トップページ | ひとつ上のページ | 目次ページ | このサイトについて | ENGLISH

ゲージR&R

ゲージR&R(Gage R and R)は、測定の能力を評価するための手法です。

繰り返し測定して、標準偏差が0.1mmになる測定方法があるとします。 この「標準偏差が0.1mm」という大きさが欲しい能力として十分なのかどうかを判断するための方法が、ゲージR&Rになります。 例えば、「部屋の広さを測る方法としては十分過ぎる」、「電子部品の中を測る方法としては不十分」と言った使い方になります。

製造業におけるゲージR&Rの位置付け

測定能力が十分かどうかについて、上記の例では、 測りたいものの大体の大きさを分母にして、繰り返し測定の標準偏差を分子にしています。

この計算をした時に、感覚的には0.1よりも小さければ、「能力は十分」と判断して良さそうですが、 1よりも大きかったら、「全然ダメ」ということになります。

ゲージR&Rを使わなくても、このような方法で測定能力の評価はできますが、 ゲージR&Rでは、こういった方法の手順や判断指標が決められていて、製造業では公式の方法として知られています。

2つのR

ゲージR&Rには、Rが2つありますが、Repeatability(繰り返し性)とResponsibility(再現性)です。 上記では、測定の能力として繰り返し性の話しかしていませんでしたが、ゲージR&Rでは、再現性も評価します。

繰り返し性は、単純に同じ測定を繰り返した時の誤差です。 再現性は、測定者が違うことによる誤差と言われますが、測定のための準備の過程全体の誤差を指すこともあります。

ゲージR&Rでは、測りたい範囲に対して、繰り返し性と再現性を合わせた標準偏差が、どの程度の割合であるのかを評価します。

ゲージR&Rの方法

具体的には、いくつかのサンプルを、複数の測定者が、それぞれ同じ回数ずつ測ります。

そうして得られたデータを 二元配置分散分析 で分析します。 二元というのは、サンプルと測定者の2つになります。

二元配置分散分析すると、サンプルの違いによるばらつき、測定者の違いによるばらつき(再現性)、繰り返しによるばらつき(繰り返し性)の3つが求まります。

全体のばらつきは、これらの3つのばらつきが合わさったものです。 全体のばらつきを分母にして、再現性と繰り返し性を足したものを分子にした量を計算して評価していきます。

改善ポイントの抽出

まずは、測定方法の能力が十分かどうかを判断します。 ここで、「不十分」となった時に、その原因が繰り返し性と再現性のどちらなのかは、計算結果を見ればすぐにわかりますので、  改善ポイントの方向性は決まります。

ゲージR&Rで評価するもの

ゲージR&Rでは、%R&Rとndcの2つが代表的な尺度です。両者は、表裏一体の関係になっています。 %R&Rは、測定システムの標準偏差を、データ全部の標準偏差で割った値です。 ndcは、サンプルの標準偏差をデータ全部の標準偏差で割った値に1.41をかけた値です。

ゲージR&Rで評価するものは、例えば、製品の規格が90から100の間になっている時に、90に近い製品と、100に近い製品をどれだけ精確に区別できているのか? 、というものです。

実際にやる時の難しさ

実験数の設定

ゲージR&Rをするには、実際にたくさんのサンプルを測る必要があります。 サンプルを用意するのが大変だったり、測るのが大変な場合は、できるだけ実験数を少なくしたいですが、 数が少ないと結果が不安定になりやすいです。

サンプルの選び方

全体のばらつきを分母にするため、サンプルの違いによるばらつきが小さいと、悪い評価になりやすいです。 そのため、サンプルの選び方が重要です。

目安としては、測りたい範囲の上限と下限の間に入るようにサンプルを選ぶ方法があります。

サンプルの選び方で、分母が変わることで悩まないための方法として、許容差(Tolerance)を使う方法もあります。 許容差の計算でと、分母を規格値の上限と下限の差にします。 そのため、サンプルの選び方に依存しなくなり、結果の考察がしやすいです。

等分散の仮定

欠点数など、世の中には、数が大きいと測定ばらつきも大きくなる測定値があります。  ゲージR&Rでは暗黙の内に等分散が仮定されているので、対象物によっては、サンプルの選び方に工夫が必要です。

欠点数が0かどうかが重要な測定なのに、欠点数が1000のサンプルが入っているような分析をしていると、目的とずれてしまいます。

ソフト

二元配置分散分析を使うので、Excelでもやろうと思えばできなくはないようです。 Excelを使ったツールを公開している方もいらっしゃいます。

一番手軽に、ゲージR&Rをやってみる方法としては、 R-QCA1 が良いかと思います。 1列目に測定値、2列目にサンプル名、3列目に測定者名が入っているCSVファイルを用意しておけば、簡単に結果が出せます。
ウェブアプリ R-QCA1

RによるゲージR&R」には、コードが書いてあります。



参考文献

筆者が初めてゲージR&Rを実施した2005年頃には、書籍だけでなく、ネットをいくら探しても、英語のサイトを探しても、 「ゲージR&Rとは」といった解説が見つかりませんでした。 そのため、当時は、先輩社員に聞きながら、データを集め、ソフトにいれて結果を出すだけで精一杯でした。
2021年の時点でも、書籍で解説されているのをまだ見たことはないのですが、ネットでは記事がたくさんあります。 以下は、その中のいくつかになります。


シグマアイのページ
https://sigma-eye.com/2019/04/11/grr-anova/
計算式が丁寧にまとまっています。


econoshift.comのページ
https://econoshift.com/ja/gage-rr-template/
実際にやる時の考え方や、エクセルを使ったテンプレートがあります。


日科技研のホームページ
https://www.i-juse.co.jp/statistics/support/faq/method-process.html因
実際に実行する時に起こる疑問への回答がまとまっています。


順路 次は 誤差の原因

データサイエンス教室