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誤差の伝播

誤差の伝播は、 工程能力 の改善などのために、 誤差の原因 を追究しようとする時に、必要になる事があります。

また、 数理モデリング で作ったモデルを実際のデータで検証する時の、誤差の見積りでも必要になる事があります。

標準偏差を使った計算の注意

誤差 は、標準偏差で表します。よくある間違いなのですが、 標準偏差同士は、足したり、引いたりすることはありません。

誤差の原因が複数あって足し合わされている場合、それぞれの標準偏差の2乗(分散)を足し合わせた値をルートしたもの、つまり、二乗和の平方根が、 合成した誤差になることが多いです

「多いです」と強調したのは、二乗和の平方根ではないケースがあるためです。 二乗和の平方根で表せるのは、誤差の足し合わせ方が、比較的簡単な場合になります。

簡単にならないのは、Yが複数のXの単純な足し算や引き算ではない場合と、X同士が独立ではない場合があります。 前者については、誤差の伝播の計算が必要です。 後者は交互作用項を考慮する事になります。(筆者の経験では、交互作用項を無視した事で、結論がおかしくなった事はないです。)

誤差の伝播

Yが、3つのXで表される関数だとすると、一般的な式は、

になります。

YとそれぞれのXの誤差を「e」と書くと、Yの誤差は、

という式で導かれます。

これは、「誤差の伝播(でんぱ)」や、「合成標準不確かさ」と言われる理論になっています。

和の式と差の式の誤差

和の式(X1 + X2)の誤差を、それぞれの誤差から計算する方法は、

という式で導かれます。

この和の式は、例えば、本体とふたのそれぞれの高さの誤差がわかっている場合に、 両方を合わせた高さの誤差の計算になります。

和の式は、二乗和の平方根を計算していますので、上記の「標準偏差を使った計算の注意」と、計算は一緒です。

ちなみに、差の式(X1 - X2)の場合でも、誤差の計算式は同じになります。 この式は、 対応のある検定 でも使います。

正方形の面積の誤差

正方形の面積の誤差を、一辺の長さの誤差から計算する方法は、

という式で導かれます。

この例は、合成された誤差の式が、二乗和の平方根になっていない例になります。

濃度の誤差

濃度の高い液体を、水を足して濃度を低くして作られている製品があるとします。 この製品の 工程能力 を改善するために標準偏差を小さくしたい場合を考えます。

調整後の濃度をY1、調整前の濃度をY0、調整前の全体の量をW0、調整用の水の量をWwが、測定してわかる量とします。

液体に含まれている成分の量を、Waとすると、
Wa = W0 * Y0
です。
よって、
Y1 = Wa / (W0 + Ww) = W0 * Y0 / (W0 + Ww)
となり、測定してわかる量の関係が式でわかります。 また、この式を変形すると、Y1、Y0、W0の測定値を使って、調整用の水の量Wwを計算することができます。

こういう説明をすると、Y1ぴったりではない製品はできないように思えますが、実際はばらつきます。 それは、4つの測定値のそれぞれがばらつく事が理由です。 濃度の測定のばらつきは、調整後の製品を測定する時だけでなく、調整前の製品を測定する時にも影響しています。

煩雑な計算になるので省略しますが、こういった複雑な式でも、誤差の伝播は求めることができますので、 調整後の製品の濃度のばらつきが、4つの測定値のばらつきのどれが原因なのかを追究することができます。 ばらつきモデル による シミュレーション をするアプローチもあります。

繰り返しになりますが、4つの測定値の標準偏差の二乗和の平方根ではないことには、注意が必要です。



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