るのが弾性体です。 たいていの固体は、小さな力の範囲では弾性体とみなせます。

弾性体では、一般的に力と変形は比例関係とみなせます。 これがフックの法則です。 フックの法則は、ばねの伸び縮みの法則としても知られています。

建築物等の構造物の変形の理論は、一般的には弾性体として扱われています。 荷重や振動で力を受けた時に、力が除かれれば元に戻ることを前提にするためです。

弾性には、2種類あります。エネルギー弾性とエントロピー弾性です。 エネルギー弾性とは、力をかけた時に、エネルギーが上がるので、エネルギーを下げようとして元に戻る性質です。 エントロピー弾性の場合は、力に対してエントロピーが増減します。 エントロピー弾性は高分子に見られる性質です。

塑性

力を除いた時に元に戻らない場合は、塑性(そせい)と言います。 一般的な金属で言うと、塑性は、弾性の仮定の成り立たない程の大きな力がかかった時に現れます。

弾性が保たれている間は、ひずみと応力は比例します。 塑性体では、ひずみの増加に対して、応力が低下する現象が知られていて、「降伏」と言います。

結晶の塑性には、結晶面のすべりの理論があるそうです。 (転位論だけで説明がつくのかは、筆者にはよくわかりません。 ちなみに、転位論というのは、結晶の乱れや、結晶欠陥の挙動の学問です。)

塑性体は、力を加えると元に戻らない点が、流体と同じです。こういう視点も時には大事です。

粘弾性

弾性体は、力を除くとすぐに元の形に戻る物質です。 ところで、すぐには元に戻らなかったり、完全には元に戻らない物質もあります。 このような性質は、粘弾性と言います。

粘性は、 流体 の代表的な性質で、弾性は固体の代表的な性質です。 粘弾性は、流体とも弾性体とも解釈できる物質で現れる性質です。

レオロジー・ソフトマター

世の中には、固体の性質も、流体の性質も示す物質があります。 このような物質を扱うのが、「レオロジー」という分野です。

また、一般に固体と言えば、文字通り「かたい」イメージがありますが、 プラスチックのように、やわらかい固体もあります。 こういった固体は、ソフトマターと言います。

レオロジーやソフトマターでは、粘弾性がポイントです。

温度とガラス転移

固体の力学では、力と変形の関係を考えますが、 力と変形の関係は、材料の種類だけでなく、材料の温度でも変わります。 例えば金属の場合、低温状態や、高温状態の時に、それぞれ違う理由で壊れやすくなります。

非晶質(結晶構造を持たない固体)では、 低温では固体なのに、ある温度を境に性質が変わって流動的になることがあり、 ガラス転移と言います。

振動と波動

弾性体力学や流体力学には、材料の中での力の分布や、流体の速度の分布を調べるための話があります。

もう一つ大きな話が、振動や波動の話です。 連続体の方程式の解には、三角関数が入っていることもあり、振動や波動を表すことがあります。

流れは遠方に影響を及ぼすことができますが、 振動や波動でも、エネルギーを伝えることができたり、遠方の物質を変形させたりすることができます。 流れと、振動や波動は相補的な現象です。





このページは、「連続体力学」と言っても、固体の話が多くなっています。 流体に特有の話は、 流体力学のページ にまとめています。

参考文献

地球を連続体と考える

地球連続体力学」 松井孝典 他 著 岩波書店 1996
電磁流体 :太陽風等
・地震の理論は、弾性体振動論に含まれています。
・地震による地殻の破壊現象の理論として、 破壊力学 が出てきます。
・鉱物の 相転移 が、塑性流動の理論


レオロジーと地球科学」 唐戸俊一郎 著 東京大学出版会 2000
プレート、マントル、核という、地球内部のダイナミクスの本です。比較惑星学もあります。


連続体力学

「連続体力学」がタイトルになっている本は、だいたいが弾性体力学と流体力学の2本立てになっています。


連続体力学」 松信八十男 著 サイエンス社 1995
ほとんど流体の話です。
バロトロピー流体 :密度が圧力の関数として仮定できる流体。 現実の流体でも有効な仮定。この仮定で解析が簡単になる。
・弾性波 :弾性体の波動現象は、内部摩擦による発熱を伴う。


連続体の力学」 佐野理 著 裳華房 2000
この本では、建築物の構造の理論にもなっている弾性体力学と、流体力学があります。 弾性体や流体の統一的な見方も少し書かれています。
レオロジーについても余談で触れています。


キ-ポイント連続体力学」 生井沢寛 著 岩波書店 1995
いきなり連続体の理論から話を始めずに、 学生が知っている他の理論から始めて、連続体の各理論に橋渡ししています。
・ばねの理論 → 振動の理論
・結晶の理論 → 弾性体の理論
・質量の保存 → 連続の式


連続体力学 :熱力学的基礎とその応用」 W.ビュルガー 原著 浜田実 監訳 森北出版 1982
日本の本では見かけないけど、ちょっと変わった大事な事が書いてあります。変形の熱力学等です。
不連続面 :衝撃波等の急激な変化は、不連続面として記述できる。


連続体の力学」 巽友正 著 岩波書店 1995
中級位の内容です。内容のバランスが良いです。 オーソドックスな内容をまとめつつ、KdV方程式や乱流のような比較的新しい話も多めになっています。


弾性体・塑性体

塑性の理論には、ミクロの話が入って来ています。


弾塑性力学の基礎」 吉田総仁 著 共立出版 1997
数値解析の話もけっこう入っています。


弾・塑性力学 :非線形解析のための基礎理論」 北川浩 著 裳華房 1987
主に数式で説明している本です。


固体力学と相変態の解析」 井上達雄 他 著 大河出版 1995
「焼き入れ」や「焼成」という、金属やセラミックスの加工技術がありますが、 それらの熱処理で起きている現象を解説しています。


固体力学 :基礎と応用」 日本機械学会 オーム社 1987
降伏現象の理論がいろいろ出ています。
・非晶質材料の力学挙動は、線形粘弾性体のクリープ構成式
・金属の粘弾性はクリープ理論


レオロジー・ソフトマター

レオロジーの世界 :基本概念から特性・構造・観測法まで」 尾崎邦宏 著 工業調査会 2004
力学的な物性(粘弾性)の話が多いです。


レオロジー入門」 岡小天 編著 工業調査会 1985
第1章が用語集になっていて、知識の整理に便利です。
破壊、接着、粉体等の、多くのレオロジーの本では見かけない内容にも触れています。


ソフトマター :分子設計・キャラクタリゼーションから機能性材料まで」 高原淳・栗原和枝・前田瑞夫 編 丸善 2009
ソフトマターの分類と、産業への応用の本です。


振動と波動

わかりやすい 振動工学の基礎」 青木繁 著 日本理工出版会 2008
見た目も文章も、わかりやすく作られている本です。
エネルギーを用いると、複雑な系の固有振動数や、運動方程式が容易に求まるそうです。


振動と波動」 吉岡大二郎 著 東京大学出版会 2005
オーソドックな内容の合間に、 ピアノ、バイオリン、ハープ、フルート、クラリネット、オーボエ、パイプオルガンの解説もあります。


これからの光学」 大津元一 著 朝倉書店 2017
従来の光は、どこまでも遠くに進むことができるもので、光の理論はそれを前提にして作られていたものの、 ナノ領域だけの現象であるドレスト光子には、当てはまらない理論だったそうです。 ドレスト光に成り立つ理論を研究する中で、従来の理論の限界がわかり、より広い理論がわかったことで、 その理論から新たな現象の発見にもつながっているそうです。




順路 次は 共振と共鳴

データサイエンス教室