「相関関係と因果関係は違う」とは、よく言われる事です。 しかし、そうは言っても、相関関係は 定量的な仮説の探索 の強力なヒントになる事が多いです。
相関関係として一番わかりやすいのは 散布図と相関性 ですが、 質的なデータの相関性 なども駆使します。
相関関係が見つかった場合は、
@原因と結果の関係がある場合、
A共通の原因がある場合、
Bたまたまの場合、
の3つの可能性を考えて、現象の考察や次の解析に進みます。
この考察は、データの背景をよく知らない人だけで進めると、行き詰まったり、見落としをしたりします。 その場合は、深く関わっている人に協力してもらうと、深い考察ができることがあります。 原因の原因があることに気付くこともあります。
Aの共通の原因は、「時間」や「空間(位置・場所)」との相関もあることを確認してみると良いです。 それが突破口になることがあります。
Bの「たまたま」ですが、 データの サンプリング によって、本来、相関がないのに相関があるような結果が出ることがあります。
たくさんある変数から相関関係の高い変数の組み合わせを探す作業は、 「スクリーニング(選別)」と言います。
スクリーニングには、 多変量解析 や データマイニング の手法の中にあるモデルを使います。
例えば、
重回帰分析
でしたら、
、と言った式を使います。
Yを結果と考えられる変数にして、Xを原因と考えられる変数にしていきます。
スクリーニングでは、統計モデルだけで注目する変数を限定しない方が良いです。 機械的に 変数の選択 の方法を使うと、因果関係とは無関係でも、様々な理由で相関が高くなっている変数が選ばれますので、 p値 の一番小さい変数が、原因に一番近い変数とは限りません。 「p値が小さい順にした時の、上位1割の変数」や「p値が0.001以下」といった基準にして、 複数選んでおくと良いです。
いくつかの統計モデルを使って、こうした作業を進めると、自分の扱っているデータの特徴に、改めて気付くことがあります。 そして、この気付きが、原因の解明に役立つことがあります。
スクリーニングした変数とYについて、散布図で分布を見たり、 折れ線グラフ を使って時系列の変化を見ます。 スクリーニングしていると、ひとつずつの関係を丁寧に吟味することができます。 そうすると、「今回は、たまたま相関関係が高くなったみたいだな。」、 といった感じで、さらに変数を絞り込むことができます。
こうしてデータを丁寧に見ていく時にも、自分の扱っているデータの特徴に、改めて気付くことがあります。 この気付きも、因果関係の解明に役立つことがあります。
結果になる変数がひとつあって、原因と考えられる変数がたくさんあるような場合、 Yが量的変数の時は 重回帰分析 、 Yが質的変数の時は パターン認識 ( 判別分析 など)を使うと、スマートな解析になります。
しかし、何かの結果が、他の何かの原因になっていたりして、結果系と原因系に変数を分けられない事もあります。
そういった場合は、 多変量データの相関分析 、 ベイジアンネットワークによるデータの構造解析 、 アソシエーション分析 が使えます。
ベイジアンネットワーク は因果関係の分析に使われます。 ベイジアンネットワークによるデータの構造解析 によって、因果関係を自動的に見つける研究もありますが、基本的には ベイズ統計 のページにもあるように、どれが原因でどれが結果かは、人が指定して使うものです。
また、詳しくは if-thenルールと因果関係の関係 にまとめましたが、 アソシエーション分析 の矢印は、データの構造を表すもので、因果関係とは異なります。
これらの統計モデルは、結果が矢印を使ったグラフ(有向グラフ)で表される事もあるので、「 連関図 が自動でできる!」と思いたくなりますが、そうでもないです。
「因果関係の探索」では、結果を表す変数をYとして、 重回帰分析 などの教師ありの統計モデルを使うのがイメージしやすいと思います。 教師ありの統計モデルを使うには、「これが原因系、これが結果系」という風に変数が区別できている必要があります。
何かの結果が他の何かの原因になってい場合など、因果関係が複雑な場合では、 主成分分析 等の、いわゆる教師なしのモデルを使う手もあります。 原因系と結果系の区別をせずに解析してから、原因と結果の考察を進めるアプローチになります。
