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圧電素子の鉛フリー化と、第一原理計算

このページは2001年頃に見聞したことを、思い出しながら書いています。 うろ覚えの所もありますので、間違いがありましたらご指摘ください。


「鉛フリー化」とは、鉛の入っていない製品にすることです。 鉛は、工業製品にとって、重要な元素です。 昔は化粧品(おしろい)に入っていたそうですし、 屈折率の高い美しいガラスを作るために、昔から使われています。

鉛の有効性が知られる一方で、鉛の健康被害も知られるようになりました。 そして、 RoHS に代表される鉛の使用規制が本格化したこともあり、 「鉛フリー化」は、いろいろな工業製品の課題になりました。 圧電素子の鉛フリー化もそのような課題のひとつです。

圧電素子とは

圧電素子とは、簡単に言えば、「圧(圧力)」と、「電(電気)」を変換する電子部品です。 圧電素子は、圧電セラミックスの性質を利用しています。

圧電セラミックス

圧電セラミックスは、その名の通り、セラミックスの一種です。 現在のセラミックスは、刃物として利用されたりもしますが、 もともとは、陶磁器(焼き物)です。 高温の炉(窯)の中で、原子同士を結合させる方法(焼成)は、今も昔も基本的に変わりません。

圧電セラミックスの使い方は、「圧力をかけて、電気を作る」と、 「電気を流して、圧力を作る」の2つです。

圧電素子の鉛フリー化は難しい

「圧」と「電」を変換する能力が大きなセラミックスを使うと、良い圧電素子ができます。

ところが、良い圧電素子には鉛が入っています。 鉛の入っていない圧電素子では、性能が不足します。 これが、「圧電素子の鉛フリー化」が騒がれた発端です。

代替物質の発見に向けて、多くの研究者や企業が様々な物質の配合を試みたものの、 「成功した」という話は、当時は聞いていません。 「わからない。。。」という話ばかりでした。

第一原理計算による圧電セラミックスの研究

第一原理計算 を学ぶと、Vanderbilt氏がファーストオーサー(筆頭執筆者)や、 セカンドオーサーになっている論文にたくさん出会います。 それらの論文のひとつに、 「鉛の有無で、圧電セラミックスの電子状態はどのように違うのか?」を調べたものがあります。 たしか、Vanderbilt氏がセカンドオーサーになっていたと思います。

それによれば、鉛を使っている圧電セラミックスでは、電子が原子核近傍に凝集しているのに、 鉛を使っていない(違う元素を代わりに使っている)圧電セラミックスでは、凝集がないそうです。

第一原理計算による圧電素子の鉛フリー化

上記の研究は、「鉛が入ると、電子状態が違う」ということを明らかにしただけです。 「電子状態の違い」と「圧電性能の違い」が関係しているのかどうかはわかっていません。

しかし、もしも、電子状態の違いが圧電性能の違いを決めているのなら、 鉛と同じような電子状態を示す物質が見つかれば、「代替物質の発見」になるかもしれません。

鉛の代替物質を、現物の物質を使って実験的に見つけることは、難しいと言われます。 しかし、「鉛と同じ電子状態の物質を探す」という、第一原理計算による シミュレーション によって、見つかる可能性があります。 (ただし、代替物質が見つかっても、その後で、焼成方法の検討があります。 物質の配合率がわかっていても、焼成方法がわからなければ、 セラミックスとして本当に作れるかどうかがわかりません。)

圧電素子の鉛フリー化のその後

上記は、筆者の見聞したことです。 当時は、第一原理計算と、セラミックスと、 環境の分野を別々に学んでいたので、それらがつながることは、筆者にとって面白い経験でした。

圧電素子の鉛フリー化は、筆者の修士論文のテーマの候補になりました。 しかし、最終的には他のテーマを選んだので、上記よりも深くは研究しませんでした。

当時、「鉛フリー化」は実現していません。 この後にどうなったのか、「代替物質は見つかったのか?」、「第一原理計算は貢献したのか?」、 等々は、筆者がこの分野から離れたため、追いかけていません。

レアメタルがますますレアになっている昨今では、 レアメタルの代替物質を探すための方法としても、 多分、使われているのではないかと思います。


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