一般的なデータ解析は、相関がある2変数を見つけて、相関の性質を「発見」と考えて利用しようとします。 これが上記の、「相関関係から因果関係を見つける」の使い方です。
一方、その逆で、相関があるはずの2変数に相関がない時は、「異常」だったりしますので、注目した方が良い時があります。 この例として、 二重測定による判別能力の向上 があります。
「相関があるはず」と考えた理由と、実際には「相関がない」という事実のギャップから、 未知の現象がどのような理由で起きているのかを考察していくことで、因果関係を見つけます。
この解析は、「相関があるはず」という事を知らないとできませんし、データとして見えていることだけでは、進められません。 この点が、データ解析だけの専門家には難しい部分です。
「SPSSクレメンタインによるデータマイニング」 牛田一雄・高井勉・木暮大輔 著 東京図書 2003
データマイニング
の本ですが、多くのデータマイニングの本のように
マーケティング
関係ではなく、工場の原因解析にデータマイニングを使う話を紹介しています。
「統計学が最強の学問である[実践編] データ分析のための思想と方法」 西内啓 著 ダイヤモンド社 2014
因果関係を洞察するための手段としての統計学の使い方を解説している本です。
回帰分析
、
ロジスティック回帰分析
、
因子分析
、
クラスター分析
は、因果関係の仮説を見つけるための手段としています。
因果関係の検証の方法としては、ランダムサンプリングによる実験を挙げています。
「グラフィカルモデリング」 宮川雅巳 著 朝倉書店 1997
グラフィカルモデリング
の本ですが、データ解析の目的は因果メカニズムの究明として解説しています。また、因果推論のためのデータ解析の考え方もあります。
解析の目的が仮説探索や構造探索の時は、唯一無二のモデルを選択する必要はなく、モデル選択の過程自体が解析の道具としています。
データだけからは、相関はわかっても因果関係はわからない事については、
固有技術の立場からモデルを作って、そのモデルを検証するアプローチを解説しています。
ただ、そもそもモデルがわからない状況だからこそ、解決策を見つけるためにデータ解析を始めるので、
それが固有技術の知識でモデルを予め作っておくアプローチが広まらない理由と考えています。
「統計的因果推論 回帰分析の新しい枠組み」 宮川雅巳 著 朝倉書店 2004
同著者の「グラフィカルモデリング」よりも、数学的な記述が深くなっています。
また、前著にはほとんどなかった、有向グラフの話にかなりのページを割いています。
因果関係が量的変数の回帰モデルで表現できる場合の本です。
回帰モデルの使い方や有向グラフの使い方などがあります。
「グラフィカルモデルによる統計的因果推論」 宮川雅巳 著 日本統計学会誌 第29巻、第3号 1999
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10821860_po_ART0003562538.pdf?contentNo=1&alternativeNo=
30ページ近くあり、同著者の上記の本とほぼ同じ内容になっています。
「社会科学のリサーチ・デザイン 定性的研究における科学的推論」 G.キング、R.O.コヘイン、S.ヴァーバ 著 勁草書房 2004
副題が「定性的研究における」となっているのですが、内容は定量的な研究の話が多いです。
統計的な因果推論や
誤差
について、統計学的な考え方を説明しています。
この本では、定量的な分析方法を知った上で、「社会はこのようになっています」といった定性的な結論につなげるには、
どのようにしたら良いのかが説明されています。
定性的な説明の中にある、言葉や、言葉の間の関係を、統計学の考え方に当てはめることや、統計学を説明の裏付けにするのがポイントのようです。
ベイジアンネットワーク関係の文献は ベイジアンネットワークによるデータの構造解析 にあります。
「統計的因果探索」 清水昌平 著 講談社 2017
「因果関係があれば、データの構造はこうなる」という事を前提にした理論のようです。
独立成分分析
も出て来ます。
「統計的因果推論 モデル・推論・推測」 Judea Pearl 著 黒木学 訳 共立出版 2009
ベイジアンネットワーク
や
SEM
の中での交絡の扱い方などの話があります。
この本は、確率的な因果モデルの本、と言えそうです。
哲学的な話や、論理学的な話が、独特な言い回しで展開されていて難解です。
因果関係にはANDとORがある話や、必要条件と十分条件の違いがある話もあります。
「因果推論の科学 「なぜ?」の問いにどう答えるか」 ジューディア・パール、ダナ・マッケンジー 著 文藝春秋 2022
著者の周囲では、この本の書かれた20年前でも、原因と結果の関係について質問することは、非科学的な議論だったそうです。
(著者は、この事を社会全体の状態のように書いていますが、ビジネスの分野では原因についての議論は日常的なものなので、
統計学を使う学問分野の話と思います。)
因果のはしごの3段階は、1「関連付け」、2「介入」(見たものに対して、対応を決められる)、3「反事実」(「こうしなかったら」が考えられる)
確率の上昇という考え方が出て来ます。これは、何かによって確率が上がれば、その何かを「原因」と見なす考え方です。
この本の後ろ方で出て来る「媒介」というのは、この考え方の延長のようです。
直接的原因と間接的原因の2つに分けて、間接的原因は媒介があったものと考えます。間接的原因の方を、上記の「何か」の位置付けにします。
反事実は観測できないものですが、この本では、反事実が起こった場合も計算できる手法があると説明しています。
これは、どんな反事実でも当てはまる話ではなく、媒介があるようなケースのようです。
ただ、媒介があるケースだとしても、反事実が観測できないということは変わらないように、筆者は考えています。
それは、薬を飲んだ人のデータしかない時に、薬を飲まなかったらどうなるかはわからないという意味です。
媒介があるケースのデータとしても、媒介のある場合のデータしかなかったら、「媒介がない場合」というのは、わからないと思います。
著者は、モデルがあれば、反事実の場合がある場合も計算できるとしています。
それはそうだと思うのですが、反事実のデータがない場合に、そのモデルをどのように作るのかが読み取れませんでした。
Aさんが、薬を飲んだ人で、「Aさんが薬を飲まなかったら」と考えようとしたら、薬を飲まなかった人の結果から推定するしかないと思います。
それならわかるのですが、薬を飲まなかった人がいなくても、この推定ができると著者が説明しているのか、説明しているのなら、なぜそれが成り立つのか、
といった点が読み取れませんでした。
「構造的因果モデルの基礎」 黒木学 著 共立出版 2017
この本の著者は、上記の本の翻訳者です。この本も難解でした。
ベイジアンネットワーク
自身が因果を表すモデルではない事は、はっきりと述べられています。
では、「因果を表す数理とは何か」、という事になりますが、読み取れませんでした。
「つくりながら学ぶ! Pythonによる因果分析 因果推論・因果探索の実践入門」 小川雄太郎 著 マイナビ出版 2020
この本の特徴は、紹介している方法をPythonで実行することができて、著者のGithabから簡単にコピーして使えるようになっているそうです。
また、Pythonの実行環境は、Google Colaboratoryを使っていて、Pythonを自分でのパソコンではなく、無料の外部環境で使う方法を紹介しています。
この本での、「因果推論」とは、原因の違いによる結果の大きさの違いを定量的に計算する方法でした。
バックドアなどの知識を使って計算します。
この本では、この計算をする方法として
重回帰分析
を紹介して、次に、
ランダムフォレスト
を使った非線形な場合も紹介しています。
シンプルな
回帰木
については、ランダムフォレストの説明のために少し出てくるだけで、これを使った定量的な計算は、説明が飛ばされています。
また、この本での、「因果探索」とは、変数間で因果関係の矢印がわからない場合に、この矢印を見つけるための方法でした。
この方法として、
LiNGAM
、
ベイジアンネットワーク
、
ディープラーニング
の3つを紹介しています。
ディープラーニング : SAMというディープラーニングの一種の方法を使うと、
隣接行列
が求まるそうです。
これを使って、有向グラフを作ることができます。
順路
次は
隠れ変数の探索